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6-11 ラサナ



 朝、いつものトレーニングを済ませると、領主館の食堂で朝ごはんでした。

 レドナーがウキウキと鼻歌を歌っていますね。

 ヒメとのデートが余程楽しみなようです。

 ちょっと面白いですねー。

 そして、びっくりしたんですが朝食に麺が出てきました。

 スパゲッティのような形をしており、ソースもミートソースみたいな感じです。

 麺はマレーヌという名前のようですね。

「ミートスパゲッティだニャーン」

 ヒメが喜んでフォークで麺を巻いています。

 ちなみに日本にいた頃、ヒメはミートソーススパゲッティを食べたことが無いです。

 猫だったので当然ですね。

 ですが、見たことならあります。

 イヨが疑問そうに聞きましたね。

「スパゲッティ?」

「日本にも同じような料理があったんですよ」

 僕が答えると、イヨはなるほどと言って納得しました。

 郷愁を感じながら、マレーヌを食べたっす。

 懐かしい味であり、美味しかったですね。

 ルウはトマトベースの味であり、ミートソースとほぼ同じでした。

 イヨがヒメの唇をナプキンで拭いてあげています。

「ヒメちゃん、今度私もマレーヌを作るね」

「んにゃん!」

 ヒメの頬がもりもりと動いています。

 一気に頬張りすぎでした。

 上座にはミルフィがいるのですが、少し疲れたような顔をしています。

 イヨが気を遣って声をかけました。

「ミルフィ、二日酔い治った?」

「治りませーん。私、お酒には強いはずなんですがぁ」

 飲みすぎですかね。

 昨日は酒瓶を何本空けたのでしょうか?

 ちなみにフェンリルはまだ来ていません。

 最近は仕事開始時間ぎりぎりに来るそうです。

 そしてみんなが食事を終えて、コーヒーを飲んでいた頃のことでした。

「失礼します」とサリナの声。

 食堂のリビングへの扉が開き、サリナと魔族のジャスティンとルルが入って来ます。

 サリナが厳しい顔つきをしていますね。

 ジャスティンの肌は紫ではなく、肌色でした。

 擬態というスキルを使っているんですかね?

 灰色のTシャツにベージュの短パン姿です。

 ジャスティンが声を張って陽気に言います。

「おっはようございまーす、みなっさーん」

「おはよー」

 ルルの気の無い挨拶。

 対照的な性格の二人っす。

 彼女は黒のTシャツに白いミニスカートでした。

 ミルフィはきりっと表情を整えて、それから言います。

「おはようございますわぁ、二人とも。すぐに向かいますのでー、リビングの方でお待ちいただけますかぁ?」

「分っかりましたー! ミルフィさん」とジャスティン。

「はーい」とルル。

 二人がまた扉をくぐり、リビングに行きます。

 サリナも着いて行きました。

 見張りでしょうか?

 ミルフィが両手のひらを合わせて言いました。

「それではみなさん。みなさんにはこれから、友情のイヤーカフの製作をお願いしますねぇ」

「分かった」とイヨ。

「まっかせるニャーン」とヒメ。

 ミルフィがイヨの顔を見ます。

「イヨ、天界に行って何か困ったら。ノーティアスの名前を出せば良いから」

「分かった」

 イヨが二度頷いたっす。

 ノーティアスはミルフィの苗字です。

 勇者の家系の名字を出せば、天使族も僕たちをすぐに信用してくれるかもしれませんね。

 そして僕たちはそれぞれ行動を開始しました。

 リビングを通る途中、イヨがジャスティンに天界への階段がある場所を聞いていました。

 サイモン山の地図を出し、丸印をつけてもらいます。

 ジャスティンとルルも後で駆けつけてくれるということでした。

 僕はリュックに入っていた結消(けっしょう)(ぼく)の枝を半分に折ったっす。

 片方をジャスティンに渡します。

 これで僕たちもジャスティンも、霧の結界を解くことが出来るんだと思います。

 ジャスティンやルル、ミルフィやサリナに別れを告げて、領主館を出ました。

 門衛のドルフにも挨拶をします。

 門を出たところで、レドナーが言ったっす。

「わりい、ちょっと俺、スキル書屋に寄っても良いか?」

「あ、できれば僕も」

 僕も買いたいスキルがありました。

 イヨは小さく頷きながら考えて、「分かった」と許可をくれました。

 彼女が続けて聞きます。

「何を買うの?」

「蛇睨みだ」とレドナー。

「凝視っす」と僕。

「あ、あたしはー、ワープ系統のスキルって言うのが気になるニャン」とヒメ。

 イヨが右手を顎に当てます。

「とりあえず、停留所に行きましょう」

「んにゃーん」

 ヒメが右手を空に突き上げます。

 そして領主館からほど近い狼車の停留所に行ったっす。

 やがて来たのは狼車ではなく馬車でした。

 現在、巡行狼車の営業所ではスティナウルフの数が足りていないという話ですね。

 久しぶりに馬の(ひづめ)のパカパカという音を聞きながら、町の南区へと向かいます。

 気温の高い晴れの日でした。

 南区の停留所で降りると、僕たちは市場でフルーツジュースを買ったっす。

 それを飲みながら歩き、銀行に寄りました。

 イヨが60万ガリュ少々のお金を下ろしましたね。

 僕の凝視だけでなく、イヨとヒメのぶんも蛇睨みも買うようです。

 レドナーも20万ガリュを下ろしたようでした。

 銀行を出てまた歩き、ラサナが店主を勤めるスキル書屋へと顔を出します。

「いらっしゃい。あら? イヨちゃんじゃないかい。おはよう!」

「ラサナさん、おはようございます」とイヨ。

「ラサナ、おはようだニャーン」とヒメ。

 二人がカウンターに寄って、近況報告を始めました。

 ラサナの歳は五十代後半でしょうか? 

