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90話:戦士の狂宴-決勝①

 中日3日目、【戦士の狂宴】決勝前日は、静かに過ぎていった。


 中日2日目のようなお祭り騒ぎはなく、まるで示し合わせたかのように各自バラバラに過ごした。周囲の高まる熱気を余所に牙を研ぎ、来る戦いへと備える時間。それは決勝を控えた二人だけの話ではなく、必ず起こり得るであろう【潜むもの(ラークス)】の襲撃をも見据えたものであった。


 その名の通り、彼らは表舞台から姿を消した。


 ギルドや教会の警戒を嘲笑うかのように行方をくらませ、ついぞその尻尾を捕らえることは叶わなかった。しかし、これまでの襲撃や行動などを加味すると、まず事は【戦士の狂宴】中に起きる。そうでもなければ、ただでさえ警戒が何倍にも膨れ上がるこの時期をわざわざ選ぶはずがないのだ。


 半ば確信めいた予感を胸に、彼らは決戦の時を迎える。



 *



 運命の日は快晴で迎えた。


 本日は決勝の一仕合しか組まれていないが、人の動きは早い。


 何時間も前から闘技場に入り、見知らぬ隣の人と熱く語る男性。闘技場外に並ぶ露店をゆっくり見て回り、祭りの雰囲気を楽しむ親子連れ。同業者を見つけては、スカウトや交友を深める冒険者。チケットが取れず、朝から酒場に入り浸る酔っ払い。様々な人がいれど、彼らが求めているものは一つ。


 それは、今後何世代に渡って語り継がれるであろう、最高の戦い。


「さあ! いよいよ名実ともに、最強の冒険者が決まる一戦! 【戦士の狂宴】決勝の開宴ですっ!!!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


 実況のサミュが運命の仕合に向けて、進行を始める。


 観客が湧く中、まるで夜のように闘技場が暗く包まれる。闘技場舞台の真上に浮かぶモニター上の魔道具によるものか、演出も年々凝ったものへと変わってきているようだ。観客の期待を含んだざわめきが起こる中、闘技者の入場口がスポットライトで照らされる。


「さあ、まずは東口からの入場です!」


 おおっ、と観客の声が漏れる中、ストリックが先に入場してくる。


 今年は入れ替え戦から常に上位をキープし、その実力を遺憾なく発揮。中盤以降はぴったりクシャーナにくっ付き、序列2位を譲らなかった。今回の【戦士の狂宴】は、剣士二人を破っての決勝進出。ヤムを打ち破って駒を進めた新進気鋭の剣士リュウレイを全く寄せ付けず、長い沈黙から解き放たれた古豪の剣士スカルとの激戦を制したものだ。


「強さこそ正義! 勝利に執念を燃やす稀代の狩人は、今日頂点を盗みに来た! 【灰掛梟(グレイオウル)】ストリック=ウラレンシス!!!」


 拍手喝采に迎えられ、闇夜の狩人が舞台に降り立つ。


 彼女の中ではケチが付いてしまった、スカルとの準決勝は最早過去。今は目の前の一戦、決勝のことしか頭にはなく、観客の声もまるで届かない。その鋭い眼光は反対側の西口、暗闇の中にスタンバイしているであろうクシャーナにしか向けられていなかった。


「お次は、西口からの入場です!」


 サミュのアナウンスに、ひと際大きな歓声が上がる。


 現在の冒険者序列1位。その座を譲らず、1年死守した絶対王者。本戦では新旧1位対決となったオルゲート戦で新しい姿を見せ、怪力を誇る彼を力で圧倒して見せた。かと思えば、次のエミット戦では魔術師顔負けの魔法も存分に披露。彼女の強さは手札の多さと、柔軟な思考力。追われる立場ながら常に進化するカリスマは、今日も微笑み場を掌握する。


