表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/147

7-4 これぞ魔族のグルメ道(ルル視点)



 みなさん、ごきげんよう。

 最近、ルルたちは悩んでいるの。

 あの丸眼鏡の女に、町のご当地グルメを開発しろなんて言われたけど。

 ジャスティンはまだ開発できていない。

 どだい無理な話なのよ。

 ジャスティンとルルは料理人って訳じゃないんだから。

 早朝。

 空は晴天ね。

 目の前には広々とした畑がある。

 いま育っている野菜は、長ネギ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ、キャベツ、カボチャ。

 直物成長のスキルのおかげで、季節とは違う野菜を育てることができていた。

 隣にはすらっと背の高いジャスティンがいる。

 彼の右手には緑色のジョウロ。

 軽快な声を響かせた。

「おいルルー。俺様は良いことを思いついた」

「何を思いついたのよ」

 ルルは彼の顔を見上げる。

 ジャスティンはニヤリと笑みを浮かべた。

「決まってんだろ。ご当地グルメのことさ! はっはー。今ここに植えてあるニンジンやジャガイモ、カボチャを薄くスライスして、油で揚げる。カリッとした食感と野菜の風味がたまらなく美味しい、野菜チップスの完成だぜ!」

「それってお菓子にならない?」

 ルルは首を傾げた。

 眼鏡女が所望しているのは製菓じゃなくて、たぶん調理された料理よね。

 ジャスティンが睨み付ける。

「なんだとぅ!」

「させないわ!」

 お尻を叩かれそうになって、ルルは両手で防御する。

 彼は舌打ちをして、難しそうな顔をした。

「ったくー。グルメの開発なんて簡単だと思ったんだが、思ったより難しいぜこれはー。おいルル、お前の故郷に良い料理は無いのか?」

「ログレスの荒野で有名なのは、鶏の丸焼きかしら」

「そりゃあ、ずさんな料理もあったもんだなあおい」

「タレに漬け込まれていて、甘辛くて美味しいのよ」

「ふーん、じゃあそれにするか!」

「他人の郷土料理をパクんないで欲しいわ」

「何だとぅ」ルルのお尻を右手で狙うジャスティン。

「甘いわ!」また防御する。

 ジャスティンがポケットからタバコの箱を取り出した。

 一本くわえて、マッチで火をつける。

 シュボッ。

「ルル、とりあえず、朝仕事を済ませちまってくれ」

「良いけどさ」

 ルルは畑に向かって両手を突き出す。

 唱えた。

「植物成長!」

 畑全体が緑色の光に包まれる。

 やり過ぎると野菜が枯れるから、慎重に行う。

 ルルは両手を下げた。

「今日はこんなところね」

「よしっ、ナイスだぞ、ルルー」

 ジャスティンがタバコの煙をくゆらせる。

 続けて言った。

「それじゃあ帰るか」

「うん」

 ルルたちは振り返り、並んで歩き出す。

 最近はいつもそうなんだけど、ジャスティンの口数が少ない。

 彼はグルメ開発のことで頭がいっぱいみたいなの。

 ルルが何とか助けてあげたいけど、料理の分野には知識が無い。

 いっそのこと、キテミ亭の亭主にでも頼んで、手伝ってもらった方が良いんじゃないかしら?

 あのお店、美味しいし。

 道を歩いて行くと、いつものようにテツトたちの朝練風景に出会う。

 いま、ヒメとイヨが向き合って稽古をしている。

 道ばたに立って、テツトとレドナーが二人を見つめていた。

 テツトが難しい顔つきをしている。

 この一家、昨日は遅くまで騒いでいたみたい。

 会話の声で分かったわ。

 レドナーも来ているところからして、何かのパーティだったのかしら。

 ヒメが唱えた。

「ネズミ狩りアタックだニャーン!」

 スキルというわけでも無いのに素早い突きを繰り出している。

 今のは何なの?

 ただのかけ声かしら。

 突きを右肩に受けるイヨ。

「痛っ!」

「続けて、ネズミ狩りの舞いだニャーン!」

 ヒメは横に一回転。

 五連続の突きを瞬時に繰り出した。

 ドスドスドスドスドス!

「見切り三秒!」

 イヨの体が青い波動に包まれる。

 突きの全てを紙一重で回避した。

 ヒメがまた唱える。

「スローニャン!」

 紫色の魔石のついた杖が光る。

 あれはデバフの成功率を上げる色の魔石よね。

 イヨの体に紫色の輪っかが出現する。

「くっ!」

「続けて、ポイズンニャン!」

 イヨの肌が緑色に染まる。

 おかしくてルルは笑っちゃった。

 スローにポイズンもかけられたら、さすがに負けちゃうわ。

 ヒメが杖を上から振りかぶる。

「もらったニャーン!」

 コツン。

 手加減した杖がイヨの頭を軽く叩いた。

 あら。

 イヨの負けね。

 ヒメに負けるなんて、イヨは弱いのかしら。

 今度ルルが練習相手をしてあげてもいいけど……。

 いつもミカロソースを貸してもらっているし。

 ヒメがイヨにキュアポイズンをかけてあげていた。

 立ち止まっていたジャスティンが、陽気な足取りで三人に近づいていく。

 右手を上げた。

「よっ、おはよー、四人とも!」

「ジャスティン、おはようだニャーン」ぴょんと右手を上げるヒメ。

「「おはようございます」」とテツトとレドナー。

「私、弱いわ……」イヨは打ちひしがれている。

「おはー」ルルもジャスティンの横に並ぶ。

 ジャスティンがイヨに教えるように言った。

「はっはー、お嫁さん。お嫁さんはスキルの使い方がなってねえなあ」

「スキル、ですか?」とイヨ。

 二人が会話を始める。

「ああ。まず剣技ってのは天才でも無い限り、すぐに上達したりしないんだ。それこそ年単位で時間がかかる。では素人がすぐに強くなるにはどうすれば良いかというと? 答えはスキルだ。良質なスキルをたくさん覚えること。スキルをタイミング良く、臨機応変に使えるようになること。そして演技力も大事だ。自分は何もしませんよー、と見せかけつつシールドバッシュ。これで決まりってことさ」

