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9話:呪具が誘う迷宮探索③

 狂気をばら撒く呪具、『純然たる悪意の指輪』。


 それがギルドを通して、クシャーナの下に舞い込んできた呪具の情報。聞けばこのダンジョンでは少し前から妙な噂が立っていた。錯乱したモンスターが相次いで出現したり、冒険者同士のいざこざの割合が増えていたというのだ。


 ギルドはこの事態を上記の呪具が関係していると見て、クシャーナに調査を依頼していた。



「……というか、なぜあなた達も初めて知ったような顔してますの?」

「あはは……ごめん、ちゃんと聞いたの今が初めてで」

「まあ適当に付いてきただけだからな」


 クシャーナの説明を受け、初めて知ったと関心顔の面々。


 エミットが呆れた風に顔を振るが、ストリック達の無計画さは今に始まったことではなかった。クシャーナ達を心配して追ってきたというのがヤムの話だったが、今度はエミットからその理由が聞かされる。


「もうすぐ【戦士の狂宴(ウォーリアフィースト)】だというのに、まさか忘れてないでしょうね?」

「「あ」」


 エミットの言葉を受け、クシャーナとストリックが間抜けな声を出す。


 【戦士の狂宴】。それは"十拳"に名を連ねる冒険者達が一堂に会する、年に一度のお祭りである。もちろんほのぼのと交流を深める催しなどではない。冒険者は強さに憧れ、高みを目指すもの。そしてその冒険者のトップ集団が集まるともなれば、競うものはただ一つ。


 それは、冒険者最強の座である。


 現"十拳"のトップである序列1位は、ここにいるクシャーナだ。冒険者最強の座としては文句のつけようもない。だが度々同世代の間でも最強論争が起きてしまうのは、ひとえに"十拳"の序列制度、その弊害によるものだった。


 その仕組みはシンプルなものだ。


 "十拳"入りを目指すものは、下位から挑戦を申し込む。先にそれより上位の冒険者には挑戦することはできず、必ず一段ずつその序列を上げていくしかない。その性質もあってか、長らく序列10位は固定されており、そのお眼鏡に叶ったものだけが次のステージへと進めるのだった。


 しかし冒険者の数だけ、その戦闘スタイルも多岐にわたる。


 つまりは、どうしても避けられない「相性」が存在するのである。それ故9位が8位には勝てなくても、5位には勝てる、といった現象が起きてしまうのだ。その不公平感や巡りあわせを解消するのが、【戦士の狂宴】。


 クシャーナ達を座らせ、懇々と説明するエミット。


 そういう理屈で開催される、結局はただのお祭りではあるが、冒険者の関心は高い。【戦士の狂宴】はトーナメント形式で行われる。その当時の序列が多少反映こそされるが、基本はクジ引きで相手は決まる。今まで見たくても見れなかった1位vs9位と言った、ある種のドリームマッチも拝めるのである。


 そして結果次第では、"十拳"の序列も入れ替わる。


 そこに向けて、意欲を燃やしまくっているのがエミットだ。もちろん通常の入れ替え戦でトップを目指す気概は変わらないが、相手との相性がよかっただけなどと言われるのはまっぴらごめんだ。誰が相手でも真っ向から勝負して勝つ。それが彼女の信念だった。


 その張り切った演説に圧倒されるクシャーナ達。


 仲良く正座して静聴する中で、隣のヤムに話を振るのはセミテスタだ。


「エミットが来た理由は分かったけど、ヤムはどうして?」

「え? そりゃエミットのお守りだよ」


 あっけらかんと話したヤムの言葉に、場の雰囲気が固まる。


「んなななななな、何を言ってますの!? ヤム!」

「えー? だってエミットってば、凄い方向音痴でしょ。探しに行って戻って来ないとかなったら、それこそ意味ないじゃん」

「あー……」


 セミテスタ達が察した表情になる。


 エミットとは"十拳"絡みで知り合った、冒険者仲間である。元々派閥や出自も違うことから共に冒険をしたことは実はほとんどないのだが、割と有名な話ではあった。普通の冒険者が聞くと異次元レベルではあるが、帰り道が分からなくなり、ダンジョンをぶち抜いて行動することもあったらしい。


 彼女の異名である【天変地異(カタストロフ)】。


 それは強烈な魔法を称える他に、天災級の方向音痴でダンジョンの形を変えてしまう、厄介なじゃじゃ馬に付けられた呼称でもあった。


「ヤム! これ以上は許しません事よ!!」

「むー! なんでわざわざ付いてきてあげたのに、怒られなきゃいけないのさ!」

「おいおい、これも呪具の影響か……?」

「いやぁ……これは素じゃないかなぁ」


 二人してキーキー言い合う中で、呆れるのはストリック達。


 一人一人がとんでもない戦闘能力を持っているだけに、仮に戦闘が始まれば、その規模は普通の冒険者の比ではない。それは先の戦闘を見れば明らかだ。


 それでも信頼しているからこそ、吐ける言葉や見せる態度もある。同じ頂きを目指す友となった存在に遠慮は不要。そう示し合わすかのように、騒がしい声がしばしダンジョンに響くのだった。

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