 色合いこそ違うものの、いつも魔法使いのようなローブを着ていますね。

 僕はスキル書屋の本棚をじっくりと見て歩きました。

 レドナーも同じように、スキルタイトルを拝見しているようです。

 Eランクの本がたくさん並んでいますね。

 全体的に見た感じE、D、Cランクのスキル書はあるんですが、それ以上のランクのスキル書は置いていないようです。

 僕はEランクのスキルの凝視一冊と蛇睨み二冊を見つけて取り、カウンターへ行きました。

 レドナーも蛇睨みを一冊持って、みんながラサナの前に集まります。

 僕とレドナーがカウンターにスキル書を置きました。

「おやおや?」

 ラサナさんが味のある笑顔を浮かべて、置かれたスキル書を眺めます。

 続けて聞きました。

「蛇睨みのスキルをそんなにたくさん買うのかい?」

「必要なんです」

 イヨがラサナの心を読もうとでもするように見つめました。

 ラサナはほっほっほと笑います。

「これじゃあ敵さんは青い盾を持てないねえ。分かったよ。一冊二十万ガリュと言いたいところだけど、十八万ガリュにするさ」

「値引きしてくれるニャン?」

 ヒメがびっくりしたように聞きました。

「ほっほっほ。ヒメちゃん、わたしゃねえ、頑張っている者に味方したくなるんだよ。さ、お支払いを済ませておくれ」

 イヨがバッグから財布を取り出します。

 凝視の値段も十八万ガリュということでした。

 イヨが五十四万ガリュ、レドナーが十八万ガリュを支払います。

 それぞれが一冊ずつ持って、習得を実行しました。

 ふと、レドナーが前に進み出ます。

「ラサナさんよお、この店に、Bランク以上のスキル書は売ってねーのか?」

「ほほほほ、無いねえ。無いと言うことにしておこうか。ちなみに、あんたはなんて言う名前のスキルが欲しいんだい? もしかしたら取り寄せることができるかもしれないよお?」

 意味ありげな口調でした。

 まるで、高ランクのスキル書をカウンターの奥に隠しているような雰囲気っす。

 実際どうなんですかね?

 分からないっす。

 レドナーが右手をカウンターにつけます。

「雷系統の強いスキルが欲しい」

「雷系統の強いスキルって、Aランクスキルの雷帝かい?」

「雷帝? いや違うんだ。剣スキルの中でも、雷系統のスキルだ」

「……あんたあ、私にいくら払うつもりなんだい?」

「くっ……」

 レドナーが歯噛みします。

 言葉が途切れました。

 今度は僕が前に出ました。

「いまお金は無いんですが、いつか買うとして、雷帝はいくらになりますか?」

「さあてねえ、坊や。坊やの傭兵ランクはいくつだい?」

 坊や呼ばわりされたっす。

 かなり悔しいです。

 僕は眉をひそめつつ答えました。

「Dです」

「ふーん。雷帝がいくらするかだったかい? いや? その前に雷帝なんてスキルがあったかねえ? ……最近ボケが激しくてねえ。わたしゃ忘れちまったよ。Dランクの雷魔法のスキルの、サンダーボルトなら、60万ガリュだねえ」

「……」

 舐められているようです。

 やはり悔しいっす。

 ヒメが後ろから声高に聞きました。

「ワープ系統のスキルはいくらニャン?」

「ワープ系統のスキル? そんなスキルわたしゃ知らないねえ。だけどE、D、Cのランクスキルに、ワープできるスキルがあったようなー、無かったようなー」

 ラサナは胡散臭そうな顔で首を傾げています。

 ヒメが頼むように聞きます。

「んにゃん~、教えてくれニャン~」

「んー? イヨちゃんに聞けば、一つ分かるかもねえ」

 ラサナがイヨに顔を向けました。

 イヨが無表情で答えます。

「カウンターですね」

「おお! 思い出した! それだそれだ! カウンターさ! イヨちゃん、この間買って行ったもんねえ。ヒメちゃん、カウンターなら敵の後ろにワープすることが、できるかもしれないねえ」

「うぅー、何か隠しているような言い方だニャン」

「隠すも何も、最近ボケが激しくてねえ……」

 ゆっくりと顔を振るラサナ。

 イヨがヒメの腕を引っ張ります。

「ヒメちゃん、みんな、行こう」

「んにゃん、ワープスキルは買わないかニャン?」とヒメ。

「あ、はい」と僕。

「おばさん、言っとくけど俺の傭兵ランクはCだかんな」とレドナー。

 みんなでスキル書屋を出ました。

 これから天界へと向かわなきゃいけないっす。

 その前に、必要なものを揃えるため雑貨屋に向かいます。

 途中、隣に並ぶレドナーがつぶやきました。

「あのおばさんには恩を売った方がいいなこりゃあ」

「そうですね。スキルの情報を聞き出すためにも、ラサナさんには恩を売りたいですね」

「だけどどうやって恩を売れば良いんだ?」

「んー」

 僕は顔をしかめて唸りました。

 レドナーが顔を向けます。

「困っているところを助けるとかか?」

「そうすね。それに、傭兵ランクをもっと上げた方がいいみたいです」

「今度ダリルさんに話してよお。ラサナさんからの依頼は俺たちに任せるように頼むってのはどうだ?」

「それはありですね」

 雑貨屋で買い物を済ませて、また巡行狼車の停留所へと行き、長椅子に腰かけました。

 次に向かったのはサイモン山ですね。



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