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6-23 スティナウルフの結婚式



 その日の朝。

 空は澄み渡るほどの快晴です。

 バルレイツ南区の教会前は大賑わいでした。

 どうやら結婚式は外でやるようです。

 教会の扉の近くには、細身の神父とファドがいて、何やら会話をしています。

 虹の国大サーカスの経営者の彼が来ていますね。

 挨拶回りをしているんでしょうか?

 他にも町民の大勢が、スティナウルフの結婚式を見てやろうと見物に来ています。

 もちろん僕たちも駆けつけています。

 ヒメとイヨの格好は、ヒメがエメラルドグリーンのパーティドレス、イヨが首元から肘にかけてレース生地の黒のワンピースでした。

 ネックレスはもちろん、イヤリングもしていますね。

 肩にはポーチを下げています。

 そして、二人とも薄化粧をしています。

 ヒメは化粧のやり方が分からなかったので、朝にイヨがしてあげたんですよね。

 二人とも(あで)やかな美人に変身していました。

 イヨは素晴らしくプリティーです。

 そしてヒメも化粧をすればこんなふうに美しくなるんですね。

 化粧の魔力でした。

 いやー。

 神っすねー。

 僕とレドナーは黒のスーツに同じ色の革靴です。

 二人とも、普段はしない腕時計をしていますね。

 僕はまだ十五才なので、馬子にも衣装といった感じっす。

 ですが、ヒメとイヨは僕をイケメンと褒めてくれました。

 素直に嬉しかったです。

 レドナーのスーツ姿は似合っていますね。

 普段は格好つけの姿の彼が、パリッとした正装で変身したように大人の姿に映りました。

 僕たちはお互いの姿を眺め合ってテンションが急上昇っす。

 これなら、結婚式に出ても恥ずかしくありませんね。

 教会前の道路には露店が出ていて、ジャスティンとルルのフライドポテト屋でした。

 フライドポテトを無料で配っていますね。

 無料ということで、長蛇の列が出来ています。

「はーい、美味しくて甘いフライドポテトだよー!」ジャスティンが声を張っています。

「でーす」ルルは気のない声っす。しかしその包丁さばきは見事であり、ジャガイモを次々に切っていますね。

 僕たち四人も列に並び、もらっちゃいました。

 一本食べてみると、フライドポテトはカリッとした食感で、すごく甘くて美味しいです。

 ヒメがパクパクと食べていますね。

「美味いニャン、美味いニャンね~」

「本当、ハチミツみたい」

 イヨもびっくりしたようにフライドポテトを口に運びました。

 レドナーは怪訝な表情です。

「なんでこんなに甘いんだ? 砂糖でも入れたのか?」

「砂糖は、どうなんでしょう?」

 僕は苦笑してあいまいに答えたっす。

 ジャスティンのことだから、特別な料理方法があるのだと思いました。

 教会の前に歩くと、そこには大勢の料理人がいて一生懸命食事を作っているっす。

 肉を焼いている光景が多いですね。

 それも大きな塊の肉を丸焼きです。

 たぶん、スティナウルフ用っす。

 スティナウルフは全頭が会場に来ているようで、座っていたり、料理人から食べ物をもらったり、仲間とじゃれ合ったりしていました。

 今日は口輪をしていないです。

 お腹の張っているウルフもたくさん見かけました。

 妊娠しているメスたちのようです。

 今回はフェンリルとガゼルだけでなく、他のスティナウルフたちにとっても結婚式のようでした。

 教会の中から、頭を低くして扉をくぐり、人狼化したガゼルが出てきましたね。

 その首には月の雫のネックレス。

 ガゼルは背が高いっすねー。

 三メートル以上あるっす。

 黒のタキシードを着ています。

 尻尾が出ていて、その部分のズボンのお尻には穴が空いていますね。