「あ、はい!」

「後は、誰かに、年単位で剣を習うってことぐらいだな」

「アドバイスをありがとうございます!」

「良いって良いってー。おっとそれよりお嫁さん、いま俺たちはミルフィさんに頼まれて、バルレイツのご当地グルメを開発しようとしているんだが、何か良いアイディアはねーもんかなー?」

「ご当地グルメですか?」 

 イヨがあんぐりと口を開ける。

 ヒメが右手を元気に上げた。

「それなら、ラーメンを作れば良いニャンよ~」

「「ラーメン?」」ジャスティンとルルとイヨの疑問の声が重なる。

「ラーメンって?」とレドナー。

「ヒメ、ラーメンは無理だよ」

 テツトとレドナーがこちらに歩いてきた。

 ジャスティンはヒメに聞いた。

「お嬢さん、ラーメンっつうのは、どういった料理なんだい?」

「んにゃん! ラーメンはにゃんねー、スープに麺の入った料理だニャン。あたしは食べたことないけど、テツトとパパとママがよく食べていたニャンよ~。すごく美味しい香りニャン」

「詳しく教えてくれ。おいルル、メモだ!」ジャスティンが振り向く。

「ジャスティン、その、ラーメンってのを作る気なの?」ルルはポケットからメモ帳とボールペンを取り出す。

「ラーメンなんて、知らない料理だわ」とイヨ。

「俺も知らねー」とレドナー。

「ラーメンは無理だよヒメ」とテツト。

「でもラーメンはとっても良い香りだニャン」とヒメ。

 ジャスティンがテツトに向き直る。

二人が話し出した。

「テツト少年もラーメンを知っているのかい?」

「あ、はい。元の世界で、何度も食べたことがあります」

 そうなのよね。

 テツトとヒメは、違う世界からワープしてきたっていう話なの。

 前にイヨから聞いたことがあるわ。

「ラーメンの作り方を知っている限り教えて欲しい」

「作り方ですか!? 詳しくは知りませんが、ええっと、動物の骨や昆布や魚粉なんかで出汁を取ったスープに、小麦粉で作った麺を煮て、スープと合わせたもののことだと思います」

「ふむ。骨?」

「ええ、鶏ガラとか、豚骨とかですね」

「骨なんて煮たら、アクが出そうだけどなあ」

「アクは取るしか無いんじゃないですか?」

「ふむん、なるほどなあ。テツト少年、ラーメンっていうのは、その、結構美味いのかい?」

「それは……料理人の腕次第ですが、人気のある店のラーメンはとても美味しかったですよ」

 ジャスティンがテツトの両肩に手を置いた。

「よし!」

「えっ!?」

 びっくりしたようなテツトの表情。

 ジャスティンは決断したみたいなの。

「町のご当地グルメはラーメンにしよう! とりあえずスープだ! テツト少年、ラーメンについて知っていることをできるだけ紙に書いて、いつでも良い、俺様に渡してくれないか?」

「良いっすよ! ジャスティンさんにはお世話になってるんで」

 テツトが気持ちの良い笑みを浮かべる。

 夏に、天界でジャスティンはテツトを助けたって話よね。

 おかげで良く懐いているわ。

 ルルは心の中でクスクスと笑っちゃった。

 テツトは犬みたいに可愛いわ。

 ジャスティンが右手を上げて歩き出す。

「それじゃあテツト少年、待ってるぜー」

「あ、はい!」

 テツトがしゃっきりと背筋を伸ばした。

「バイバイニャーン」ヒメが手を振っている。

 ジャスティンとルルはアパートの階段を上がり、通路を歩いて部屋に入った。

 椅子に腰掛けて、ジャスティンが言う。

「おいルル。今から、何でも良いから美味いスープを作ってみてくれ」

「何よその無茶ぶり!」

 ルルはため息をついた。

 オニオンスープでも作ろうかしら。

 タマネギを取って皮をむき始める。

 ジャスティンは一度自分の部屋に行き、ノートとボールペンを持って帰ってきた。

 何か書いている。

 多分、美味しいスープの作り方を考えているんだと思うのよね。

 ラーメンなんて、出来るのかしら?

 出来たとしても町民に流行るのかしら?

 まあ、不安を並べ立てたって仕方が無いんだけどさ。


 イヨの覚えているスキル一覧。

『シールドバッシュ、プチバリア、トライアングルバリア、疾風三連、カウンター、疾風の突き、シールドアサルト、凝視、蛇睨み、修行の成果、安心、見切り三秒、リフレクトバリア、獅子咆哮』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ラーメン楽しみです(>_<)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