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6-21 制御のネックレス



 四人でテッセリンマジックアイテム店へ行きます。

 ティルルとクラを誘って、レストランで食事をしようという話になりました。

 ヒメの提案でしたね。

 ティルルは店をいったん閉めたようです。

 クリスタルの入ったリュックは重いので、店の工房に置かせてもらいました。

 いま、六人でレストランのテーブルを囲んでおり、昼食を摂っています。

 僕とレドナーはハンバーグ定食、ヒメは野菜と魚の天ぷら定食、イヨとティルルはチーズパニアという名前のグラタンのような料理、クラは野菜サラダのみでした。

 普段からクラは野菜しか食べないそうです。

 椅子に座らずに月に腰掛けており、浮いています。

 黄色い光を放っており、周囲から少し目立っていますね。

 ティルルが言いました。

「みなさん、お疲れ様! これで友情のイヤーカフが作れるよ。ありがとう」

 みんなが、いえいえと首を振ります。

 ティルルがまた尋ねました。

「それで、何人分作れば良いのかな?」

「とりあえず、いっぱいニャーン」

 ヒメが言って、野菜の天ぷらをつゆにつけてかじります。

 イヨが指を折って計算していました。

「私とテツトとヒメちゃんと、レドナーと、フェンリルとガゼルとミルフィと、ジャスティンさんとルルさんと、後できればサリナさんの分も作って欲しい。だから十人分かな」

「オーケーオーケー。私とクラの分も欲しいから、それじゃあ十二個を作ろうかな」

 ティルルがパニアをスプーンですくって口に運びます。

 チーズが粘っこく伸びましたね。

 ヒメが顔を上げました。

「もうちょっと欲しいニャン」

「それはどうしてなの?」

 ティルルが顔を向けます。

 ヒメが説明をしましたね。

「後から、イヤーカフを欲しいって人が現れるかもしれないニャンよ~」

「なるほど……じゃあ二十個ぐらい作ろうか。材料はいっぱいあるしね」

「んにゃーん! ティルル、ありがとうだニャーン」

「いえいえ」

 ティルルが顎を振って微笑したっす。

 それからヒメとイヨが今回の事件の顛末(てんまつ)をティルルとクラに語ってきかせます。

 ティルルは興味深そうに、時々痛々しそうな顔で聞いていましたね。

 ふと、僕の隣にいるレドナーが言いました。

「おいテツト」

「どうしました? レドナー」

 僕は食事を終えてコーヒーを飲んでいました。

 レドナーも料理を食べ終えたようで腹をさすっています。

「そろそろ俺たちも、マジックアイテムの武器や防具を持つべきなんじゃねーか?」

「それは……そうすね」

 でもマジックアイテムって高いですよね。

 それをレドナーに言うんですが、

「馬鹿。金が命に代えられるかってんだ。とりあえず防具だけでもティルルさんから買っておこう」

「んー、僕はいいっす」

 首を振りました。

 あれですよね。

 バーサク状態になったらアクセサリーはちぎれます。

 服なら破れるっす。

 だから、必要ないですね。

 それを説明しました。

 レドナーが眉をひそめて言ったっす。

「おいテツト。お前のバーサクなんだが、あれは相当やべえぜ。ティルルさんに頼んで、何かコントロールできるようなマジックアイテムを作ってもらった方が良いんじゃねーか?」

「コントロールできるマジックアイテムなんてあるんですかね?」

 確かにそんなアイテムがあれば欲しいっす。

 ふと、女性四人がこちらに顔を向けていました。

 僕たちの話を聞いていたようですね。

 ティルルが言ったっす。

「あるよ! テツトさん」

「本当!?」

「本当かニャン?」

 反応したのはイヨとヒメです。

 ティルルは紅茶を一口飲んで、もう片方の手の人差し指を立てました。

「ノーボイススキルをコントロールし易くするマジックアイテムで良いんだよね?」

「うん!」頷くイヨ。

「あるニャンか?」とヒメ。

 ティルルが人差し指を下ろします。

「制御のネックレスと言う。店の目玉商品だからね、傭兵たちがよく買っていくんだ。テツトさんも一つ買うといいよ。ただし、高いけどね」

「いくらなの?」

 イヨが聞いたっす。

 ティルルがひきつったような笑みを浮かべましたね。

「百二十万ガリュ、と言いたいところだけど、テツトさんなら百十万ガリュでいいよ。お世話になってるから」

「買うわ」

 即座にイヨが決断しました。

 僕はちょっと困っていました。

 バーサク状態になると、僕は巨大化してネックレスのヒモがちぎれるんですよね。

 それを言うと、ティルルはすぐに閃いたようで提案します。

「それなら、ネックレスのヒモを収縮性のある素材に付け替えようじゃないか。それで大丈夫だろ?」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 頭を垂れる僕。

