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7-2 テツトの誕生日



 すっかり秋になりました。

 夏の暑さは遠のき、外の地面にはコスモスが咲いています。

 空気もだんだんと冷たくなってきており、もう少ししたら冬がやってくるんでしょうね。

 ちなみにバルレイツの冬は、わずかしか雪が降らないようです。

 前にイヨが教えてくれましたね。

 その日の夜。

 ヒメとイヨと僕とレドナーが、アパートのダイニングキッチンに集まっていました。

 テーブルを囲んでいて、椅子に腰掛けています。

 今日は僕の誕生日っす。

 日本では10月15日生まれでした。

 今、四人が派手な三角棒をかぶっており、部屋を暗くしています。

 テーブルの中心には蝋燭の刺さった大きなチョコレートのホールケーキ。

 蝋燭には火がついていますね。

 僕以外の三人が愉快に歌ってくれました。

「「はっぴばーすでーい、とぅーゆー、はっぴばーすでーい、とぅーゆー、はっぴばーすでい、でぃあ、テツト~、はっぴばーすでい、とぅーゆー」」

 僕は息を吹きかけて蝋燭の火を消しました。

 みんなが拍手をしてくれます。

「テツト、16才の誕生日、おめでとうだニャーン」とヒメ。

「本当、おめでとうテツト」とイヨ。

「テツト、おめでとう。これで俺と同い年だな」とレドナー。

 ちなみに彼は春生まれのようです。

 僕は照れたように笑って、頭の後ろを右手で触りました。

「みんな、ありがとう!」

 イヨがランタンにマッチを入れて明かりをつけてくれます。

 みんなの姿が浮かび上がりました。

 テーブルの上には様々な料理が並べられていますね。

 照り焼きチキン、フライドポテトと唐揚げ、クリームスープ、ポテトサラダ、イカリング、レバーの野菜炒めに、パン。

 コリコリとした食感が美味しい鶏の胃袋の炒め物もありました。

 おつまみですね。

 ヒメの大好きなマグロのたたきもあります。

 今夜はイヨが腕を振るって料理を作ってくれたようでした。

 いやー、嬉しいですね。

 イヨはナイスプリティーです。

 神っすね。

 サファイロッカの瓶も五つ買ってきたようで、レドナーが栓抜きで開けてくれました。

 僕のコップについでくれます。

「テツト、今日は記憶を失うまで飲むぞ!」とレドナー。

「記憶を失うのは、どうでしょうか」苦笑する僕。

「あたし、あたしもお酒が欲しいニャーン」とヒメ。

「ヒメちゃんにも今ついであげるからね」とイヨ。

 イヨがサファイロッカの瓶をもう一つ開けましたね。

 みんなにお酒が行き渡り、コップをぶつけ合います。

「「かんぱーい!」」

「かんぱいニャーン」

 コーンとグラス同士が音を立てて、液体が揺れました。

 僕はゴクゴクと飲んだっす。

 顔が熱くなり、良い気持ちになりました。

 いやー、楽しいっすね。

 嬉しくて。

 死にそうです。

 神っす。

 みんな良い人たちです。

 イヨが木製の包丁でケーキを切り分けてくれました。

 僕はフォークを持ち、チョコレートケーキを割って口に運びます。

 美味いっすねー。

 ヒメはぶっ刺してガツガツと食べていました。

 対面に座っているイヨがテーブルの下のバッグから、プレゼントのような小さな紙袋を取り出しました。

 僕に渡そうとします。

「テツト、これ」

「あ、ありがとう、イヨ」

 嬉しくって涙が出そうです。

 イヨは顔を赤くして祝ってくれました。

「お誕生日、おめでとう」

「ありがとう、ありがとう」

 受け取る僕。

 続けて聞きました。

「開けて良い?」

「うん」

 イヨは両肘をテーブルにつけて、頬を両手で挟んで見つめています。

 紙袋を開けると、それはゴム製の腕輪でした。

 緑色の石がついていますね。

「これって?」

 僕が尋ねます。

 イヨはうふふと笑って答えました。

「理性の腕輪よ。テツト、前のネックレスを無くしちゃったみたいだから、ティルルさんに頼んで作ってもらったの」

「あ、ありがとう」

 僕はさっそく手首にはめます。

 バーサク状態になってもちぎれないように、特別なゴムで出来ていますね。

「これで、また強くなれるよ」と僕。

「そうだと良い」

 イヨが満足そうに笑って、フライドポテトを一つ取り、口に運びました。

 ヒメが身じろぎして、テーブルの下から画用紙を取りましたね。

「あたしのプレゼントはこれだにゃーん!」

 見ると、画用紙には幼稚園児が書いたような似顔絵が描かれています。

 多分、僕の顔です。

 ヒメは、一生懸命描いてくれたみたいっす。

 素直に嬉しいですね。

 似顔絵を受け取り、僕は笑顔になりました。

「ヒメ、ありがとう。大切にするよ」

「んにゃんっ!」

 ヒメがマグロのたたきにミカロソースをかけて食べ始めました。

 似顔絵は後で、この部屋に貼っておきましょうかね。

 画用紙を床のリュックの上に置きます。

 レドナーがバッグから一冊の本を取り出しました。

「俺のプレゼントはこれだ!」

 みんなが顔を向けました。

 エッチな水着を着た女性の絵が、表紙には描かれていますね。

 これって……。

 エロ本っす。

 マジっすか。

 イヨとヒメが顔をしかめました。

「最悪よこの男、最悪っ!」

「レドナーよ、そんなプレゼントはダメにゃんよ~」

 レドナーが後ろ頭を左手でかいて、喜色満面に笑います。

「そうか? ユーモアが利いていて、良いと思ったんだが」

「貴方はこの家から出て行ってください」とイヨ。

「レドナーは退場ニャン!」とヒメ。

「じょ、冗談だよ、じょーだんっ!」

 レドナーはへらへらと笑いつつ、エロ本をバッグにしまいましたね。

 そしてテーブルの下から、長細い竿を取り出しました。

 見ると、それは釣り竿ですね。

 リールもついています。

 レドナーが渡してきます。

「テツト、誕生日おめでとう。今度一緒に釣りに行こう」

「あ、ありがとう! レドナー。うん、行こう」

 僕は釣り竿を受け取り、両手に持ってそれを眺めました。

 竿の色は黒く、プラスチックではありませんが、弾力があります。

 どんな素材で作られているのでしょうか?

