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83話:戦士の狂宴-準決勝CD③

 スカルの『天剣』が、とうとうストリックを捉えた。


 その剣は、確実にストリックの生身を真一文字に切り裂いたかに見えた。


「あっ――――ぶねーな、おい!!!」

「!?」


 しかしそれは彼女の身体を上下に別つことなく、まるで素通りするように抵抗なく滑る。スカルの"目"を以てしても違和感を覚えるのがやっとな事態を前に、実況や解説を始め、誰もが理解が追い付かない。その中で唯一理解し、笑みを浮かべて見守るのはクシャーナ。


「出た、初見殺し。多分これは部分入れ替えのほうかな。タイミングはかなり賭けだったけど、これを逃すストさんじゃないよ」


 観客が湧く中、ストリックの逆襲が始まる。


 したり顔のクシャーナだが、彼女とてストリックのスキルの全容を把握している訳ではない。それでも何ができるのか、何をしてくるのか、そういったデータは人一倍持っている。何故なら彼女は、狡猾で変幻自在な技を持つストリックの挑戦を幾度となく退けてきた、王者だからだ。


 固有スキル:『天元技宝(ゴールドハント)』。


 それがストリックの持つ、唯一無二のスキル。その効果は、スキル効果の『変容』と『開放』。不変であるスキル効果を、彼女は()()()調()()()()()。本来、身代わりスキル『ドッペルゲンガー』の連続使用はできない。その制限を取っ払うのが『開放』だが、今回ストリックが選択したのは『変容』のほうだった。


 『開放』は強力だが、スキル毎にリキャストタイムが存在している。


 そのため勝負を決める場面でもなければ、その行使には踏み切れない。その分、『変容』には制限は存在しない。『変容』はスキルの枠の中で、出力の割合を変更できる。『ドッペルゲンガー』は分身と本体を入れ替えるスキルだが、ストリックは割合を調整し、身体の一部だけの入れ替えに留めていたのである。一つの効果を下げれば、別の効果が強化される。今回で言えば、それが使用制限だったという訳だ。


 これが、ストリックが二回斬られても無事だった理由。


 スカルにそれを看破されれば、最初の一撃で既に仕合は決まっていただろう。だがスカルの『見切り』を警戒し、ギリギリまで『変容』での調整を待った分、彼女はその"目"を見事に欺いたのだ。闘技場の中心では、賭けに勝ったストリックが攻めに転じ、スカルに怒涛の連撃を見舞っている。


「師匠と互角に……!!」

「……あれぐらい私にもできる」


 スカルに師事する(予定の)二人が、どこか悔しそうに声を上げる。


 スカルの『天剣』を前にストリックが取った戦法は、速度と威力と手数のゴリ押し。手に持つ短剣と短刀は、『開放』した闇属性スキル『シャドウ・シャドー』で強化し、斬られる瞬間に再生する疑似的不壊を作り出していた。残りのスキルは、盗賊の基本スキル『アクセラレータ』と『ライジング』。それぞれ速度と威力を上げる他に、連続攻撃によりボーナス補正があるスキルである。


 『開放』されれば、それは天井知らずの必殺となる。


 最強の矛と全てを見通す目を相手に、思考と身体の処理速度を超える勢いで、ストリックは駆ける。人である以上、どこかでその限界には必ず行き当たる。つまりは、どちらがオーバーフローを起こさず最後まで対応できるか。ストリックは、スカルを無理やり我慢比べのフィールドに持ち込んだのである。無論、粗雑な戦闘技術であれば、スカルはそれすらも一太刀で切り伏せるだけの力がある。


 スカルを押し込んでいる今の状況こそ、ストリックの実力の証明と言えた。


「主要スキル三つも……! ストさん、勝負に出たね」

「……なんかクシャーナだけ見る視点が違うの、ずるーい」

「ふふ、伊達に挑戦受けてないってことで」


 状況を正確に把握しているクシャーナに、セミテスタがちょっかいをかける。


 クシャーナから見ても、ストリックがここまで一気に勝負をかけるのは珍しい。それは警戒の裏返しであり、長引かせるわけにはいかないとの焦りもあるのだろう。それを受けるのは、一つの頂に至った男。ストリックの『開放』×3の猛攻は、ダンジョンボスでさえ瞬時に細切れにできるほどの出力を誇る。それを一本の剣だけで捌く彼もまた、別格。


 このまま凌ぎ切られれば、時間制限のあるストリックのほうが不利だ。


 だがスカルにもそこまでの余裕はないようで、全てを受けきるスタイルから、読みと見切りで反撃を混ぜるようになってきている。一度でもそのカウンターが決まれば、ストリックは余波と共に一撃で吹き飛ぶだろう。そして動きは一方通行から、スカルを中心にストリックが閃光のように直線距離での反復の仕掛けに変わる。


「入った……っ!!!」


 クシャーナの目が、勝負の一瞬を切り取る。


 刹那の駆け引きが繰り広げられる中、先に膝を着いたのはスカル。何度目かの空振りで、とうとうストリックの速さがスカルの反応を上回ったらしい。横っ腹を削る勢いで駆け抜けたストリックは、好機を見逃さない。『開放』を全て出し尽くす勢いで、剣が纏っていた影が膨張していく。それはまるで深淵から這い出る無数の手。幾重にも絡まり合って右手に集中し、巨大なかぎ爪を生み出す。そのまま圧倒的な質量と速度を以て、スカルに迫る。


