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94話:戦士の狂宴-決勝⑤

 闘技場を歓声が包み、実況のサミュが声を張り上げようと乗り出す。


 そんな様子を手で制したのは、クシャーナ。


「……普通さぁ、これだけ綺麗に決まったらもう勝ちでいいじゃん?」

「……ばか言え。これからだろうが」


 覚醒状態から解放されたのか、クシャーナが立ち止まり、呆れた声を出す。


 その視線の先には、ヨレヨレになりがらも無理やり立つストリックの姿。辛うじて残っていた『ドッペルゲンガー』のストック、その最後の1回でどうやら凌いだらしい。現在は『開放』の代償によりリキャストタイムが発生し、これ以上の使用はできなくなっている。身代わりを以てしても全ては捌けず、正に満身創痍と言っていい状態であった。


 それでも、二人は対面で笑い合う。


 体力もない、魔力もない、そんな中での泥仕合。身体は重く、栄えある決勝戦にあるまじき、実に不格好などつき合いが繰り広げられる。まともな魔法も使えない彼らを支えるのは、【占星術師】のスキル。今二人が使用しているのは『オラクル』だが、日常的に使えるそれらは、魔力消費が極端に少ないという特徴を持つ。


 『オラクル』の効果は、危機察知という名の未来予知。


 自身にとっての悪い予感を先に伝える他、白兵戦などの一瞬が命取りになる場面では、脅威が光の強弱で表される。剣で突きを狙おうとすれば先端に集中するし、剣での攻撃と見せかけての拳撃では、控えた拳に光が集まる。要はこのスキルにかかれば大抵の不意打ちは成立しないし、相手の狙いも高い精度で読めるのである。スローモーションの斬り合いの中で、お互いの読みと駆け引きが可視化され、二人の世界を形作る。


 そんな世界を、人々は歓迎した。


 熱気が闘技場の舞台を中心に渦巻き、最後の一人になるまでのお祭りは続く。満身創痍な身体に鞭を打つ両者だが、分が悪いのはストリックのほうだ。固有スキル『天元技宝』による限界突破(リミットブレイク)、その手札は既に使用しており、現在はほとんどのスキルが使用できない状態にある。


 しかしクシャーナには、まだ呪具を利用した凶悪コンボの手がある。


 そのうちの一つ、呪具『チェインルートの指輪』による強制的な移動阻害。近接職にとって、足を止められることは致命的と言っていい。打ち合いの最中に時折混ぜられるそれは、しかしストリックの動きを止めるに至らなかった。闇属性のスキル『シャドウ・シャドー』、闇より湧き出る無数の手は今や彼女の身体に纏わりつき、スキルによる遠隔操作を可能にしていた。


 これをストリックは己のセンスのみで、瞬間的に対応して見せたのだ。


 そして、その対応の副産物もがこの拮抗した打ち合いを支えている。魔力が付きかけた二人の切り結び、当然クシャーナは身体能力強化の効果を持つ『清貧な賢者の首飾り』を解放している。表裏一体の効果、魔法使用禁止という重い縛りが科されるそれは、クシャーナにオルゲートばりの怪力を発揮させる。


 対するストリックに、直接的な強化スキルはない。


 だが『シャドウ・シャドー』を身体の補助に回した結果、結果として全ての筋肉を支え底上げする、疑似的な身体能力強化が付与されたのである。こうして生まれた互角の戦いは、擦り切れ寸前の体力をどこまでも酷使する。限界が、近い。両者が共有した想いが、やがて一つの決着へと導いていく。


「はぁ…………いい加減、蹴りつけようぜ」

「ふふ、乗った」


 お互い距離を取り、最後の一撃へと力を溜める。


 クシャーナは呪剣『トリステスアイル』の柄を両手に持ち、静かに水の刀身を整える。対するストリックは一呼吸置いた後、徐に短刀を手放した。今はストリックにも『オラクル』の危機察知があるとはいえ、やはり読みと駆け引きにはクシャーナのほうに分がある。ならばとストリックが選んだのは、一つの武器の威力を極限まで高める一手。


 自身の持つ選択肢を一つに絞り、そこに全てを注ぎ込む。


 当たれば勝ち、外せば負け。その選択を強制させる、ストリックの背水の陣。彼女の身体を伝う無数の黒い手はやがて構えた短剣にも伸び、その刀身を長く厚く膨張させた。さらに背中から黒い羽が噴き出る。一直線上の強さと速さのみを追求した、最終形態。お互いが己の信じる武器を正面に構え、それぞれ最速の突きが繰り出される。


「両者、激突ーーーーーーっ!!!!」


 確実に、これで決まる。


 総立ちの観客が固唾を呑んで見守る中、実況のサミュが声を絞り出す。お互い最短距離を一直線に詰める二人の動きは、一瞬の煌めきと切なさを残し、多くの人々の目に焼き付く。残されたスキルで黒の弾丸と化したストリック。対するクシャーナが頼るのは、『チェインルートの指輪』による高速起動。物理法則を無視したそれは、最後まで彼女に寄り添い道を照らす。


 ここからは、両者の目でしか追えなかった出来事。


 お互い正面衝突の軌道を描きながらも、どちらもその道を譲ることはない。あとは狙いすました一撃が、相手を捉えるかどうか。刹那の駆け引きと判断の結果が、この決勝戦の終着点となる。ここで最後の駆け引きを仕掛けたのは、クシャーナ。突きの要領で突き出していた両手を、突如左右に開いたのである。


(刀身が消えてやがる……っ!?)


 そして、彼女が右手に持つ呪剣『トリステスアイル』からは、半ばから生み出された水の刀身が消えていた。何故ここに来て? ただの魔力切れ? 一瞬が永遠に引き延ばされる中、さらにストリックに選択肢が突き付けられる。『オラクル』によって可視化された脅威は依然その刀身を淡く照らしていたが、突如何もないはずのクシャーナの()()が、眩い光を放ったのである。


(くそっ……!! どっちだ……!?)


 視覚的に見るのであれば、当然剣が握られている右手のほうである。その剣が振られるであろう軌道を見切り、クシャーナの胴体に短剣を突き込めればストリックの勝ち。だがそちらがブラフならば、全く逆の結末になることは想像に難くない。これを見切れるかどうかが、勝負の分かれ目。何故だか眼前に迫るクシャーナの顔が笑っているような気がした。


 結果的に、ストリックは何もないはずの"左手"の脅威を避けた。


 その選択は間違いであり、そして正解であった。


 クシャーナの左手親指にひっそりとはめられていたのは、いつかの報酬アイテム。ストリックも参戦した戦いの末に獲得した呪具、『()()()()()()()()()』。狂気を拡散するその指輪が人の本能を刺激し、その場一番の脅威として信号を送ったのである。それに釣られたストリックは、やや遅れてその事実に行き着いた。――最後の最後で読み間違えた。そう達観する彼女の懐には、再び生み出された水の刀身が突き立つ。


 そのはずだった。


 お互いの纏った速度が嘘のように、二人は中央で身体を重ねていた。剣は確かに片方の身体を貫いており、長い長い決勝戦に間違いなく終止符を打った。そこには全てを出し切った解放感はあれど、同時に訪れたのは――深い絶望と怒り。


「お前……っ!! なんでだよ…………っ!!?」


 その深い、失意に沈んだ問いかけは、観客の声と決着を告げる声に掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。



「【戦士の狂宴(ウォーリアフィースト)】決勝戦、勝者――ストリック=ウラレンシス!!!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 1回戦からストリックを応援していたので、何はともあれ優勝してくれたので嬉しいです。
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