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81話:戦士の狂宴-準決勝CD①

 クシャーナがエミットを下し、決勝に駒を進めた。


 昨年は下位からの優勝でビギナーズラックとも囁かれたが、それも過去。


 一年を通して実力を示し続けたクシャーナは、名実ともに冒険者最高峰の名を欲しいままにしていた。【戦士の狂宴】は普段入れ替え戦で当たらない相手とも当たりやすいため、番狂わせが起こりやすい。これで優勝しようものなら二年連続となり、オルゲート以来の快挙である。そして長めのインターバルも開け、その対戦相手を決めるもう一つの準決勝が間近に控えていた。


「ストリックー! 盗賊の意地見せてくれー!!」

「スカルー! このまま優勝まで突き進んでくれー!!」


 観客席から贔屓の選手に、それぞれ声が掛けられる。


 オルゲートがクシャーナに序列1位を譲った後、上位を争ったのはオルゲート、ストリック、エミット。しばらくは入れ替わりが激しかったのだが、ある時から上位二名は固定されるようになった。それでもストリックも『万年二位』などと呼ばれ、実力は高く評価されていながら冒険者の頂点の座を射止めたことは未だない。


 現在の序列で頭一つ抜け出ているのが、クシャーナとストリック。


 その中で今回の台風の目はリュウレイだったはずなのだが、ストリックが寄せ付けずに勝利。観客が夢見る一種のシンデレラストーリーはそこで潰えたかに見えた。ただ新たな目は最初から潜んでいて。言うまでもなく、それが今ストリックの前に佇む剣士、スカル=ゾゾンである。


「よう、調子はどうだ? 【放浪武者】さんよぉ」

「…………」


 今、ストリックの目は確かにスカルを捉えている。


 対リュウレイ戦の時のような開始前からの心理戦などではない、純粋な問い。お前も私のように高ぶっているか? 私はお前の相手足り得ているか? そんな好戦的であり、挑戦的な眼差しをただ受け止めるのは、今まで表舞台に上がることのなかった沈黙の剣士。一つの頂に至った男の力量を測れぬほど、ストリックも馬鹿ではない。


「安心するがいい。倒すべき相手として、しかと見えている」

「――――はっ、そうかよ」


 開始前からバチバチに火花が散る中、それを遠くから望むのは"十拳"の面々。


「うわー、ストリック悪い顔してるよー」

「格上と言っていい相手だからね。ストさんも高ぶってるんじゃないかな」

「え、ストリックにもそんな感情ってあるの?」

「言いたい放題ですわね……」


 セミテスタが茶化し、クシャーナが冷静に分析する中、懐疑的な声も上がる。


「彼女こそ、唯我独尊の王様タイプのように見受けられますが……」

「相手に委縮しない、強者のメンタルを持っているのは間違いないのう」

「お爺様が負けるわけない……」


 私怨を抜きにリュウレイが語れば、オルゲートが端的に述べ、テレサはいつも通り。彼らの中でも若干見方が異なるのは、彼女が言わずと知れた勝利至上主義だからである。真っ向からの力勝負など以ての外、どんな手を使ってでも淡々と白星を重ねる仕事人。他人に興味はなく、常に自分が最強と疑わない傍若無人な狩人。


 概ね彼らが持つストリック像が共有されていく。


 そんなイメージとは裏腹に、クシャーナの言うそれは、息の詰まる実力伯仲の対人戦そのものに価値を見出す、ヤムやオルゲートのような強戦士タイプの思考だった。


「んー、ちょっとカテゴリーは違うかもね。勝利が一番ってのは間違いないんだけど……しいて言うなら勝つための工夫と言うか、腹の探り合いに楽しさを見出すタイプかな」

「あー、なんか分かる気がするかも」

「私は『お前は面白いけど、面白くない』とか言われたことあるー!」

「それは言い得て妙ですけれど……」


 なんとなく発言の意図を察したエミットがヤムの追及を避ける中、セミテスタを始め、ある程度肯定の声が聞かれる。私はストさんの気持ちなんとなく分かるんだよね、とそのまま続けるのはクシャーナ。