「絶対王者降臨! 昨年突如現れた新星は、何処までも光り輝く! 彼女の眩さを遮るものは何もない! 【瑠璃色蝶(ラピスラズリ)】クシャーナ=カナケー!!!」


 舞台に役者が揃い、熱気が沸き上がる。


 両者の直接対決ではクシャーナの全勝とあって、決勝にしてオッズが偏るかと思われた。だが5:5に近いその集計結果は、ここまで来た両者への純粋なリスペクトに溢れていた。またストリックがオッズを撒き返した理由は、本戦の内容を踏まえたものでもある。一つは対クシャーナ用に、各自対抗策が取れるようになってきたこと。オルゲート、エミット戦がまさにそうであり、徐々にその手の内は明かされつつあった。


 もう一つは、ストリックへの期待。


 実力派の新旧剣士を打ち破り、改めてその強さをしかと見せつける結果となっていた。あとは単純に、入れ替え戦からの執念が実るのを期待する声が大きかったのだろう。序列1、2位が頭一つ抜けているという今の評価は本戦を経ても大きくは変わらず、クシャーナを倒せるのはストリックだけとの見解がより深まっていた。


 絶対王者陥落という、刺激的な響きが観客を酔わせる。


 盛り上がる観客の声が四方八方から降り注ぐが、相対した両者の耳には最早入らない。彼らはお互い読みと反応で戦術を柔軟に組み立てていくタイプであり、仕合が始まる前からすでに彼らの闘いは始まっていた。それでも、相手の心理を乱すような声掛けや揺さぶりなどは今はいらない。ただ全力を以って、倒す。


 それだけを共通の想いとして、別れ際に拳を軽く打ち合う。


 お互い認め合った宿敵として、来るべき戦いへと歩を進める。開始位置に付いた二人はゆっくりと向き直り、流れるような動作で己の得物を抜いた。クシャーナは愛剣である呪剣『トリステスアイル』を右手で正面に構え、ストリックはいつもの短剣と短刀、『影縫い』と『影斬り』を交差して構えた。


 二人が構える武器は普段と変わらない。


 クシャーナの武器はワンオフの逸品だが、ストリックの武器は比較的(お金さえあれば)量産できる汎用品である。もちろん最高級の素材をふんだんに使った、ある意味での特注品なのだが、彼女はこれらの武器を愛用している。理由は、闇属性への恩恵がある武器が少ないこと、投擲など割と雑に扱えること、それらを踏まえて量産できる点にある。そして素朴で実用性のみを追求したフォルムは、耐久面や切れ味など、彼女が求める水準をしっかりと満たしていた。


 二人が没入する世界が拡がるかのように、闘技場も徐々に静まり返ってくる。そして両者の戦意の高ぶりを直に感じ取ったのか、実況のサミュが息を大きく吸い込み、開始のゴングを鳴らす。


「【戦士の狂宴】決勝! 【瑠璃色蝶】クシャーナ=カナケーvs【灰掛梟】ストリック=ウラレンシス!!」


「――――始めっ!!!!」



 *



 決戦の火蓋は切って落とされた。


 まず初めに動いたのは、クシャーナ。


 ストリックのお株を奪う電光石火の勢いで、一気に距離を詰める。それは対エミット戦でも見せた、呪具『チェインルートの指輪』を用いた速攻。魔術師など遠距離メインの相手ならばともかく、同じ近接職相手にこの選択は、クシャーナからすれば珍しいことであった。一瞬虚を突かれたか、後手に回ったストリックだったが、やがて持ち前の間合い把握術で押し返す。


 対リュウレイ戦でも見たような、激しい切り結び。


「ご挨拶も兼ねて、って感じかな」

「決勝だというのに……楽しんでますね」

「ほっほ、多くやり合った者同士、剣で語ると言ったところじゃな」


 呆れや愉悦、称賛など様々な感情が解説の声に乗る。


 闘技場のど真ん中で踊る二人は、誰よりも楽しそうに笑っていた。お互いの実力を示し合わすかのように、遠慮なく己の得物をぶつけ合う。守りの剣術『護剣』を操るクシャーナだが、決して攻めが不得手な訳ではない。守りが得意と言うことは、要所の見極めが正確ということ。それを淡々と攻めに転用するその技術は、まるで星に導かれるような煌めく軌跡を描いていた。


