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1-1 異世界転移



 マジついてないですよ。

 下半身が動かないんです。

 中学を卒業したばかりなのに。

 ……最悪ですよ。

 事故があったっす。

 あの日。

 まだ寒々とした気温の中でしたよ。

 風邪を引いたうちのおヒメさまが、具合悪そうにしているもんで。

 あ、猫のことです。

 ヒメっていう名前なんです。

 動物病院に僕が歩いて連れて行って。

 その帰り道。

 歩道から子供が飛び出したんですよね。

 ボールを追っかけて、マジ危ないっすわ。

 ヒメはたぶん、子供を助けようとしていた。

 僕の両腕からジャンプしたっす。

 焦りましたよ。

 気づけば僕も飛び出して。

 子供とヒメに覆いかぶさりました。

 後ろからはスピードにのった乗用車。

 ピンポン玉のように僕の体がぶっ飛んで。

 脳裏が白黒とフラッシュしましたね。

 辺りにいた大人たちが駆け寄ってきたっす。

 がやがや。

 やがてピーポーピーポーと言う音が聞こえてきましたよ。

 病院で頭と右腕を緊急手術したっす。

 その結果。

 右腕は治るそうです。

 でも。

 脳の損傷は治らずじまい。

 下半身不随っすね。

 ……マジ無いっす(ぴえん)。

 どうにかしてほしいです。

 でも、どうしようもないっすよね。

 幸運が二つありまして。

 子供の無事と。

 ヒメの軽傷。

 ああ良かった。

 意識を取り戻したあとで。

 子供の家族が、たびたび病室に来ましたね。

 盛大な感謝と、謝罪の言葉。

 元中学のクラスメイトも、お見舞いに来てくれました。

 事件は新聞に載って、テレビでも放送されたとか。

 そうか。

 僕の命は、誰かを救うことができた。

 人生に意味はあったかも。

 そんな達成感をじんわりと感じつつも、ですよ。

 両足で歩ける生活は、幕を閉じました。

 朝。

 自室で寝ています。

 退院したんです。

 だけど。

 何もすることがありません。

 やる気もでないっす。

 ベッドの横には真新しい車いす。

 乗ることにまだ慣れません。

 布団の上にはヒメがいて。

 僕は両手で捕まえて、持ち上げます。

「ニャーン」

 可愛い声。

「あの時、お前が無事で良かった」

 僕の両目がじんわり。

「ニャーン」

「本当に良かったんだ」

 ヒメは嬉しそうに鳴くだけっす。

 猫に日本語が分かるわけなくて。

 枕の横に置きます。

 ヒメはそこで丸くなりました。

 僕は頭の後ろに両手をくみます。

 人生、これで良かったっす。

 どうせ生きていたって……。

それに僕、コミュ障だし。

 いいんです。

 だけど。

 僕はいま15才。

 日本人の平均寿命は85ぐらいすかね?

 だとしたら、あと70年……

 何をすれば良いですか?

 分からないっす。

 特技は柔道ですね。

 小学校の頃からやってます。

 中学の青春を聞かれたら、部活動ですと答えます。

 ネクラ? そうすね。

 僕はコミュ障の柔道男ってことで、はい。

 その通りです。

 高校からは、締め技が使えるようになるはずだったのに。

 もうできないですね。

 はは。

 悲しい。

 ふと。

 室内にまばゆい光が降りたっす。

「え?」

 いきなり電気が?

 電気って勝手につきますっけ?

 僕は目をこすって、周りを見回します。

 声が起こったっす。

「アナタタチニハ、コチラニキテモライマス」

「……は?」

 室内の光は光度を強めて。

 やがて、僕はその場から消失したんです。

 ヒメまでもが、部屋からいなくなりました。


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