「対人戦の面白いところは、必ず格上が勝つわけでもないところじゃない? 読みと組み立てで相手を負かすのって、なんか癖になる楽しさがあるんだよ」

「あー、だからかぁ」

「え、なに?」


 腕組みしてうんうん納得するセミテスタ。


 分かられてしまったクシャーナは意外だったのか、その反応に喰いついてくる。その頃にはオルゲート始め、合点がいったような表情でその様子を見守っている。にんまりした表情を崩さないまま答えるセミテスタに、クシャーナは珍しい照れ笑いを浮かべるのだった。


「いや、ストリックが一番楽しそうなのって、クシャーナと戦ってる時だなって!」



 *



 そんな外野のやり取りがあったとは露知らず、決戦の時は迫る。


 この一戦を制したものが、決勝へと上がる。


 順当に勝ち上がり、大舞台で雪辱を晴らすのは序列2位のストリックか。はたまた、『万年十位』と揶揄され、表舞台に姿を見せなかった孤高の剣士、現在は序列3位へと上がり実力を本戦で示したスカルか。実況のサミュが生唾を呑み込み、両者を下がらせた後、高らかにその宣言はされた。


「【戦士の狂宴】準決勝! 【灰掛梟】ストリック=ウラレンシスvs【放浪武者】スカル=ゾゾン!!」


「――――始めっ!!!!」



 開始早々、闘技場はどよめきに包まれる。


「おい、早速刀を抜いたぞ……!」

「それだけ買ってるってことか……!?」


 ただ戦う姿勢を示しただけの男に、好奇の目が集まる。


 その視線の先には、すでに抜刀しているスカルの姿。対テレサ戦でなかなか刀を抜かなかった男が、あっさりとその刃を日の光に照らしている。これには観客含め、VIP席に居座る教皇ハインデルも目を少し見開いて、興味深そうに見つめている。対するストリックもすでに臨戦態勢。いつもの得物である、短剣と短刀を交差するように構え、じっと様子を窺っている。


 そんな達人同士の睨み合いに息が詰まる中、仕掛けたのはほぼ同時。


 真っすぐ距離を詰めるのは、剣士スカル。彼に奇策はなく、ただその"目"に捉えた敵を、その手に持つ"剣"で屠るのみ。単純故に対策は難しく、実力差がそのまま浮き彫りにもなる攻め手であった。相対するストリックは未だ動かないが、その足元には黒い草花が途端に湧き出るように芽吹いてくる。


「『ダーク・プラント』――!?」

「ふふ、これ対人戦で使うのストさんくらいじゃない?」


 闘技場の舞台一面を染めようかという勢いで、スキルが瞬く間に拡がる。


 闇属性のスキル『ダーク・プラント』。盗賊×闇属性という、稀有な組み合わせにより発現するスキルであり、使い手はやはり少ない。狩りを共にするクシャーナやセミテスタでないと、初見殺しにすらなるだろう。そういう意味では、ストリックは対人戦において手札に恵まれたビルド構成だと言える。


 主な使用方法は、ダンジョン内での索敵、警戒。


 黒に染まる草花を生み出すスキルであり、攻撃性には乏しい。その分機能には優れ、自然の植物として擬態できるほか、根なし草としてこっそり這うように移動もできる。花の中央には一つ目が浮かび、監視の役目を担う。さらに硬質なトゲを生み出しての進路妨害など、自立型の索敵ユニットとしてその汎用性は高い。


「押し通るのみ――」


 黒い以外はただの草原となんら変わりはない光景。


 ただその道中には、見えない罠が散りばめられている。それでもスカルの足は全く止まらず、勢いは加速するばかり。周囲の花の目玉が開き、全方位から監視される中、スカルの剣が唸る。最小限の動作で切り飛ばすのは、不意に伸びてくる硬質なトゲ。相手のスピードをも利用した嫌らしい障害物だが、まるで意に介さない。瞬時に二人の間の直線距離を踏破し、ストリックへと無慈悲な刃が振り切られる。


「まずは観察と、嫌がらせだ。――さあ、どう出る?」


 『ダーク・プラント』のもう一つの有用性。


 それは魔術師が使う転移魔法『ウィンド・パス』に似た、疑似転移先としての機能。スカルが斬り飛ばしたのは何でもない1本の草。ストリックの本体はその真反対、先ほど詰めた距離を嘲笑うかのように入れ替わっているのだった。

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