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88話:十拳十色③

 クシャーナがハクマを引き連れて向かった先、そこは闘技場であった。


「クシャーナ殿、これは流石に……」

「えー、いいじゃん」


 さらに場所は室内施設ではない。


 二人が今いるのは【戦士の狂宴】本戦が行われた舞台、つまり闘技場のど真ん中であった。軽くついて来たことを後悔し始めたハクマをよそに、クシャーナはウキウキで手合わせの準備を進めている。せめて室内施設で……というハクマの申し出はすでに却下されており、途方に暮れる始末であった。


「ほら、もう武器も用意してあるんだよね」

「どこから……!?」


 身体の前にかざした手の先から地面に落ちるのは、訓練用の武器。


 右手小指に付けた呪具『リトルミミックの指輪』に忍ばせたそれを、手品のように大げさに見せつける。ご丁寧にハクマ用の手斧二丁まで用意してあり、その周到さが見て取れた。この呪具は普段『無効』で制限を掛けているが、実は近づけた魔道具を見境なく呑み込む厄介者でもある。魔道具でなくても直接触った小道具などもその対象となり、今回はその要領で運搬してきたという訳だ。


 管理が難しい呪具ではあるが、当然メリットもある。


 それは呑み込んだ魔道具の性能強化。収納した時間分だけ強化補正が入り、上限はあれどなかなかこれが馬鹿にできないのである。クシャーナはこれを左右の小指に付けており、右が使用頻度の高いもの、左に収納メインで雑多に収めている。指輪が吐き出すものも本来ランダムだが、クシャーナは固有スキルの出力を調整することで、時間をかければ目当ての魔道具を引っ張り出すことができた。


 そんな背景をよそに、クシャーナは軽くハクマの元に手斧を放り投げる。


 それなりの重量を持つそれがハクマの足元に転がるが、彼の動きは鈍い。それもそのはず、まずハクマの立場は今非常に危うい。教会の保護対象となっているが、言うならばお目こぼしを頂いている状態な訳で、武器を持って暴れることがどういう評価に値するかは、想像に難くない。


 更にもう一つ、相手は本戦決勝を間近に控えるクシャーナである。


 いくら彼女が望んだこととはいえ、理性ある大人であれば断って当然。すでに出番を終えた"十拳"の面々とは全く立場が違う上に、【潜むもの】という敵対組織の襲撃も視野に入れておかなければいけない。全ての要素が付き合うべきではないと警鐘を鳴らしているが、ハクマは明確に拒絶できないでいた。


「もうこっちから攻めちゃうよー?」

「い、いや、ですから……」


 クシャーナは長剣を片手で遊ばせているが、どうやらあまり待つ気はなさそうだ。


 ハクマ自身、根っからの武闘派である。現在の冒険者序列1位との打ち合いなど、望んでもそう叶えられる機会はない。今でこそ"十拳"の末席に名を連ねているが、【戦士の狂宴】が終わればそれもはく奪されるだろう。今しかないかもしれない、その想いが胸を焼いては現実がそれを冷ましていく。煮え切らないハクマに業を煮やしたのか、クシャーナがズバリと言い放つ。


「だから、そもそも大丈夫なんだよ。首のそれ、大っぴらに人に危害を加えられない制御装置みたいなのだから」

「なっ……!?」


 呪具『恩讐の護衛騎士の首輪』。


 ハクマの野太い首にはまったそれは、文字通り教会が用意した首輪である。


 ハクマはこれを位置情報を確認する魔道具だと聞かされていたが、どうやらそれも方便だったらしい。護衛する対象を守るために、身体能力強化などの恩恵があるが、その力はごく限られた場面でしか使えない。その制限を明確に破ろうとすれば、物理的に首輪が締まり、地獄の苦しみを味わわせるのである。


 その物理的拘束は、本来死人である彼には効果がない。


 だがしっかり神聖魔法で強化されたそれは、戒めの首輪足りえる魔力を秘めている。しばらく首元に手を当て考えていたハクマだったが、顔を上げた彼は笑っていた。


「ならば、憂いはなし!」

「ふふ、いいね。それが自由ってことだよ」


 首輪をはめられた戦士に自由と謳う剣士。


 教会の立場を考え、その呪具の存在をギリギリまで黙っていたクシャーナだったが、彼を説得する最後の手札として切った判断は、どうやらいい方向に転がったようだ。逆に縛られて得る自由もある。そう笑いかけるクシャーナに呼応するように、剝き出しの闘志が沸き上がるのだった。



 *



 重量級の戦士と軽量級の剣士の打ち合い。


 ただ肉体と技術だけの勝負であれば、クシャーナの勝機は薄い。というか、まず同じ土俵では戦えない。クシャーナの戦闘スタイルは、固有スキル下における呪具の操作と、異種的スキルの併用が基本線。全てのスキルが禁止となると、正直手合わせもままならないのだ。そこで提案したのが、『攻撃的なスキルの使用禁止』ルールである。