 それを聞くと、レドナーは右手の指で鼻をこすって答えてくれました。

「テツト、お前知らねーのか? それはレノイドっていう軽くて弾力のある素材だぞ」

「へー、初めて聞きました」

 僕は竿を持ったまま、イヨとヒメの顔を見て言います。

「今度、みんなで釣りに行こっか」

「それなら、うん!」乗り気のイヨ。

「あたしは釣り竿が無いニャーン」とヒメ。

「今度みんなで買いに行こうぜー」とレドナー。

 こうして僕たちは釣りに行く約束をしました。

 竿を椅子の横に置きます。

 僕は改めて、みんなにお礼を言いました。

「みんな、こんな素敵なプレゼントを、本当にありがとう!」

「うん!」とイヨ。

「んにゃーん」とヒメ。

「大事に使えよー」とレドナー。

 それから。

 僕たちは料理を食べながら、色んな話をしましたね。

 取り留めの無い世間話や、仕事の話。

 マグマ鉱床の話。

 そうなんです。

 少し前、僕たちはレドナーにもマグマ鉱床の話をしたんです。

 彼は大切な仲間ですからね。

 秘密をいつまでも秘密にしているのは彼に申し訳ありませんでした。

 僕がイヨに頼み、僕らの取り分の5,9割から、0,5割だけレドナーにも与えることになったっす。

 ティルルたちとガゼルも了承してくれて、この間みんなで発掘に行ってきましたね。

 マグマ鉱床はまだまだあり、十年は発掘できるというのがティルルの見解でした。

 僕の家には今、だいぶ貯蓄があります。

 少し前に、天使族の領域で倒した魔族たちの賞金も届きました。

 二千万ガリュ余りの大金っす。

 実際に戦って倒したのはここにいる四人だけなので、四人で分けましたね。

 ずいぶんの収入が入りました。

 みんながお腹いっぱいになって、サファイロッカをちびちびと飲み始める頃。

 もう夜の十一時過ぎですかね。

 今夜、レドナーは僕の部屋に泊まっていくみたいです。

 イヨが真剣な顔をして言いました。

「みんな。お金が大分貯まったから、これからは考えて使って行かなきゃいけない」

「イヨ、ついに家を買うのかニャーン?」

 ヒメが赤い顔をして肩を揺らしています。

「家はまだ買わない」とイヨ。

「えー、なんでニャン?」残念そうなヒメの声。

 レドナーが嬉しそうに言ったっす。

「今、俺は1000万ガリュ以上あるぜ」

「大分貯まりましたね」

 僕は自然と頬が緩みました。

 イヨがテーブルに両手をつけます。

「お金は上手に使わないといけないの」

「そりゃあそうだ」

 レドナーがコップに入った液体を揺らします。

 イヨが両手を膝に置きました。

「とりあえず、強いスキルの情報を手に入れる」

「どうやって手に入れるニャン?」

 ヒメがクリームスープを食べ終えた皿を舐めていますね。

「ヒメちゃん、汚い~」

 イヨが言って、自分のクリームスープの入った皿をヒメの方に移動させます。

「ありがとうニャーン」

 またスプーンで食べ始めるヒメ。

 イヨの目つきがとんがっていますね。

「スキルの情報を、ミルフィとサリナさんから、上手に聞き出すの」

「それがいいね」

 頷く僕。

「ラサナさんは?」とレドナー。

「ラサナさんは、たぶん教えてくれない」とイヨ。

 僕は苦笑したっす。

 確かにラサナさんは一筋縄では行きませんね。

 口の硬いおばさんでした。

 僕は前々から考えていたことがあるっす。

 それを話しました。

 思うに、イヨだけでなくヒメもバリア系統のスキルを覚えた方が良いと思うんですよね。

 バリアは、魔法使いにとっても適正スキルです。

 覚えれば、ヒメを守りながらでなくともイヨは戦闘に参加できるはずでした。

 僕の提案にみんなが頷きます。

「確かになー」とレドナー。

「あたしもバリアを覚えるかニャーン?」とヒメ。

「それは私も考えてた」とイヨ。

 今度はレドナーが喋り出しましたね。

 少し言いづらそうな口調です。

