80話:戦士の狂宴-閑話⑩
時は遡り、こちらはエミットとは反対側の待合室。
準決勝の一仕合目が終わり、クシャーナは大の字でベッドに寝転がっていた。
「やれやれ……毎回こんなだと身が持たないわー」
「お疲れ様。流石にどの子も一筋縄ではいかないわね」
反応するのは、呪剣『トリステスアイル』に宿るマリア。
以前の必勝ルート、魔法封じからの速攻で展開した今回の仕合。全く対策されないとは思っていなかったが、あそこまで優位を覆されるとは思ってもいなかった。序盤ではエミットの対処方法に対する解析に時間を割き、苦しい時間帯が続いた。結果、呪具効果までもは無効化されていないと判断したのだが、その継続策は間違いなかったように思う。
「多分やってなかったら、アレ飛んできてただろうし」
「ええ、アレを使わせなかったのは大きいでしょうね」
彼らの言うアレとは、エミットの消滅魔法である。
セミテスタ戦で見せた、全てを圧倒する破壊の塊。恐らく真面にやっては防げないあの魔法は、使わせてからの対処法より使わせない組み立てを考えるほうが断然いい。幸いその組み立てに効果を発揮する術、『清貧な賢者の首飾り』の呪具効果『付与』による魔法封じ、は元々持っていたので、その点ではやはりクシャーナの優位は揺るがなかったのだろう。
「あとは一部魔法の使用制限と、完全詠唱による火力増強の阻止。発動タイミングの固定化は……メリットデメリット両方あるか。それでもこう見ると、やっぱり相当恩恵あるね」
「あくまで魔道具による代替詠唱前提の線だけど……使わない手はないわね」
二人がかりによる考察の末、魔法封じは今後も有効との結論に至った。
主に魔術師対策にはなるが、相手の対抗手段が魔法しかない状況であれば、職業だけに拘るのは勿体ない。使いどころを考えて誘導してやれば、それは身体能力がものを言う近接職が相手であっても有効足りえるだろう。
「相手が雷魔法主体になる、という読みもよかったわね」
「うん、相手がエミットだからってのもあるけど」
マリアの話題転換に乗り、クシャーナが肯定を示す。
相手がセミテスタばりの一極型ならともかく、大体の魔術師は相手によって複数属性を使い分ける。属性の有利不利はそれだけ重要であり、固有スキル:『五芒星』を持つエミットならなおさらだ。ある程度相手が使う魔法が読めるのであれば、対策の範囲も絞れてくる。クシャーナの機動力も考えると、追尾性能を持つ雷魔法は最早マストと言っていい。
「ただあっちのスキルを大分使っちゃったのが、反省点かな」
「あら、別にばれて困るものでもないでしょうに」
「分かってないなー、知られてないってのはそれだけで大きな武器になるんだよ」
指向性を操る、とあるスキル。
実は他にもあるのだが、クシャーナは一貫してこれらを秘匿している。彼女の強さは、固有スキル:『呪物操作』と呪具を用いた、選択式の超強化と必中速攻のデバフ。さらには、戦闘下における異種的なスキルの併用。オプションとして、マリアの疑似憑依や魔剣技などもあるが、彼女の強さの本質は先に述べたほうだ。
マリアからの賛同は得られなかったが、クシャーナはそう確信している。
雷魔法の追尾性能は便利だが、こうして利用されることもある。ターゲットがクシャーナに固定されているため、その指向性をずらすことは容易だった。序盤逃げ回っている間にその感覚を掴み、魔剣技からの反撃に一役買ったという訳だ。流石に雷の中級魔法『ケラヴノス』には焦ったが、上手く機能したのは僥倖だった。自分が操る魔法であればさらに話は簡単で、水の上級魔法『リヴァイアサン』の巧みなコントロールも、そのスキルがあってこそ。
「師匠が見てたら怒られるかもなー。もっと上手く使えって」
「それってあのシスターの隊長さん?」
マリアの脳裏に浮かぶのは、シスター近衛隊長のサラ。
「違う違う、サラさんは剣の先生だよ。師匠は水魔法とスキルを教えてくれた人」