 どこか慌てているような様子で、神父とファドの元へと歩き、会話に参加しました。

 結婚式の段取りを確認しているのだと思います。

「あ!」

 ヒメが何かを見つけたようで、声を上げて走り出します。

 その先には、正装をしたティルルとクラが歩いてきていました。

 とは言ってもクラは月に乗って浮遊しているのですが。

 ティルルの服は黒、クラは薄黄色です。

 マジックアイテム店の店主と従業員だけあって、マジックアイテムのようなネックレスや腕輪をしていました。

 ポーチを両手に持っていますね。

 僕たちもヒメの背中を追いかけて歩きました。

 ヒメが声をかけます

「ティルルにクラにゃん~!」

「やあヒメさんたち! おはよう!」とティルル。

「みなたん、おはようでち」とクラ。

 二人とも生き生きとした笑顔を浮かべています。

 六人で集まって、会話をしました。

 みんなのテンションは高く、楽器が鳴ったような声が響き渡ります。

 ティルルが友情のイヤーカフを作ってくれたようで、ポーチから水色のマジックアイテムを出してくれました。

 耳にはめる物なので小さいですね。

 名前は、絆、とティルルが命名したようです。

 みんなが受け取り耳に装着しました。

 ティルルとクラはすでにはめていましたね。

 そしてヒメとイヨがもう一つずつ受け取り、ガゼルとフェンリルに渡しに行くことになりました。

 その時です。

 教会前の土の道路に、一際目立つ豪奢な馬車が到着しました。

 スティナウルフではなく二頭の馬が引いていましたね。

 御者は初老のドルフであり、タキシードを決めています。

 扉を開けて、ミルフィが出てきました。

 丸いメガネにセミロングの緑色の髪。

 髪を高く結っており、オレンジ色の髪飾りで止めています。

 彼女はどんな髪型でも似合いますねー。

 それにいつもより化粧がのっています。

 美人っす。

 アクセサリーは真珠のようなネックレスと薄いオレンジ色のイヤリング。

 高級そうな黒のワンピース姿でした。

 ミルフィを見つけた町民が「「おお!」」「「ミルフィさまだ!」」などなど、声を上げます。

 彼女は町民に会釈して、右手を振りながらこちらへ歩いてきました。

 ヒメが声をかけて歩み寄ります。

「ミルフィニャーン」

 その胸に抱きついていきましたね。

 ハグしちゃっています。

 ミルフィは口を大きく開けて笑って、ヒメの頭を撫でてくれました。

「よしよし、ヒメちゃん、おはようございますですわぁ」

「ミルフィ」イヨが呼んで近づきます。

 他のみんなもそばに寄りました。

 ミルフィが笑顔で挨拶をくれます。

「みなさん、おはようございますわぁ。晴れ女の登場なのですぅ」

 唇をすぼめて、ユーモアのある口調です。

 確かにミルフィは晴れ女です。

 僕たちはクスクスと笑いました。

 ミルフィがティルルの前に進みましたね。

「貴方が、ティルルさんですかぁ?」

「あ、はい。そうです! バルレイツの繁華街でマジックアイテム店を開かせていただいています!」

 ティルルの声が緊張していますね。

 イヨがその肩にぽんと手を置きました。

「ティルルさんはすごく良い人なの」

 ミルフィに説明します。

 ミルフィは両手でティルルの右手を取りました。

「これはこれは、いつもうちのお転婆イヨがお世話になっておりますぅ」

「ミルフィ!」

 イヨが頬を赤くして声を上げましたね。

 ティルルは困ったように笑いました。

「いえいえ、私の方こそ、イヨさんたちにはお世話になってばかりです」

「ティルルさん、イヨはね、ごにょごごにょ……」

 ささやく声であり、なんと言ったか聞き取れなかったっす。

「ミルフィー!」

 イヨは恥ずかしそうに顔を染めて怒りましたね。

 ミルフィは何と言ったのでしょうか?

 気になりますね。

 後でイヨに聞いてみましょうか?

