7-6 シュナ
町の南区で銀行に寄り、イヨとレドナーがお金を下ろしました。
かなりの多額のようです。
これからスキル書を買いに行くので、どうしてもお金がかかりますね。
ご飯屋さんに行くのは、スキル書屋に行った後です。
四人で歩いて行くと、店の玄関前でラサナが椅子に腰掛けていました。
ポカポカと暖かい日なので日向ぼっこをしていたようです。
茶色いローブを着ていますね。
僕たちが近づくと、ラサナは気づいてくれて右手を上げました。
「あら、イヨちゃんたちじゃないかい。こんにちは」
「ラサナさん、こんにちは」とイヨ。
「ラサナニャーン」右手をぴょこんと上げるヒメ。
「こんにちは」と僕。
「おう、ラサナさん」とレドナー。
女性たちが近況報告を始めましたね。
少しして、ラサナが満面な笑顔で言ったっす。
「そう言えば四人とも、注文していたスキル書が届いたよ!」
「本当?」
「本当かニャン!?」
「マジですか?」
「よっしゃあ!」
みんなが頬に笑みをたたえます。
ラサナが椅子から立ち上がりました。
「ああ、いま、持ってくるからねえ。それ、どっこいしょっと」
玄関から入っていきます。
僕たちもその背中に続きました。
カウンターの前に集まる四人。
ラサナはカウンターの奥の部屋に行き、スキル書が何冊も入った紙袋を持ってきます。
紙袋から取り出して、カウンターの上に並べました。
僕たちはスキル書のタイトルと張り紙を読みます。
召喚、スライム三冊(ヒメ用)。
イリュージョン(イヨ用)。
力溜め(テツト用)。
ウインドムーヴ(レドナー用)。
はらはら回避三冊(ヒメ、イヨ、レドナー用)
ラサナは椅子に座り、そろばんを弾いて値段を計算しています。
イヨが言ったっす。
「ラサナさん。追加でプチバリア四冊と、カウンターが一冊欲しいの」
「おやおや、イヨちゃん。そんなにたくさん買って、お金は大丈夫かい?」
心配したようなラサナの声。
イヨはコクりと頷きました。
「大丈夫です」
「……そうかい。分かったよ。今持ってくるからね! ほれ、どっこいしょ」
ラサナが立ち上がり、カウンターを出ました。
スキル書の本棚から、イヨの注文した五冊を持ってきます。
ちなみにそれはヒメ用っす。
ヒメのバリアスキル習得は、昨夜みんなで話し合って決めたことですね。
ラサナはまたそろばんを弾き、計算をしました。
「ええと、召喚スライムが一冊100万、イリュージョンが180万、力溜めが60万、ウインドムーヴが180万、はらはら回避は一冊20万、プチバリアが一冊20万、カウンターが60万、合計すると、920万ガリュさ」
「かなりするニャンね~」ヒメの怖々とした声。
「買います。テツト、リュックからお金を下ろして」とイヨ。
「分かりました」リュックを肩から下ろす僕。
「金が飛んで行くなあ」とレドナー。
今回、ラサナは値引きをしてくれないようです。
値段が高額なだけに仕方ないですよね。
僕たちが720万ガリュ、レドナーが200万ガリュを支払います。
ラサナが指を舐めて、お札の計算を始めました。
僕たちはそれぞれ手に持って、習得を実行します。
これで僕は、一生懸命の進化軸にある力溜めを覚えたっす。
「これであたしもトライアングルバリアが使えるニャンよ~」無邪気に喜ぶヒメ。
「よっしゃー、強くなったぜー」とレドナー。
「お金、かなり使っちゃった」とイヨ。
「イヨ、仕方ないっす」彼女の肩に手を置く僕。
計算を終えたラサナが怪訝な表情で聞きました。
「イヨちゃん、どうやってこの短期間で、そんなにお金を稼いだんだい?」
「もちろん傭兵の仕事をして、です!」
ニッコリと微笑むイヨ。
キュートスマイルです。
可愛いっす。
神っすねー。
マグマ鉱床のことは秘密でした。
イヨが三人を見回して言います。
「それじゃあみんな、ご飯を食べに行きましょうか」
「んにゃん!」
ヒメが笑顔で返事をします。
四人で店を出ました。
後ろからラサナの心配そうな声がかかったっす。
「四人とも、お金の使い方には気をつけるんだよ」
「分かりました!」
イヨが顔だけ振り返って返事をしましたね。
そこからはレドナーが先頭を歩き、ご飯屋さんへ連れて行ってくれたっす。
大通りを出て少し歩きましたね。
女性ものの服屋の隣の店でした。
ヒマワリ亭という看板が出ています。
「ここだ」
レドナーが笑顔で振り返りました。
その鼻がちょっと赤いです。
「シュナのお店ニャーン」とヒメ。
二人はこのお店に来たことがあるようですね。
あのデートの日なのでしょうか?