 これを、ハクマは快く了承。


 結果、闘技場を軽やかに舞うクシャーナをハクマが猛追する展開となっていた。『攻撃的なスキル』の定義は割と自己申告な部分はあるが、ハクマはどうやらほぼ培った武芸のみで戦っているようだ。それでも鍛え抜かれた肉体はスキルなしでも驚異的なキレを見せ、真面にもらえばそれだけで相手を落とせる威力を秘めていた。


 それでも攻撃を捌くクシャーナの動きに淀みはない。


 今の彼女は呪具での身体能力強化は行っておらず、あくまで移動と見切りにのみ使用していた。武器の打ち合いともなれば、当然身体能力がものを言う世界。スキルと呪具の恩恵があるとはいえ、そこに技術だけで渡り合う彼女の見切りは、『天眼』を持つスカルを彷彿とさせる。そしてそれを支えるのは、シスター近衛隊長サラ直伝の守りに特化した『護剣』。


「これは……手強い……!」

「ハクマも……やっぱりすごいね……!」


 二人して笑みを零しながら、嬉々として打ち合う。


 サラ直伝の『護剣』は、力の弱い女性が大の男に立ち向かうために考案された剣術である。決して真正面から打ち合わず、剣筋で流れを制御する。川に流れる水のようにその動きは穏やかで、力押しだけの相手であれば容易に完封できる完成度を誇っていた。そこに穴を開けようとするならば、当然それ以上の何かが必要になる。


 ハクマは決して力押しだけの戦士ではない。


 それはオルゲート戦でも明らかであり、打ち合いは読みと駆け引きの戦いに移行していく。大振りな振りをして攻撃を誘い、敢えて乗ったとしてカウンターを用意し、それをまた捌く。身体と同じ以上に脳がフル回転する中、何重にも思惑が絡み合っていく。更なる高みへと思考が押し上げられる中、活路を見出さんとハクマが大きく動く。


 選択したのは、片手に持つ手斧の投擲。


 切り結びから一瞬空いた間合いを埋め尽くさんと、高速で迫る手斧。真面に受ける選択などはなく、手元の長剣で弾けるほどの柔な攻撃でもない。必然的に回避を強制され、クシャーナの身体の動きが乱れる。そこに圧をかけるのは、彼女の視界を埋めるように迫るハクマの強靭な肉体。それはまるで川を堰き止めんとする大木。体勢を崩され、距離を取れない状態での捌きは非常に難しい。


 訓練用の武器とはいえ、致死の威力を秘めた真上からの振り下ろし。


 間一髪、それを避けれたのはクシャーナの機転と反応速度によるものだ。その場で一回転し致死の軌道から逃れ、反撃の一手にまで繋げるムーブ。地面にめり込んだ手斧を握るハクマの右手が硬直する中、居合の要領で零距離から勝負を決める一撃を放つ。修羅場を乗り越え、勝利を手繰り寄せたかに見えたクシャーナ。だが次の瞬間、その身体は大きく跳ね飛ばされ、緩やかな弧を描き闘技場の床に叩きつけられていた。


「…………はっ! ク、クシャーナ殿っ!?」

「い、痛ったーー…………」


 『攻撃的なスキルの使用禁止』ルール。


 それを破ってしまったハクマが、我に返り慌てて駆け寄ってくる。彼の固有スキル:『電纏甲冑(ライジン)』の瞬間的な発動による、不可視の正拳突き。オルゲート戦は身体全体に纏い、自身を光速の弾丸と化す使い方をしていたが、本来の使い方は徒手空拳による隙のない反撃。それを()()()()()()()()クシャーナは、差し出されたハクマの手を握り、ニヤリッと笑った。


「ハクマさ、天職は【格闘家】でしょ?」


 決してハクマの武術が拙かったわけではない。


 だが己の肉体をも武器にした戦い方は、戦士というよりかは格闘家に近い。オルゲート戦から抱いていた違和感を手合わせの間に核心に変え、全体を通してクシャーナが一芝居打ったという訳だ。その証拠にクシャーナを吹き飛ばしたハクマの首は呪具で締まっておらず、大きく凹んだ長剣が横に転がっていた。


「これは、驚きましたな。……完敗です、クシャーナ殿」

「ふふ、やったね」


 手合わせの中での勝利条件。


 最初からそこに照準を合わしていた、クシャーナの試合運び。その狙いに気づいたハクマは最早笑うしかない。ハクマに引き上げられた彼女は、悪い笑みを隠さず立ち上がるのであった。

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