表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/147

6-15 拷問



 魔族軍の野営地。

 そこはシェミールの森のはずれにありましたね。

 遊牧民が利用するような白いテントが林の隙間にぎっしりと並んでいます。

 テントの外にある丸太の柱の下で、僕は拘束されていたっす。

 両手を鎖で縛られており、柱にくくりつけられていました。

 鉄拳を発動させても、鎖は硬く、壊すことができません。

 地面に尻をついています。

 魔族の一人がキュアポイズンをかけてくれたので、毒は治ったっす。

 だけどヒールはかけてくれませんでした。

 体は切り傷まみれであり、出血が今も続いています。

 痛みがひどいですね。

 傷口がジンジンとします。

 殺しはしないが苦しめということでしょうか?

 時折通りかかる魔族たちが僕に好奇の視線をくれていました。

 不思議なことに、魔族の服装は忍者の格好っす。

 緑や黒色の装束です。

 このハルバという星には、忍者が存在したようですね。

 少しして。

 僕の前に、イロハがやってきました。

 着替えたようでくノ一の格好をしていますね。

 黒い衣装に、太股から下は網タイツです。

 その服を着ていると、体の凹凸がはっきりと際立ちます。

 わがままな体つきです。

 それに、スカートがとても短いです。

 ミニスカートがひらひらと揺れて、ピンク色の下着が見えていました。

「こんにちは、テツトちゃん、んふ、気分はいかが?」

「……」

 黙っていると、イロハは僕の前にしゃがみ込みました。

 右手と唇を僕の耳元に当てます。

「ねえ、テツトちゃん。あたいとエッチ遊びしよ?」

「は?」

 出会ったばかりだというのにエッチするとか、訳が分からないッす。

 イロハは頭がおかしいんですかね。

 多分そうです。

 イロハが顔を離します。

 そして説明するように言いました。

「テツトちゃん。あたいね、実は諜報員だったの」

「はあ……」

「この半年間、天使に擬態して町に忍び込んで、敵の軍事施設や大聖堂、他にも町の地形を詳しく調べていたの。もちろん、攻め込むためにね」

「だからなんですか?」

「これから()の勢力の魔族たちが、メルメイユに攻め込むの。神竜の赤ちゃんを奪うためにね」

 魅の勢力ってなんでしょうか?

 ミルフィが言っていた、六つの魔族の勢力の一つですかね。

「……どうしてそんなことを僕に話すんですか?」

「テツトちゃん、あたいと恋人になってよ。そして仲間になってよ。そしたら、テツトちゃんだけ助けてあげる」

「お断りします」

 僕は首も振らずに答えました。

「んー」

 イロハが両目を閉じて、その唇が僕の唇を狙います。

 焦って顔を振り、僕は回避しました。

 さすがに怒ります。

「な! 何しようとするんですか!?」

「ねえ、テツトちゃん、あのイヨって女がそんなに良いの?」

「僕の恋人です!」

「いまから無理矢理その服を脱がせて、逆レイプすることだってできるんだよ? テツトちゃん」

「や、やめてください!」

「じゃあイヨを殺そっか?」

「それも、やめてください!」

「じゃあ、恋人になってよ」

「嫌です!」

「ふーん、じゃあ痛めつける」

 イロハが僕の右足首を両手で持ち上げました。

 すねの付け根を押さえて、つま先を回転させるように力を込めます。

 ボキリッ。

「ああぁぁぁぁあああああああああ!」

 右足首が折れました。

 痛みに脳裏が白黒としましたね。

 イロハは足を離して地面に置き、満足げに微笑みます。

「ごめんね、痛かった? 痛かった? テツトちゃん、ごめんね」

 申し訳なさそうな表情。

 そんなこと言うのなら折らないで欲しいっす。

 イロハはしゃがんだまま両足を大きく開き、スカートの前をくいっと上げました。

 ピンク色のパンツが覗いていますね。

 何でしょうかこれは?

 色じかけですかね?

 イロハは両手のひらで自分の頬を挟みます。

「ねえ、テツトちゃん、どうしたらあたいと恋人同士になってくれるの?」

 まだ言っています。

「な、なる訳がありません」

 僕のこめかみに汗のしずくが伝いました。

 これは拷問というのでしょうか?

 だと思います。

 イロハは困ったように唇をすぼめました。

SS(ダブルエス)ランクの安心を持っているせいで、魅了スキルが効かないし。あたい、どうすればいいの?」

「し、知りません」

「ふーん」

 イロハが僕のもう反対の足首を取ります。

 また折る気でしょうか?