 教えてくれれば良いんですが。

 ティルルは困ったように笑いました。

「そ、そうなんだ、イヨさんって……」

「ええ。だから気をつけてくださいね! 根っこは気立ての良い女性なので、ティルルさんたちに被害は出ないかと思われますぅ」

 ミルフィがいたずらっぽく言って、人差し指をほっぺに当てます。

 ティルルはひたすらに苦笑しています。

「ミ、ル、フィー!」

 イヨの肩に怒りのオーラが立ち上っていました。

 鬼女のような表情です。

 ミルフィは満面の笑顔でした。

 両手に口元に当てて声高に言います。

「イヨ、そんなに顔を歪めたら可愛い顔が台無しですよお? 愛しのテツトさんが見ていますよお?」

「許さないわ!」

 イヨが右手の拳を振り上げます。

「キャー!」

 ミルフィが両手を突き出して体を反らせましたね。

 そこにいるみんなが笑いました。

「……もう、仕方ない」

 イヨは拳を下ろして、すぐにミルフィを許したようです。

 今日は結婚式ですからね。

 無礼講っす。

 そしてティルルがミルフィにも絆のイヤーカフを渡しました。

 彼女が口角を上げて微笑み、耳に装着します。

 それから、みんなでガゼルにイヤーカフを渡しに行きました。

 ガゼルはまだ神父やファドと会話をしていましたね。

 フェンリルは多分、教会の中でお化粧をしているんだと思います。

 僕たちが近くに来ると、ガゼルが焦ったように振り向いたっす。

「テツトたち、来たか!」

 その顔は喜びに満ち溢れていますね。

 続けて言います。

「今日は来てくれてありがとうな。どうか結婚式を楽しんで行ってくれ」

 そこでヒメとイヨが前に出ましたね。

 絆のイヤーカフを二つ、ガゼルに渡します。

 ガゼルが両手で受け取り、瞳を大きくしました。

「これは?」

「ガゼル! あたしたちからのプレゼントだニャーン」素敵な笑顔のヒメ。

「これはマジックアイテムで、絆のイヤーカフって言うの。ガゼル、片方をフェンリルにも渡して、それで耳に装着して欲しい」イヨも頬に笑みをたたえて、自分の耳を指さします。

 ガゼルが両目を潤ませましたね。

 珍しいっす。

 ガゼルも泣くことがあるんでしょうか?

「分かった。皆のもの、本当にありがとう!」

 彼はそう言って、教会の扉の方へ歩いて行きました。

 中に入っていきます。

 やはりフェンリルは中にいるようです。

 僕たちはファドと神父にも挨拶をし、それからは脇に寄って、お喋りをしながら結婚式の開始を待ちました。

 二十分も待ったでしょうか?

 細身の神父が声を張ります。

「えー! みなさん! これより結婚式を始めたいと思います。ご静粛に、ご静粛に!」

 同時に教会の左わきに並んでいる二つオルガンを、二人のシスターが弾き始めました。

 華やかで厳かなメロディーが響き渡ります。

 町民たちが静まりかえりましたね。

 会場の両脇にはスティナウルフが綺麗に縦に整列し、おすわりをしました。

 やがて教会の扉が開き、シルクのウェディングドレスを着たフェンリルの手を、タキシードのガゼルが引いてゆっくりと歩いてきます。

 二人とも耳にはイヤーカフをしており、装着してくれていました。

 会場に拍手が起こります。

 ガゼルとフェンリルは、スティナウルフたちを代表して、結婚式の新郎と新婦を務めているようです。

 フェンリルは、綺麗でした。

 美しい化粧が施されていて、頬は薄い桃色に染まっています。

 頭にはベールをかぶっており、シルクのドレスはスカートの裾が長く、地面に届いていました。

 その首にはダイヤモンドのようなネックレスが下がっています。

 ガゼルからのプレゼントでしょうか?

 何か。

 何か良いですね。

 こういうのって。

 すごく素敵です。

 僕たちもこんな結婚式をできたら良いす。

 ガゼルがぎこちない足取りで、ゆっくりと、ゆっくりと歩きます。

 二人が小さな階段を下りて、少し歩き、神父の前に立ちました。

 僕のそばにいるヒメが言いましたね。

「フェンリル、綺麗だニャーン」

「すごおいっ」

 イヨも感嘆とした吐息をもらしています。

 神父はお決まりの誓いのセリフ述べて、二人に愛を尋ねます。

「誓おう」

「誓うだワン」

 二人が恥ずかしそうな、照れたような、それでいて意思のこもった声で返事をしましたね。

 ついに結婚式のクライマックスです。

 ガゼルがフェンリルのベールをはぐり、顔を出します。

 これから、誓いのキスですね。

 しかしですよ。

 そこで事件が起こるとは思わなかったっす。

 一匹の巨大なスティナウルフが前に進み出て、二人に獰猛に牙を剥きましたね。

「ガロロォー」

(その結婚式、ちょっと待ったー!)