 いやー、感謝っす。

 バーサクを操れるようになったら、それはすごいですね。

 神です。

 ティルルは顔の前で右手を振りました。

「良いって良いって。それより話には聞いたけど、あんまり無茶しないようにね、テツトさん」

「あ、はい」

 僕はちょっとひきつった笑顔で返事をしました。

「あたし、あたしは杖が欲しいニャーン! 前の杖が折れちゃったニャンよ~」とヒメ。

「俺は服が欲しい。ティルルさん、スキル防御力の高い服を売ってくれ!」とレドナー。

「私も、そろそろマジックアイテムの剣と盾が欲しい……」とイヨ。

「あたちも買う?」

 クラが自分の顔を指さして顔を傾けます。

 ティルルが笑顔でクラの頭をくしゃくしゃと撫でました。

「クラにも友情のイヤーカフを作ってあげるからね」

「ほよ? はよはよはよ~ん」

 嬉しそうに体を揺らすクラ。

 そして僕たちは食事を終えて、またティルルのお店に戻りました。

 ティルルとイヨが工房へ行き、二人は何か話しがあるようです。

 レドナーとヒメが店内の品物を物色していました。

「おいテツト、来てくれ!」

 服の掛かったハンガーの前でレドナーが呼んでいます。

 僕は歩いて行きました。

「どうしました?」

「このユメヒツジの服。スキル防御力が高くて、その上鉄よりも丈夫で、夏は涼しく冬は温かいって書いてあるんだが……」

 ハンガーラックには説明の紙が貼ってありますね。

 ヒメとイヨも同じ素材の服でした。

 レドナーがつぶやくように言います。

「買おうと思う」

「良いんじゃないですか?」

「だけど金がない」

「じゃあ、貯めてから買うしか無いですね」

「それはそうなんだが。実はよお、俺は黒の色が好きなんだが。イヨがよく黒のワンピース着てるんだよな。色がかぶるからさあ。テツト、どうした方が良いと思う?」

 あー。

 確かにそれはそうですね。

 僕は言いました。

「思い切って、レドナーは白にしてみたらどうですか?」

「馬鹿、白は汚れが目立つだろ」

「じゃあ、灰色とか」

「ん~、そうだな。マフラーも灰色なんだが。マフラーの色も変えるとして、服は灰色にするか!」

「良いと思いますよ」

 レドナーが男物のユメヒツジのジャケットとセットのズボンを掴みます。

 色はグレーであり、かなりオシャレなデザインです。

「とりあえず一着買おうと思う」

「なるほどっす」

 僕は二回頷いたっす。

 レドナーが右手を胸元に掲げました。

「上下セットで八十万ガリュするんだよなあ。よし、テツト。金を貸してくれ」

 男物のユメヒツジの服は、レディースのそれよりも高値でした。

 ちなみにレディースは50万です。

 傭兵は男性の方が女性よりも多いですね。

 メンズの服の方が、需要が高いということだと思います。

「うちの財布はイヨが握っていますね」

「くそう、もう少し仕事に精を出すか」

「それしか無いっす」

 レドナーは納得したように何度か頷きました。

 今度はヒメが近づいてきましたね。

 その両手には二本の杖が握られています。

 一本の杖についている石の色は赤。

 もう片方はオレンジっす。

「テツトー、あたしどの杖を選んだら良いか分からないニャーン」

「えーっと」

 僕は考えたっす。

 石はスキルに対してどんな作用があるんですかね?

