6-16 遅れて出発(ルル視点)
みなさん、ごきげんよう。
ジャスティンとルルは今、サイモン山を登っているの。
ルルの右手には結消木の枝が握られている。
これから天界に行くんだけど……。
ルルが思うに、別に行かなくとも良いと思うのよね。
たかだかマジックアイテムの素材を採取するだけなんでしょ?
イヨたちに任せれば良いじゃない。
隣を歩くジャスティンに、それを言うんだけど、
「はっはー。ルル、お前は分かっちゃいねえ。何も分かっちゃあいねえ」
「何が分からないのよ?」
ルルはちょっとイライラ。
ジャスティンは軽快な声で説明をした。
「いいか? ルル。ミルフィさんと仲良くなるためには? 恩を売らなきゃあいけない。恩を売るためには? 協力が必要だ。そして誠意だ。協力アンド誠意。分かるか? リズムよく言ってみろ。協力アンド誠意! だ。いま? ミルフィさんたちは友人の結婚式のために、プレゼントを作って贈ろうとしている。それに俺たちも一枚噛むことにより? ミルフィさんの信用度は急上昇だ。いいか? ルル。信用度を上昇させることにより、信用は信頼へと進化するんだ」
「分からないわ」
ルルはジャスティンの言葉を遮って言った。
「何だとぅ!」
ぴしり。
ルルのお尻が叩かれる。
「痛いわっ!」
ジャスティンは持っている杖で自分の肩をぽんぽんと叩く。
「ルルー、午前中にミルフィさんが言ってたことを、聞いていなかったのか?」
「聞いてたけどさ……」
午前中、ミルフィとルルたちは領主館のリビングで話し合ったの。
ジャスティンは再度、自分の計画をミルフィに説明したのよね。
それを聞いてもまだ、ミルフィはルルたちを信用できないと言ったわ。
信用するためには時間が必要らしいの。
そして、一つ条件を出した。
その条件……。
あまりにもバカバカしくって口にしたくないわ!
バルレイツのご当地グルメを開発して、食堂を経営しろとか。
はっきり言って意味が分かんない。
ルルは料理を嫌いじゃないけど、料理人ではないのよ?
ジャスティンの料理の腕前は分かんないけどさ。
作ってくれたことないし。
でもこの男、安請け合いしちゃったのよね。
これからは農家と兼業して、料理人にもなるつもりみたい。
ミルフィは領主として、町の魅力上昇に力を入れているのは分かるけどさ。
ご当地グルメの開発なんて、はっきり言って荷が重いわ。
何でルルたちに任せるのかしら?
他に腕の良い料理人はいなかったのかしら?
まあ、時間はどれぐらいかかっても良いらしいし。
グルメの開発はジャスティンに任せれば良いから、ルルは手伝うだけでいいのかもしれないけれど。
それにしても、不思議なことになったもんだわ。
ジャスティンは明るい顔つきで言う。
「いいかルル。三大欲求とは? 食べること、寝ること、セックスすること。その中でも一番重要視されるのは? 食べることなんだあ、はっはー。ミルフィさんは、ご当地グルメを作れと言った。どうして俺様たちに任せるのかは言わなかった。しかし俺様には分かる。つまり人気の出るご当地グルメを開発し、ミルフィさんの胃袋を納得させてみろって、そういうこったー、はっはー」
「違うと思うわ」
ルルは言ってため息をつく。
「何だとぅ」
ピシリ。
ルルのお尻がはたかれる。
「痛いわジャスティン!」
「お、そろそろ見えてきたな」
サイモン山の頂上を越えて、少し下ったところに霧がかかっていた。
二人が立ち止まる。
「おいルル。枝を投げろ」
「分かったけど」
ルルは結消木の枝を地面に投げる。
するとジャスティンが枝に杖を向けた。
「ファイアーボール、ってな」
赤い波動をまとう杖。
火球が飛び出て、枝が激しく燃えさかる。
火の勢いがものすごいわ。
この男、持っている力だけはとんでもないのよね。
木は溶けるようにして無くなるんだけど、それでも少々の黒い煙が出た。
霧が一気に晴れていく。
少し離れたところに、天へと続く黄色い階段が出現していた。
「おろ? おかしいな、階段の番人がいるはずなんだが……」
ジャスティンが眉をひそめて歩いて行く。
ルルはその背中を追いかけたの。
番人は結界のスキルを使った後にどこかへ行ったということかしら?
二人で階段を上っていく。
ちなみにルルは天界に行くのはこれが初めて。
どんな場所なんだろ?
少し緊張するわ。
階段を上っていくと、やがて雲の上に出た。
土の地面が広がっている。
遠くで、何か激しい音が聞こえるわ。
ルルはドキリとした。
地面の上に顔を出す。
……。
え。
なんで?
戦争だわ。
戦争が起こっている。
……
……そうなのね。
復活した魔王様が、ついに戦争を始めたんだわ。
どうりで階段に番人がいないわけね。
戦争が起こったから、自分の町に駆けつけたのよ、きっと。
見ると、いま魔族の集団が天使族の城塞都市を取り囲んでいる。
門は閉じられていて、魔族たちは入れないみたい。
門を挟んでお互いに魔法や弓矢を撃ち合い、牽制し合っている。
ルルは魔族の勢力が何に属しているのか、すぐに分かった。
忍者の格好をしている。
魅の勢力だわ。
「おいルル」
ジャスティンがポケットからタバコを取り出して一本くわえた。
マッチで火をつける。
「何よ? ジャスティン」
「ミルフィさんに伝えてこい。天使族の町がやべえってな」
「人間の援軍を呼ぶってこと?」
「そういうこったあ」
ぷはーと煙を吐き出すジャスティン。
ルルは眉をひそめて聞いた。
「あいつらはどうするの?」
「テツト少年たちか? あいつらは今、どこにいるのか分かんねえ。だけど見つけたら俺が助けとく」
「ジャスティンは?」
「俺は魔族の根城に行く。補給を断つために、魔族の食料を燃やしてやる」
ジャスティンがルルの頭にどさっと手を置いた。
なでりこする。
ドキ。
そしてジャスティンはキザな顔を向けた。
「ルル、行け!」
「分かったけど!」
バクンバクンと心臓が鼓動していた。
ルルは階段を引き返して下り始める。
もう!
次から次へと意味が分かんないんですけど!
階段を下りて、ルルはスキルの蹴空を使い、空を飛ぶように走った。
せっかく来たって言うのに、また領主館に戻らなきゃいけないわ。
何なのよ一体!