 なんと、バロンでした。

 オルガンの音色が止まります。

 見守っている町民たちが息をのみました。

 びっくりしたっす。

 バロンは花嫁泥棒でもする気なのでしょうか?

 ガゼルが振り向いて声を張ります。

 その瞳は勇敢に満ちていました。

「何だ! バロン! 我らの結婚に文句でもあるのか?」

(当たり前だろう? 文句だらけだぜ! フェンリルは俺のものだ! 俺の女なんだよ! 誰にも渡さねえ! ガゼル、お前にここで挑戦状を突きつける、一騎打ちだ!)

 バロンの目は血走っていますね。

 狂ったような表情っす。

 やばいっす。

 これでは結婚式が壊れてしまいます。

 会場中の人間とウルフが息をのみました。

 しかしガゼルは鷹揚(おうよう)に頷きます。

「良いだろう。その勝負、受けて立つ! バロンよ!」

 ふと、三頭のスティナウルフが前に進み出て、ガゼルを守るように立ちましたね。

「「グルルゥ」」

(ガゼル様、お守りします!)

(ガゼル様、ここは我らが!)

(ガゼル様とフェンリル様、後ろに下がっていてください!)

 新郎のガゼルはほっとしたように頷いて言いました。

「分かった。お前たち、バロンを倒せ!」

 バロンが声高に吠えます。

「バロロロォー!」

(スティナウルフの手下に勝負を委ねるだあ? ずいぶんと偉くなったもんだなあ! 鉄砲玉ガゼルよ! わりいが、手加減はしねーぞ!)

 バロンが走りました。

 その巨大な体に、三頭のスティナウルフが襲いかかり、首や鼻、耳を噛みつきます。

(ぐわあぁぁあああああー!)

 バロンが大きな念の悲鳴を上げて転がりました。

 ……。

 あれ?

 おかしいですね。

 バロンが簡単に負けています。

 もっと強いはずですよね?

 変です。

 バロンと三頭のスティナウルフはちょっとした格闘をして地面を転がります。

 やがてバロンが負けを認めたのか、ガゼルの前で伏せをしましたね。

「ガロロォー」

(くそっ! 俺の完敗だ! これからはガゼル、お前がスティナウルフの長だ! 群れが(はぐく)まれるように、全力で務めることを、この俺に誓えるか!?)

「誓おう、バロンよ」

 ガゼルが雄大な声を響かせました。

(仕方ねえ。フェンリル様との結婚を認めてやる! だが、俺の目がいつでも睨んでいることを、忘れるんじゃねーぞ!)

 バロンはそう念を飛ばして、会場の外へ向かって走り出しました。

 町民たちが慌てて道を開けます。

 最後にガゼルが声を張りました。

「バロン!」

(何だ?)

 立ち止まって顔だけ振り返るバロン。

 ガゼルの心からの感謝の言葉でした。

「ありがとう」

(ちっ、仕方ねーって奴だ!)

 バロンが会場から出て、土の道路を走って行きましたね。

 新郎と新婦を守った三頭のスティナウルフたちが、再び列に戻っておすわりをします。

 教会が拍手の大喝采に包まれました。

 僕たちも一生懸命手を叩きました。

 ガゼルは格好良いです。

 再び、オルガンが音を奏で始めます

「ガゼルやったニャーン! 無敵ニャンニャン」ヒメが無邪気に喜んで言いましたね。

 この時にはもう、僕には分かっていたっす。

 今のは、アレですよね。

 小芝居です。

 バロンが本気なら、あんなに簡単に負けるはずありません。

 そう言えば、先ほどまでファドと神父が会話をしていました。

 たぶん今の芝居は、サーカスの経営者であるファドが仕込んだんじゃないですかね?