「――――――――『残撃』」


 片膝を付いたままのスカルがポツリと呟く。


 スカルの眼の前を黒く塗りつぶしていた巨大な手に、無数の剣尖が走る。剣士の設置技とでも言えばいいのか、それは達人にしか許されない妙技。空を切り、その威力を保持していた空間に、ストリックの奥の手が塗りつぶされていく。ストリックの速度に押されたように見えたあの空振りは、()()()()()()()()()()。――もう止まれない。極限まで圧縮されたかぎ爪は、それでもまだ原型を残している。最後の一押しとばかりに、ストリックが吠える。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 その決意の咆哮を嘲笑うかのように、剣閃が煌めく。


「『抜討・七連』――――」


 それは全てを迎え撃つと決めた、スカル渾身の抜刀術。


 三撃で『シャドウ・シャドー』を圧縮したかぎ爪を斬り、二撃ずつで短刀と短剣を斬った。残るのは、無防備な状態を晒しているストリック。同じ抜刀術の要領なら、一呼吸置いたとしても再起はスカルのほうが早い。絶体絶命な状態に、それでもストリックは足掻く。身代わりスキル『ドッペルゲンガー』を『開放』し、使用制限から解き放つ。そして、愛用の武器を破壊された恨みも忘れてはいけない。


「『ポルターガイスト』! これならまだ……っ!」


 クシャーナが目敏く反応したのは、空中で突如停止した短剣、短刀。


 闇属性のスキル『ポルターガイスト』。物体を触らずに操作する秘術であり、その折れた切っ先はしっかりとスカルへと向いていた。飛び散った破片も全てその対象となっており、スカルはまずその迎撃に当たらなければならない。『ドッペルゲンガー』と合わせれば、離脱への道は開かれたと見ていい。だが、――スカルはそれすら許さない。


「なっ――!?」


 ストリックに最後まで忠義を示すように彼女の矛となった短剣と短刀は、スカルに届くことなく宙で燃え尽きた。時間がスローモーションで流れる中、それが炎属性のスキル『フレイム・ロック』だと気づく。正確には、スカルの流派に合わせて昇華された『炎牢・不知火』という名の業なのだが、今のストリックにそこまでの情報はいらない。魔術師の代表的な防御術、土魔法『マッド・シールド』の炎属性版であり、全面防御ではなく【火傷】や撃ち落しを目的とした、攻撃的な盾であった。


 そして、妨害手段を失ったストリックの目には、炎に燃える刀が映っていた。


(……本当に人間じゃねーな、こいつ)


 冷静を通り越して、最早冷徹な仕合運びですらある。


 だがおそらく、これはストリックのように裏を掻くために計算され尽くした末の隠し玉ではない。単純に()()()()()()()()使()()()()()()、それだけなのである。それほど彼の剣技は圧倒的で、むしろここまで使わせたストリックは、手放しで称賛されるべきだろう。


(……状態異常も効かねーし、まじふざけてるな)


 結局スカルの秘密はまだあって、状態異常の無効とも言える耐性も謎のままだ。これが効くようであれば、攻め方のバリエーションはまだたくさんあったというのに。取れる手段が限定され、相手の勢いに押されたまま、勝負に逸ってしまったのが悔やまれる。妨害工作も封殺された今、『ドッペルゲンガー』の『開放』も悪あがきに過ぎないだろう。


(……だからこその、炎の太刀だろ? なんだよくそ、かっけーな)


 スカルは必要なことしかしない。炎属性の特性は【火傷】による継続ダメージだ。これは分身などの身代わり術とは相性が悪く、一掠りしただけでその効力を剥ぎ取ってくるのである。彼は本当に必要なことしかしないし、何か偽ることもない。――――そんな彼が膝を付いているのは何故だ? 何故まだ追撃が来ない? 走馬灯のように高速で思考が流れる中、それでもスカルの遅さに疑問が湧き出る。


(……真面に当たったのは、横っ腹に掠った一撃だけ)


 てっきり誘い込まれたのだと思っていた。一流の冒険者は誰もが並外れたタフネスを誇る。ただ掠っただけの一撃など、捨て身の追撃をするには根拠に乏しすぎる。それでもあの時は最初で最後の隙だと、思わず飛びついてしまったのだ。スカルは必要なことしかしないし、偽らない。最早確信と言っていいその思考の中で、様々な要素が線で繋がっていく。


(……状態異常が効かない、物理に脆い、年齢不詳、()()()()()()……!!)


 "十拳"を形作った番人。古くからその存在が認識されていながら、今にして前線に立てるほどの猛者。当然架空の人物説が出るほどの、幻のような存在だ。ただ代替わりで複数人いた可能性もある。だが、テレサと遠い血縁関係がある……あれが横ではなく縦の繋がりのことなら……! それに、スカルと親交があるという【剣聖】にしても、ストリックには覚えがない。彼らの生きた時代は、きっと()()()()()


 全てが繋がり、ストリックは笑みと共にスカルを見下ろした。



「お前、――アンデッドだろ?」


 不敵な笑みは炎の太刀と光の輝きに照らされ、瞬く間に隠れるのであった。

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