「ああ……話に聞いた【辺境の魔女】のほうね」
「それ言ったらマリアでも怒られるよ……。まあそのうち紹介するよ」
「あら、それはドレスコード確認しないといけないかしら」
「どの口が……まあ師匠は偏屈だけど悪い人ではないから、たぶん」
「たぶんかぁ」
水魔法と件のスキルは、呪具と並んでクシャーナの強さの軸と言っていい。
今でこそ呪剣『トリステスアイル』や『絶望の断罪マスク』、『チェインルートの指輪』などの呪具が主要装備となっているが、当然最初から全て揃っていたわけではない。特に冒険者として駆け上がっていた頃は、水魔法とスキルによる似非魔術師スタイルで戦っていたのだから、クシャーナからすればこなれたものである。
「あとは最後の最後で、この子が日の目を見てよかったよ」
「ああ、魔術師対策用にってずっと持ってたそれね」
呪具『穢れし呪縛精霊の腕輪』。
属性を変異させるそれは、右腕の『血塗られた狂戦士の腕輪』と合わせて、平時からクシャーナが身に付けているお気に入り呪具の一つだ。属性とは本来固定されているもので、その状態を不安定化させる効果がある呪具であり、上手く使えば一極型の魔術師は大きく戦い方の幅を広げることができるだろう。
「それでも多用すれば魔力汚染……デメリットのほうが取返しつかないものね」
「うん、私のスキルと合わせないと中々活きなかったと思うけど、有用性は証明できたと思うよ」
属性の相性は魔術師ほど顕著だが、他の職業でも決して無関係ではない。
クシャーナの得意属性は水だが、他の属性は初級魔法すら覚えていないものも多い。他の剣士や戦士も似たような傾向であり、そうなると特定の属性抵抗力が高いモンスターが相手の場合、急に苦戦するようになるのである。剣などの装備で補える部分は確かにあるのだが、その苦戦する原因を取り除き、好転させることさえできるとあれば、クシャーナがそれを使わない理由はなかった。
属性変異を指向性を操るスキルで誘導し、特定の属性へと導く。
それがクシャーナがエミット戦で見せた、風属性を纏った魔剣技『アクア・スラッシュ』の絡繰り。属性が乱れたままになる魔力汚染もスキルで修正して上げれば、デメリットはないに等しい。やや取り回しが難しいため、実はダンジョン探索中でもあまり出番がないのだが、その効果は絶大である。
「今後は『魔封石』対策も必須として……そういえば、あなたいつまでも私と駄弁っててもいいのかしら?」
「え、なんで?」
「いや、なんでもなにも……いつも終わったらお友達が詰めかけてくるじゃない」
「あー……」
マリアの言うお友達とは、ストリックやセミテスタ達のことである。
彼らは遠慮というものを知らないので、仮に一人で話すクシャーナの姿を目撃してしまえば、追及は避けられないだろう。マリアのことを大っぴらにするほどクシャーナも無神経ではなく、二人で会話を重ねるのは決まって二人きりになれる時だけだ。一瞬考えた風のクシャーナだったが、すぐに相貌を崩して答える。
「多分先にエミットのほうに行ってるから、暫くは大丈夫だよ。きっと時間かかるだろうし。ストさんに至ってはこっちには来ないんじゃないかな」
「それならいいけど……」
やや怪訝な顔をしたマリアだったが、深くは追及しない。
クシャーナの読み通り、その頃のセミテスタとヤムは『魔術師の籠手』や『魔封石』の話に夢中だったし、ストリックはこちらの待合室には結局姿を見せなかった。それは次の仕合に集中するためでもあるし、その次の対戦者であるクシャーナとの闘いも、すでに彼女の中では始まっているからだろう。そんな考察を当たり前にしている自分に対して薄ら笑みを浮かべ、肯定するかのように呟くのだった。
「次の仕合も楽しみだね」
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