 きっとそうです。

 イヨも分かっていたようで、ぷくっと笑みをこぼします。

「素敵な芝居だった」

「そうだね」

 僕は頷きます。

「芝居ニャン!?」

 ヒメがたまげたように口を開きました。

 レドナーが勢いよく顔を向けます。

「そうなのか!?」

 彼も分からなかったようです。

 そして。

 会場中の町民とウルフが見守る中、ガゼルがフェンリルの腰と尻を両手で抱え上げます。

 フェンリルは背が小さいので、そうしないとキスができないですね。

 二人の熱い瞳が見つめ合い、ゆっくりと、ゆっくりと口が重なりました。

「「アオォォォォオオオオオオオン!」」

 おすわりをしているスティナウルフたちが顔を空に上げて、一斉に吠えましたね。

 その声は繁華街に大きく響き渡りました。

 祝福のおたけびのようです。

 二人が口を離すと、ガゼルはフェンリルを地面に下ろします。

 二人とも照れたように笑っています。

 また会場中が割れんばかりの拍手に包まれました。

 ガゼルとフェンリルの二人、そして他のスティナウルフたちの結婚式が成りました。

 めでたいっす。

 そしてとても素敵です。

 羨ましいです。

 いつか、イヨと僕も……。

 そんなことを思いました。

 式が終わると、教会前は披露宴のような塩梅になりましたね。

 ガゼルとフェンリルのところに町民のいろんな方や、店を経営する店長などが挨拶に行きました。

 白いテーブルクロスの敷かれた丸テーブルには様々な料理が出されており、無料で食べて良いとのことです。

 町民たちが喜んで料理をつまんでいますね。

 スティナウルフたちも今日は昼食を食べるようでした。

 我先にと肉をたいらげています。

 真夏だと言うのに、料理人はだらだらと汗を流しながら一生懸命作ってくれていました。

 僕たちは再びガゼルとフェンリルに挨拶に行って、それから食事を楽しみましたね。

 ミルフィとは途中ではぐれちゃいました。

 この結婚式に乗じて彼女とお近づきになろうと、様々な方が挨拶に来たからです。

 彼女は多忙ですね。

 よく体力が持つものだなと思いました。

 僕たちは料理を食べながら話し合い、今日は最後まで残っていようという事になります。

 ヒメが思い出して、僕たちはジャスティンとルルにもイヤーカフを渡しに行きましたね。

 教会前の道路の露店ではフライドポテトが完売していたようで、二人は椅子に腰掛けて休んでいたっす。

 ヒメが声をかけてイヤーカフを渡すと、ジャスティンは笑顔で受け取ってくれました。

 ルルはツンとしていましたが、しっかりと耳に装着してくれたっす。

 普段は気のない彼女ですが、こういうところを見ると、案外その性格は悪くないんだなと思いました。

 良かったっす。

 そして、道の先にはびっくりした光景がありました。

 なんとバロンがいて、もう一頭の大きなスティナウルフと恋人同士のように身を寄せ合っています。

 その空気はアツアツです。

 ……。

 バロンには別の恋人ができていたようですね。

 それでいて小芝居をやってくれたようです。

 ちょっと泣けてきちゃいました。

「バロンニャーン」指を指すヒメ。

「本当だわ」目を丸くするイヨ。

「さっきのあいつ、恋人がいたのか!」レドナーも驚いています。

 僕たちはしばらくその二人を眺めました。

 だけど邪魔しちゃ悪いっす。

「行きましょう、みんな」

 イヨのその言葉で、みんなが振り返りまた教会へと戻りました。

 会場の端には画家がいて、結婚式の様子を描いていますね。

 さらに楽器を弾く演奏者さんたちが出て来てくれて、軽やかなメロディーを奏で始めました。

 教会中に響き渡ります。

 町民たちの男女が手を取り合って踊り始めました。

 とても陽気な笑顔を浮かべており、愉快な光景です。

 他の町民たちが手拍子をして、踊っている人たちをはやし立てています。

 イヨが誘いました。

「テツト、私たちも」

「う、うん」

 僕とイヨも混ぜてもらいました。

 不器用な僕のエスコートに対して、イヨは器用にくるくると回ります。

 レドナーとヒメも一緒に踊っていましたね。

 ヒメは踊り方が分からないのか、時折レドナーの足を踏んづけていました。

 レドナーはその度に痛そうな顔をしながらもダンスを続けましたね。

 楽しいっす。

 空は晴天。

 教会はお祭りムード。

 こうして、ガゼルとフェンリル、そしてスティナウルフたちの結婚式は無事に成功を終えたのでした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] わしもフライドポテト食べたかった。(゜□゜)
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