表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/123

82話:戦士の狂宴-準決勝CD②

 黒の草原が一人の剣士を呑み込まんと迫る。


 ストリックによる嫌がらせは留まることを知らない。


 毒、麻痺、暗闇、睡眠etc……闇属性スキル『ダーク・プラント』に紛れて乱れ飛ぶそれは、まさに状態異常のオンパレードであった。対するスカルは、後出しのゴール変更にもめげず、愚直に前進を繰り返す。その軌道は常に最短距離を突き進んでおり、数多の妨害をものともしないその様は、どこか危うい均衡状態を作り上げていた。


 これは決して、魔力と体力のスタミナ対決ではない。


 両者ほどの達人が行うそれは、一種の駆け引きである。


 ストリックは一連の流れで、スカルの性格や行動パターンを読もうとしている。搦め手に対して愚直に真正面から当たるその姿からは、自分のスタイルを曲げない強気な性格が見て取れる。根底にあるのは、自身の剣技に対する絶対的な自信か。さりとて、慢心するタイプでもない。目の前の罠を処理しながらも、常にカウンターが取れる間が存在している。今ここでストリックが急襲しても、一太刀の元に切り伏せられてしまうだろう。


 それを可能にしているのは、圧倒的な速度と精度を誇る『見切り』。


 それがスカルの固有スキル:『天眼(ホロウアイ)』によるものだとは、ストリックには知る由もない。それでも彼女がこの戦いを制するには、その目を掻い潜って致命打を与えなければいけない。今行っている嫌がらせは、結局のところその牙城を崩すためのデータ集めに過ぎず、彼女の思考は既に第二ラウンドを見据えていた。


 対するスカルはというと、相手の実力と手札の確認をしていた。


 全てを見通す"目"があるとはいえ、やはり直接仕合の中で得られるものは多い。その中で感嘆したのは、ストリックの粗雑な言動に見合わない、丁寧な戦い方だ。雑にスキルを乱発しているように見えて、実に無駄のないフィールド作りである。全てがスカルを試すように意図を持って設置されており、こうして対応している間も、刻一刻とデータ収集をされているのが分かる。


 これを真正面から受けるのは、スカルなりの礼儀であった。


 ストリックから見れば、それは独善的な強者の闘い方であり、オルゲートなどと同じ強戦士タイプと言えた。この手のタイプは戦術的な攻め方はしても、ストリックのような搦め手や邪道と言える小技は使わない。そういう意味では、神経をそこまで尖らせる必要はないのだが、彼らの脅威足る所以は、唯一無二の"武器"を持っていることである。


 それはオルゲートの『怪力』然り、スカルの『見切り』然り。


 他者に真似できない強みを持つが故に、強者足りえる存在。そうした相手に勝つには、その力を発揮させないことが何より重要である。例えばその強みが活かせない間合い、距離、または状態。スカルほどの完成された剣士との間合い掌握合戦は、流石にストリックでも選択肢には入れない。ここで狙うのは、本領を発揮できない状態にすること、つまりはさっきから試している状態異常であった。


(この手の脳筋には有効ってのがセオリーのはずなんだがな……)


 赤いハンターマスクの下で舌打ちする。


 身体能力や技の精度で勝負する剣士は、状態異常には弱い傾向にある。そこにつけ込むのが、盗賊であるストリックの戦い方だったのだが、どうやら当てが外れたようだ。最初こそ剣圧や身のこなしで避けているのかと思っていたが、それも違う。明らかに当たっているのに、その異常が一向に表面化しないのである。


 考えられるとすれば、魔道具やスキルによる無効化。


 それがどれほどの効力を示すものなのかは分からない。だが少なくともこの仕合に関しては、スカルに状態異常は通用しない。一通り手持ちの状態異常を試した結果、ストリックはそう結論付けていた。安易且つ有効な手札を一つ失ったストリックの迷いを敏感に感じ取ったのか、今度はスカルが牙を剥く。


「試し打ちは済んだか? ――次はこちらからいくぞ」

「……ちっ!」


 踏み込みがさらに深く、速くなる。


 状態異常の搦め手が有効足りえず、ストリックの対応が一歩遅れる。二人を隔てる闇属性スキル『ダーク・プラント』の密度を濃くすることで時間と距離を稼ごうと図るが、『天剣』を自在に振るうスカルは最早その程度では止まらない。時間にしてほんの数秒、初めて二人の距離がゼロになる。


「――――――『回天』」


 踏破した勢いそのままに、身体全体で回転するように最速の剣が振り切られる。それでも間一髪、どうやらストリックのスキル発動のほうが間に合ったらしい。スカルの技は周囲の草花を円状に綺麗に切り取ったが、ストリックはその圏外へと離脱。再び『ダーク・プラント』を密にしようと動きかけるが、そこである異変に気付く。前方に見えるスカルの動きが――まだ止まらない。


「しまっ……!?」


 スカルが銘打った技の一つ、『回天』。


 それは距離を詰める勢いを身体の回転に乗せる切り込み技であると同時に、回転による遠心力をも利用した()()()()。スカルほどの達人が放つそれは、一撃目で周りの空気をも刈り取り、時間差で外の空間を引きずり込むほどの引力を生む。それに引き寄せられた相手は、結果的に無防備に近い形で二撃目を受けることとなる。気付いてからでは遅い、回避不可の秘剣。


 それは残りの『ダーク・プラント』をも巻き込み、ストリックを両断した。


 胴を真っ二つにされたストリックの身体が空中で崩れ、やがて塵となり消える。盗賊のスキル『ドッペルゲンガー』による身代わり戦術であるが、スカルの動き出しは早かった。『ドッペルゲンガー』展開中は本体はその影に隠れる訳だが、当然スキルが破られればその影から這い出ることとなる。つまり、よくよく注意して見ていれば、出現地点の予想はできてしまうのである。


「それは、もう見た」


 無慈悲な宣告は、仕合終了を告げる合図か。


 影から引きずり出されたストリックを待つのは、全てを断つ『天剣』。それはさしたる抵抗もできないストリックの身体にスッと入り込み、そのまま鮮やかに振り切られるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