「あの、えっと、こう言っちゃ悪いんだが。イヨ、お前、どこかで剣術を習った方が良いんじゃねーか?」

 イヨがひるんだような顔をしましたね。

 確かにです。

 痛いところを突かれた気分でした。

「確かに、ね」とイヨ。

 イヨの剣技は未熟っす。

 お父さんが生前の頃教えてくれたという話ですが、その腕前はまだまだです。

 日々の仕事中も、敵を倒すのはもっぱら僕とレドナーでした。

 ヒメが唐揚げをむしゃむしゃと頬張りながら言います。

「イヨ、ミルフィに習えば良いニャンよ~」

「……うん。教えてくれるかな?」とイヨ。

「それが良ーな」レドナーがフライドポテトをつまみました。

「ミルフィが一番良さそうだね」と僕。

 イヨはこくこくと頷き、コップを煽ります。

 コップとトンと置いて、

「ミルフィに頼んでみるわ」

「頑張れ頑張れイヨニャンニャニャン」

 ヒメが嬉しそうに肩を揺らしましたね。

 レドナーが難しそうな顔をします。

「俺が教えても良いんだが……」

「貴方の戦い方を覚えるのは無理」

 首を振るイヨ。

 確かにです。

 レドナーの戦い方は天才型ですね。

 その時その時のインスピレーションで、変幻自在に剣筋を変化させています。

 凡人が見習うのはとても困難でした。

 それからも話し合いは続きます。

 会話の内容は真面目なものなんですが、不思議と楽しいですね。

 みんなが欲しいスキル書を言い合ったり、戦う時の連携について語り合ったりしました。

 話は膨らみ、時々笑いが弾けます。

 明日は休日です。

 明日の午後、みんなでラサナさんにお店に行き、スキル書を買うことになりました。

 特にヒメはたくさんスキル書を買うようで、お金がだいぶ飛んで行きそうです。

 ちなみに午前中はスティナウルフの宿舎に遊びに行きます。

 フェンリルとガゼルの子供がすでに産まれており、それは二頭でした。

 もっとたくさん産まれるかなと思ったのですが、違いましたね。

 その二頭はヒメに良く懐いており、遊んで欲しがっています。

 体の成長が早く、もう中型犬ほどの大きさですね。

 今、スティナウルフの宿舎にはウルフの子供がたくさんいます。

 出産したのはフェンリルとガゼルだけではないですからね。

 他のスティナウルフたちは一度に五、六頭以上を出産したようです。

 総勢70頭ほどが産まれたという話でした。

 宿舎には前々から厨房があったのですが、ミルフィが改築して大きくしたようですね。

 宿舎の増築も進められています。

 お金持ちの町民がウルフの子供を買って行ったりもしているようです。

 町民はウルフを番犬代わりにするのか、ゆくゆくは乗り物するのか、使い方は多種に及びそうです。

 夜の一時を回ったところで、僕たちは誕生会をお開きにしました。

 イヨが洗いものをしてくれて、レドナーと僕は部屋に行きます。

 床で毛布にくるまって、すぐにいびきをかき始めるレドナー。

 僕もベッドに寝そべって、眠りの訪れを待ちました。

 これでまた、明日からも頑張れそうです。

 そしてその夜、僕たち四人は不思議な夢の中で会うことになるのでした。



 テツトの習得しているスキル一覧。

『鉄拳、へなちょこパンチ、へっぽこパンチ、蛇這の牙、炸裂玉、一生懸命、バーサク、はらはら回避、蛇睨み、凝視、フリージングカッター、キュアポイズン、安心、炸裂巴、ポンコツパンチ、幻惑回避、凍結背負い、獅子咆哮』


 制作しながらの執筆になるので、とんでもない矛盾点など、そのうち出てしまうかと思います。ご愛嬌と思い、気にせず読み進めてくれるとありがたいです。

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[良い点] フェンリル無事に産まれて良かったです(>_<)
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