 刺すべきところに刺し、斬るべきところを斬る。


 実に実直な、理にかなった綺麗な太刀筋。それは正道を突き進むリュウレイ、果てには剣の頂たるスカルをも彷彿とさせた。それに相対するのは、我流も含んだ邪道を操るストリック。道の逸らし方と煙に巻く手腕は、間違いなく"十拳"随一。一度その術中に嵌まれば、違和感だけを残して完封されてしまうだろう。正反対の剣を振るう二人の攻防は、徐々に読みと反応の戦いへと変わっていく。


 慣れた読みを罠に変え、それにすら対応していく。


 対戦経験の多い二人にしか見えない景色が、決勝戦の舞台で描かれていく。クシャーナがスカル達と異なる点、それは自身の剣筋に固執しないこと。リュウレイはそれに固執して負け、スカルの完成度はストリックに敗北を一手手前まで突き付けた。クシャーナがどちらに転ぶかは分からないが、彼女は分が悪いと見るや、そこを瞬時に変える柔らかさをも備えていた。


 剛と柔を併せ持つ彼女は、正に変幻自在。


 ストリックの邪道をも捌き続ける彼女の読みと精度は、他者の追随を許さないものがあった。そんな彼女の意表を突くとなれば、やはりどこかで強硬策に打って出るしかない。ただの打ち合いでは埒が明かないと、ストリックがやや強引に間合いを詰める。クシャーナの中段切り払いを下に沈み込むことで避け、そのままの勢いでクシャーナの脚に狙いを定める。


 盗賊の機動術『クロスステップ』で差し込んだ、刹那の駆け引き。


 クシャーナの機動力とフットワークの軽さは脅威であり、そこを潰せれば大きなアドバンテージを得ることができる。攻撃に全振りしたストリックの特攻は、身代わりスキル『ドッペルゲンガー』を持つ彼女だからこそ成立する一面も持つ。そんな分の悪くない、強い攻めを見せたストリックに対し、クシャーナは軽やかに宙に舞う。


 重さを感じさせない、蝶の飛翔。


 観客が一瞬目を奪われるほどの優雅さを残し、ストリックを跳び箱代わりにその攻撃を捌く。背中をトンと掌で軽く叩き、立ち位置を入れ替える。使われたストリックは空振りと合わせて怒りを露わにするが、クシャーナがただ避けるだけで終わらせるわけはない。


「ふふ、もらっちゃった」

「――――てめぇっ!?」


 咄嗟にストリックが肩に手を置くが、もう遅い。


 いまやストリックの代名詞とも言える魔道具『闇夜の羽衣』。彼女の背を守る優秀な装備は、今クシャーナの左手小指に収まる呪具『リトルミミックの指輪』に吸い込まれていた。呪具の効力は、例え他者が装備している武具であっても有効だ。固有能力【闇の帳】を始め、ストリックの戦術を大きく支える装備の強奪。そんな予想しなかった事態に、ストリックの動きが一瞬止まる。


 そして、そんな逡巡をも計算に入れたクシャーナの次の一手。


 動揺を隠せないストリックを、異なる衝撃が襲う。突如響き渡った大音量の奇声に耳を反射的に覆うが、異常はそれだけに留まらない。視界が暗闇に遮られ、さらには別の世界の景色が展開される。状態異常を疑いながら、直ぐに別の答えに行き着くストリック。その強いられた視界の中で、脅威は既に差し迫っていた。


「どーん」


 クシャーナの気の抜けた掛け声と共に発射されるのは、水の礫。


 いつの間にかストリックを包囲していたそれは、容赦なく彼女の身体を貫くのだった。

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