1-12 暗転
マーシャ村への帰り道。
山道を歩いていましたね。
肩を並べる三人。
日がだいぶ傾いていました。
「ふんふんふーん」
朝と同じように、ヒメが鼻歌を歌っています。
イヨがため息をつきました。
「私、弱い」
悲しそうな顔す。
傭兵試験に失敗したことが響いているみたいです。
ヒメが慰めるように言いましたね。
「イヨ、これから強くなれば良いだけだニャン」
「そうだけど。ダリルさんと、あんなに力の違いがあるとは……」
「イヨ、鍛えるニャーン」
「うん」
僕も何か良い言葉をかけてあげたかったっすけど。
思いつかないですね。
こういう時、自分がふがいないと思います。
実際そうかもしれません。
ヒメが聞きました。
「いつから町に引っ越すニャン?」
「村の家の整理が終わったら、行く」
「整理が終わるのはいつ頃ニャンか?」
「んー」
顎を触るイヨ。
続けて言います。
「一週間後くらい」
「んニャン。了解ニャン」
「うん。それまでは、今までと同じように暮らす」
「山でオークとゴブリンとイノシシ狩りだニャン」
「そうね」
イヨがうふふと笑います。
そこで彼女は気づいたように、僕に顔を向けましたね。
「そうだ、テツトくん」
「何ですか?」
僕はイヨを見たっす。
彼女が人差し指を立てます。
「明日、お岩さまを倒しに行こう」
ヒメの興味津々な両目がくりくり。
「お岩さまって、何ニャン?」
イヨが指を下ろして、
「この山の頂上にいるモンスターのゴーレム。村の人はみんなお岩さまって呼んでる」
「強いニャン?」
「強い」
「テツト、お岩さまを倒すニャーン」
僕は苦笑したっす。
「倒せればいいけどね」
「お岩さまはスキルを使うから」
イヨのつり目が、僕を試すように見ました。
ヒメが嬉しそうに微笑します。
「お岩さまを倒せば、またスキル書を落とすニャンか?」
イヨが頷きましたね。
「うん」
「ここは倒しておくニャン」
「そうそう」
「明日行くニャン」
「うふふ、そうね」
僕は顔をひきしめました。
「みんなで頑張ろう」
「あー、なんか楽しくなって来たニャン!」
ヒメがくるくると回転しながら前に出ます。
「ふんふんふんふーん」
僕は注意するように、
「おいヒメ、危ないぞ」
「あたしを、捕まえてみなさーいだニャーン ふんふんふーん」
イヨと僕が顔を向け合って微笑します。
ヒメが言ったっす。
「三人で、町に家を買うニャン。毎日美味しい物を食べて、毎日日向ぼっこしながら暮らすニャーン。楽しみだニャン、楽しみだニャン」
ヒメの幸せそうな顔を見るとですよ。
イヨも僕もほっこりしますね。
やがて村に着いたっす。
日はまだ落ちきっていません。
夕暮れです。
イヨが疑問そうにつぶやきましたね。
「あれ?」
「イヨ、どうしたニャン?」
「まだこんな時間なのに、村の人がいない」
確かに、通り道にも畑にも人がいないっす。
イヨの顔色がどんどん青ざめていきます。
「まさか?」
走り出しました。
「ニャン?」
「イヨさん?」
ヒメと僕が追いかけます。
イヨの家に到着しました。
彼女が呆然と立ち尽くしています。
家は、一階がつぶれていました。
二階の建物が下に落ちたような格好す。
ボロボロに破壊されたレンガの壁。
いったい何で叩かれたんですかね?
レンガの横にあった木は、幹が斬り落とされていました。
「どうして?」
イヨが家を回って、畑に行きます。
「どういうことニャン?」
ヒメの瞳がわなわなと震えていたっす。
僕らも畑を見に行きました。
野菜が全て掘り起こされ、盗まれていますね。
イヨは両ひざをがっくんと落としました。
「どうしてなの……」
「ひどいことをする奴もいるもんだニャン ふぅぅううう!」
ヒメが怒りの鳴き声を上げました。
「何があったのか、近所の人に聞いてみますか?」
僕は提案しました。
自分で聞くこともできないくせに、です。
ちなみに近所の家は破壊されていません。
イヨが地面をグーで叩きます。
「ギニースよ」
その声には憎しみがこもっているっす。
「ギニースニャン?」
「私が結婚しないからって、ギニースは自分のお父さんに頼んで、私の家を、破壊したんだわ」
「ギニースは悪い奴だニャン! テツト、懲らしめてくるニャン!」
「……そうだね」
イヨが立ち上がりましたね。
「とりあえず、村長さまの家に行ってみる」
「それが良いニャン!」
「ヒメちゃんとテツトくんも、着いてきて」
「行くニャン!」
「分かった」
また三人で歩き出しました。