 僕は泣きそうになって懇願したっす。

「や、やめてください!」

「やめてください? じゃあ、あたいと恋人になる?」

 イロハはそんなに僕のことが好きなんでしょうか?

 気になりました。

「僕のどこが気に入ったんですか?」

「テツトちゃん?」

「はい」

「恋に理由なんて無いんだよ? 恋に落ちるときはね、真っ逆さまに落ちるの」

「……」

 分かる気がしました。

 僕はイヨの顔が好きですし、性格も、匂いもそうです。

 ですが、その三つが無かったとしても、僕はイヨに恋をしていたと思います。

 恋に理由なんて無いのでした。

 イロハが僕の左足首に力を込めます。

「ねえ、テツトちゃん、あたいと付き合って?」

「い、嫌です。それと、や、やめてください!」

 ボキッ。

「ああぁぁぁぁあああああああああ!」

 悲鳴を上げる僕。

 もう片方の足首も折られました。

 これでは立てませんね。

 イロハは面白くて仕方ないというふうに笑います。

「強情だね。テツトちゃん、じゃあちょっと、拷問をする人を変えてみよっか?」

 イロハが立ち上がり、両手のひらをパンパンと叩き合わせました。

 テントの陰から、すらっと背の高い一人の魔族の男が出てきます。

 くすんだ緑色の忍者の装束ですね。

 肌はもちろん紫色っす。

 どうやら控えていたようです。

「イロハさま、お呼びですか?」

「スティード、この男に拷問して。くれぐれも死なせないように」

 イロハはそう言って、僕にウインクします。

 ゾクッと背中に鳥肌が立ちました。

 スティードと呼ばれた男は、右手に赤い石のついた杖を持っていますね。

 魔法使いでしょうか?

「かしこまりました、イロハさま」

「うん。じゃあ、拷問が終わったら呼びに来てよ」

「はい」

 イロハが歩いて去って行きます。

 スティードは見下すような視線を僕に向けました。

「俺は第五王子、スティード・ゴルドローグ。魅の魔族軍の重臣の一人だ」

「お、王子?」

 王子って言えば、ジャスティンと同じ存在ですかね。

「今からお前を拷問する。もしもイロハさまの命令応じる気になったのなら、分かりました、と言え」

「わ、分かりません」

「ふっ、イロハさまには、少々やりすぎてお前を殺してしまったと伝えよう」

 そしてスティードは僕に攻撃魔法を何度も唱えました。

 ファイアーボールに服は焼け焦げ、靴まで燃えて、僕は裸になります。

 傷口に炎が入り込み、ぶすぶすと嫌な臭いを上げました。

 体に火がついています。

「やめろっ、やめろおおおおおああああああああああっ!」

 僕は火を消そうと地面に体を擦りつけながら絶叫します。

 スティードは拷問をやめません。

 高々と笑っていますね。

「うはははははっ!」

 こんな時だって言うのに、バーサクは発動しないです。

 戦闘興奮が高まっている時に発動するらしいので、戦闘の最中じゃないと発動しないんですかね?

 多分そうです。

 ひどい痛みに、僕は何度も気を失いました。

 その度にスティードは顔を殴り、僕の意識を覚醒させます。

「サンダーショック!」

 今度は雷の魔法が使われて、体がバチバチと感電しました。

「ぐあああああああああああああっ」

 痛い!

 痛い!

 ただただ、痛いです。

 僕の体のところどころが、焦げて黒くなっていきます。

 立ち上る肉の焼ける匂い。

 臭いです。

 出血がひどくなりました。

 いつしか目も見えなくなりました。

 スティードが高々と笑います。

「いいか、お前! イロハさまは俺の女なんだよ。いいか!? 俺の女なんだ! もう何度もセックスしているんだ! お前なんかに手を出させない! そーれっ、サンダーショックッ、サンダーショックッ」