 それを知らないと選ぶにも選べないっす。

 その時、工房の扉が開いてティルルとイヨが戻ってきました。

 イヨの片手にはゴムのようなヒモで出来たネックレス。

 こちらへ歩いてきて、僕の首にかけてくれます。

「はいテツト。私からプレゼント!」

「あ、ありがとう。これって?」

 僕はネックレスの石をつまみます。

 黄色い石でした。

「制御のネックレス。今、ティルルさんがヒモを付け替えて作ってくれた」

 そういうことらしいです。

 お金はもう支払ったんでしょうか?

 それをイヨに聞くんですが、

「大丈夫よ」

 彼女はそう言ってウインクをくれます。

 アレですかね。

 マグマ鉱床から出た利益払いにしたんですかね。

 多分そうです。

「ありがとう、イヨ」

「愛情を込めたから」

 イヨが言って頬を染めます。

 ドキッとしました。

 可愛いっすねー。

 ベリーキュートっす。

 神っすねー。

 ヒメがティルルの方に駆けていきます。

 両手の杖を掲げています。

「ティルルー、あたしはどの杖を買えば良いかニャン?」

 ティルルが顎に右手を当てて説明をしました。

「基本的に、マジックアイテムについている魔石の色は、使うスキルの種類によってそれぞれのスキル効果を増幅させるんだ。例えばファイアーボールなら赤の波動が出るから、赤い魔石の杖を装備していると、効果が増大するよ」

「んにゃーん、あたし、分からないニャーン」

 ヒメは涙目っす。

 僕たち三人がヒメのそばに集まります。

 ティルルが顎から手を離しました。

「それじゃあ、ヒメさんの得意スキルを教えてよ」

「んにゃん、スローかニャン?」

 ヒメが顔を傾けます。

 ティルルがまた説明をくれました。

「スローなら、デバフだから紫色の波動だね。だったら、紫色の魔石のついた杖が良いと思うよ」

「んにゃん、分かったニャーン!」

 ヒメが両手の杖を振ります。

 そのわきからイヨが聞きました。

「ティルルさんあの、黒の魔石とか、合成スキル色の、青の魔石のついた杖もあるんでしょ?」

「それは……あるにはあるけど、黒や青の魔石は貴重過ぎて、いまこの店には無いよ。取り寄せたとしてもすごい値段になるね。はっきり言って、目ん玉が飛び出る金額だと思う」

「そ、そうなんだ……」

 イヨがびっくりしたように唇を震わせていました。

 ヒメはお店の棚に行き二つの杖を置いて、今度は紫色の魔石のついた杖を見つけたようで持ってきます。

「これが欲しいニャーン」

「それなら三十七万ガリュだよ」

 ティルルが右手を胸の前に掲げます。

 イヨがティルルに右目でウインクして言いました。

「ティルルさん、お金は」

「ああ、分かってる。ヒメさん、持って行っていいよ」

 意味ありげなティルルの微笑。

 やはりアレですね。

 マグマ鉱床から出た利益で支払っています。

 ヒメが杖を両手に持ってくるくると回転しました。

「やったニャーン、やったニャーン」

 みんながクスクスと笑いましたね。

 レドナーだけは首をひねっていました。

「お、おい、天使さまはどうして金を払わなくていいんだ?」

 つぶやいています。

 怪訝な表情ですね。

 ヒメが近寄って、レドナーの肩をぽんと叩きました。

「レドナーよ、これが女の連帯感だニャン」

「て、天使さま、そのセリフ俺にはよく分かりません」

 レドナーが首を振ります。

 イヨが人差し指を立てました。

「後で払うのよ」

「あ、あーあ。そういうことか」

 どうやら納得したようです。

 ティルルが「そう言えば」と言って僕に聞きました。

「テツトさん、私が前にあげた、理性のネックレスはどうしたの?」

 ……そういえばそうですよね。

 無くしてしまいました。

 どこで無くしたんでしたっけ?