シュナとは誰でしょう?
ふと、店内から喧嘩のような騒がしい声が聞こえました。
ハーフツインの黒髪の女性が肩をいからせて玄関から出てきます。
店長のような厳格な雰囲気のある男性と言い争っていますね。
「店長! 私の味つけの何がいけねえって言うんだ!」とハーフツインの女性。
「シュナさん。貴方に厨房を任せたのは間違いでした」と店長。
「私はただ、こっちの方が美味えと思って、味付けをプラスしただけじゃねーか!」
「シュナさん、勝手に私の味付けを変えられては困ります。貴方はもう来なくてかまいません」
「へっ! 良ーよ別に! こんなしょぼくれた店に勤め続けるなんて、こっちから願い下げなんだよ!」
「そうですか。では、さようなら」
「ちょっと待て! 今月私が働いた給料だけは払ってくれ!」
「……いま持ってきます」
店長が店を引き返して行ったっす。
ハーフツインの女性に、レドナーが声をかけました。
「ね、姉ちゃん?」
「あん? おう、レドナーじゃねえか」
こちらに体を向ける背がとても低い女性。
ヒメよりもちっこいです。
「「姉ちゃん?」」イヨと僕の疑問の声が重なりました。
「シュナ、クビになったのかニャン?」ヒメはシュナと知り合いのようです。
「ようヒメさん。それと、知らないお二人。私はレドナーの姉のシュナだ。メシを食いに来たのならすまねえな。私いまクビになっちまった」
「姉ちゃん、大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫っ。これからまた新しい職場を探すってことさ」
また店長が玄関にやってきました。
茶色い封筒を持っており、シュナに渡します。
シュナが乱暴にそれを受け取り、店を離れて歩き出しました。
僕たちもその背中に着いています。
ヒマワリ亭からかなり離れたところでシュナが立ち止まりました。
僕たちは向き合って会話をします。
「姉ちゃん、これから仕事をどうするんだ?」
「とりあえず、新しい職場を探す。どこかに美味い料理屋があれば良いんだけどなー」
「それなら、キテミ亭はどうですか?」イヨが提案しました。
「キテミ亭は、ちょっとパスだな……」顔を俯かせるシュナ。何か理由がありそうです。
「じゃあ、ジャスティンたちと一緒にラーメン屋をやれば良いニャンよ~」とヒメ。
「ラーメン屋?」シュナがびっくりしたような声で言いました。
「今、うちのアパートの隣の部屋の人が、バルレイツのご当地グルメを作って、店をやろうとしているの。ラーメンっていう料理を作るみたいなんだけど」とイヨ。
「ラーメンって、聞いたことねえなあ。どんな料理なんだ?」とシュナ。
「ラーメンは良い香りニャン」とヒメ。
「まあ、確かにラーメンは美味いっす」と僕。
シュナはうーんと唸りながら頭を悩ませているようでした。
彼女が言います。
「とりあえず、そのラーメンってのを見て食ってみないことには、決断できないな」
「テツト、ここでテツトの特製ラーメンを作るニャンよ~」とヒメ。
「ヒメ、無理だよ。僕は文化祭の出し物ぐらいでしかラーメンを作ったことが無いから」と僕。
「んにゃん~、テツト頑張れニャンニャニャン」とヒメ。
「シュナさん。ラーメンって言うのは、スープに麺の入った料理のことです」と僕。
「スープか? それは結構、味の濃いスープなのか?」シュナが眉をひそめます。
「味の濃さというよりも、麺に良く絡むスープだと思います」僕はあまり知識が無いので自分の言葉に自信が無いっす。
「じゃあ作ってみよう」とシュナ。
「姉ちゃん、もう作るのか?」とレドナー。
「当たり前だろ! 私はもう今日から職場が無いんだ。よし、今からヒメさんの家に行こう。そこでキッチンを借りる」とシュナ。
「本当にやるの!?」びっくりしたイヨの声。
シュナは大真面目でした。
それから僕たちは巡行狼車に乗り、町の北区を目指します。
北区の停留所到着すると、帰宅する前に食材屋に寄りました。
強力粉、薄力粉、かん水、卵などの麺を作る材料、他にもスープを作る材料をシュナが買いましたね。
地球にいた頃、僕は中学校の文化祭の出し物でラーメン屋をやったことがあります。
そのおかげでほんの少し知識があり、必要な材料についてアドバイスをできました。
他にもすぐに食べられるパンやお惣菜をみんなで買って帰ります。
結局、この日はうちで昼食を食べました。