「痛い! 痛いですって! ぐわあぁぁああああああああああ!」

 僕の体がバチバチと電撃で痺れます。

 イロハのことが好きなら、勝手にしてくれと言いたいです。

 それからも拷問は続きました。

 やがて、またイロハがやってきます。

「ちょっとスティード、やり過ぎだよ! ぷんぷんっ」

 僕は地面に体を投げ出していました。

 地面に頬をべったりとつけています。

 ぷすぷすと煙を上げる僕の肉体。

 体は焼け焦げて、元の姿とは変質していると思いました。

 こんな姿、仲間には見せられないです。

 瀕死です。

 体が痛いっす。

 意識が朦朧(もうろう)とします。

 もう。

 もう殺して欲しいです。

 スティードは快活に笑いました。

「すいませんイロハさま! はははっ、ちょっとやり過ぎてしまったようであります!」

「あります! っじゃ、なーい! テツトちゃんは、あたいの恋人にするんだから、殺しちゃダメだよ! それに、他の仲間をおびき寄せる人質なんだからね! ぷんぷんっ」

「まだ死んでいません!」

「そりゃあそうだけど。スティード、もう行っていいよ! 後はあたいがやる!」

「は! かしこまりました!」

 スティードが嫌な笑みをくれたような気がしました。

 去って行きます。

 イロハがまた僕の前にしゃがみ込みました。

「大丈夫? テツトちゃん、助けに来たよ?」

 もう。

 何も。

 分かりません。

 殺してください。

 殺してください。

 イロハが僕の耳元でささやきました。

「テツトちゃん、あたいと付き合おっか? そうすれば、回復スキルをかけてあげるよ?」

 僕は断固として口の力を振り絞りました。

 目の奥に熱いものがこみ上げました。

 見えない両目から、涙がこぼれます。

「嫌、です」

「どうして?」

 僕の耳から顔を離すイロハ。

 僕は地面に顔をつけたまま、フラフラとする意識の中で言います。

「僕は、自分の、両親に、対して、尊敬して、いる、ことが、ある、ですよ」

「両親? ……尊敬していることって何?」

「二人、とも、浮気(・・)、を、しなか、たこと、です」

「浮気をしない? 何それ。浮気した方が楽しいに決まっているじゃん。浮気しようよ! 浮気浮気っ」

「貴方、は、知ら、ない、んだ」

「知らない? 知らないって何が?」

「愛」

「愛? 何それ、美味しいの?」

「父、も、母、も、浮気、を、しなか、た。だから、僕、も、しま、せん」

「死んでも浮気をしないっていうの?」

「は、い」

「自分の命より大事なものなの? その、浮気をしないっていうのは?」

「は、い」

 イロハが僕の肩に触って揺さぶりました。

 やめてください。

 触られるだけで痛いす。

「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!? 自分が死ぬかもしれないんだよ? あたいと浮気さえすれば助かるのに、どーして死を選ぶの?」

 もう僕は死を免れないでしょう。

 レドナーやヒメ、イヨたちが助けに駆けつけたとしても、助かることはありません。

 この野営地には敵の数が多すぎるからです。

 だけど不思議な気分でした。

 どうしてかその時、体の痛みを感じなくなったんですよね。

 僕は最後の力を振り絞って、膝に力を込め上半身を起こします。

 イロハはびっくりしたようでした。

 僕は。

 僕は鎖でつながれた両手を上げます。

 イロハの髪を撫でました。

 目は見えないんですが、感触で髪を触ったことが分かりました。

「な、何?」

 まるで少女のような声を出すイロハ。

「貴方、は、僕、の、娘、です」

「えぇ?」

 素っ頓狂なイロハの声。

 僕は自分の首につけている理性のネックレスをはずしました。

 それを彼女に渡そうとします。

 イロハは両手で受け取ってくれました。

「何これ、くれるの? テツトちゃん?」

「貴方、に、僕の、生きる、力、を、あげる」

「……え?」

「ネック、レスの、名前、は、娘への愛」

 優しい笑顔を浮かべたつもりです。

 僕はまた地面に倒れました。

 もう、何をする力も残っていないです。

 呼吸が浅くなりました。

 体が朽ちていきます。

 イロハは言葉が出なかったようです。

 長い時間、動かずにいました。

 ぐすぐすと鼻をすする音が聞こえましたね。

 やがて彼女は立ち上がり、どこかへと歩いて行きます。

「全員、集合!」

 イロハの叫び声。

 複数のテントで休んでいた魔族たちが出てきたようです。

 足音で分かりました。

 足音の数がすさまじいです。

 何人いるかは分かりません。

 しかし、五百は軽く超えると思いました。

 神竜の赤ちゃんを奪うために、これからメルメイユに攻め込むんですかね。

 戦争が始まるようです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 拷問怖い(((゜□゜)))ガクブル
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