 忘れちゃいました。

 たぶん、バーサクの発動時に落としたんだと思います。

 それを説明すると、ティルルは「それは仕方ないね」と言って頷きました。

 イヨは、今日のところ剣と盾を買わないようです。

 最後にレドナーがユメヒツジの服をティルルに予約しようとしていましたね。

 ティルルは十回払いにしても良いと言ってくれました。

 レドナーが喜んで頼んだっす。

 一回目の八万ガリュを支払います。

 服とズボンを紙袋に入れてもらいました。

 そして僕たちとティルルたちは結婚式の日にまた会う約束をします。

 その時に友情のイヤーカフを渡してくれるようでした。

 四人で店を出ます。

 クラが舌っ足らずな声をかけて見送ってくれましたね。

「みなたん、今日もごらいてぃえん、ありがたうでちた」

「クラ、バイバイニャーン」

 ヒメがぴょこんと右手を上げました。

 店を出た後で、レドナーが思い出したように言いましたね。

「そういや、俺たち上級魔族を倒したんだから、傭兵ギルドから特別報酬が出るんじゃねーか?」

 ……。

 え!?

 みんながはっとしたような顔をしました。

 ギルドにはそんな制度があるんでしょうか?

 初耳でした。

 戦利品のスキル書は二十一冊あったので、少なくとも二十一人は倒したはずです。

 レドナーの言葉を信じ、僕たちは巡行狼車の停留所へ行って、今度は傭兵ギルドに向かいます。

 ギルドで、ダリルとハニハに事件の報告をしましたね。

 二人はびっくりしたような顔で話を聞いてくれました。

 レドナーが上級魔族を倒した報酬を要求します

 ダリルは両腕を組んで難しい顔をしたっす。

「基本的に、上級魔族を倒したなら、一人頭につき五十万ガリュの報酬をギルドから渡すことになってるな。だけど原則として、上級魔族の死体か、死んだ首を持ってくる必要がある。倒した証拠としてな」

 イヨと僕は悲しい顔をして肩を落としました。

 そう言えば魔族の死体は、ジャスティンが全部焼却したらしいっす。

 倒した証拠が無いですね。

 ヒメとレドナーは肩をいからせて怒っています。

「ちゃんと倒したニャンよ! ダリル! 証拠ならあたしの目が覚えているニャン!」

「おいダリルさん! 俺たちはちゃんと倒したんだ! 嘘じゃねえ!」

「こっちは命がけで戦ったニャンよ! お金がもらえないなんて、やってられないニャン! ぷーんっだニャン!」カウンターを叩くヒメ。

「そうだそうだ! 俺たちは命をかけて戦っているんだ!」レドナーも叩きます。ドシンと音が鳴りました。

「まあ、だけどな」

 そこでダリルさんは両腕を下ろして、表情を緩めます。

「そう怒るなって、大丈夫だ。だってミルフィさまが関わっていたんだろ?」

 顔を上げて、あっはっはとダリルは笑いました。

 ひとしきり笑うと、顎を引いて言います。

「四人とも、ミルフィさまのご威光に感謝することだな。あの方は傭兵ギルドにすんごい力を持っていてな。ミルフィさまがハンコとサインをしてくれれば、証拠無しでも上手く文章を書けばまあ通るだろ」

「本当かニャン!」両目を大きく見開くヒメ。

「よおっしゃああああ!」右手を突き上げるレドナー。

「やったあ!」イヨが両手のひらを組んで軽く飛び跳ねます。

「良かったっす」僕も自然と頬がつり上がりました。

 ダリルがカウンターに右手を置きます。

「言っておくが手続きには時間がかかるぞ? こっちも金を用意しなきゃいけないしな。二十一人も倒したとなると、推定1050万ガリュになるのか? そんな大金、いまここに無いからな。とりあえず、ミルフィさまのお手すきな時間を伺って、このギルドに連れてくることだ。話はそれからだ」

「よ、良かったですね。みなさん」

 ハニハが右手を口元に当てて微笑みます。

 1050万ガリュを四人で分けるとなると、一人につき262万五千ガリュの儲けですね。

 推定という話なので、それ以上の金額になるかもしれないです。

 マジ旨いっす。

 うまうまです。 

 神だ。

 そして僕たちは今日、それぞれの家へと帰宅することにしました。

 後日ミルフィには報告して、傭兵ギルドに一緒に来てくれるよう頼む予定です。

 残すところは結婚式だけですね。

 もう一週間も日が無いっす。

 その日が楽しみでした。




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[良い点] 制御のネックレス、手に入れてよかった。 これで大丈夫? (>_<)
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