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77話:戦士の狂宴-準決勝AB②

 雷の中級魔法『ケラヴノス』。


 上級魔法に迫る高威力を誇るが、中級たる理由はその扱いずらさにある。


 雷魔法は雑に扱っても追尾性能があるため使い勝手がよく、愛用者は多い。だが『ケラヴノス』に至っては、追尾する先が指定した1点のみであり、真上から真下への直線的なルートに限定されている。一瞬で発動する高出力の落雷、決まればもちろん絶大な威力を誇るのだが、おおよそ小柄で機動力のある相手に使う者はいない。それ故に裏を掻いたであろう、エミットの精密狙撃。


 だが煙の腫れた先、そこには無傷のクシャーナの姿があった。


 少なからず動揺したエミットの隙を逃すまいと、クシャーナの動き出しが早い。その機動は【麻痺】どころか【痺れ】にもかかっておらず、文字通り無傷であることを証明していた。だがまだ二人の間には、『サンダー・ボール』の障壁がある。宙に揺蕩うその軌道は不規則で、直線的な動きではまず突破できない。一度でもかかれば連鎖で発動し、それなりのダメージと【麻痺】がセットで付いてくることだろう。


「さあ、雷玉の波の前にどう対応するのでしょうか!?」

「『アクア・ランス』での相殺狙いかな?」

「それは一つの選択肢でしょうが……数が多すぎます」

「魔法の削り合いであれば、やはりエミットに分があるじゃろうな」


 脚を止めて要塞を築いたエミットと、回避に専念していたクシャーナ。


 当然どちらが有利かと言えば、エミットのほうだ。そして中、遠距離レンジでの打ち合いならば、魔術師が後れを取る道理はない。そんな中、クシャーナの選択は水魔法『アクア・ランス』の生成。種は先に呪具で強化していたのか、魔術師の魔法にも引けを取らない威力を誇る水の槍が、複数周りに浮いている。


 形に囚われない無形の水の槍は、広範囲に展開することも可能だ。


 だが、それでも対応できるのは精々『サンダー・ボール』の障壁の前面まで。『サンダー・ボール』は接触があるとその場で弾け、内に留めていた電流を周囲にまき散らす。牽制に対しての盾の役目も担う雷の障壁は幾重にも張り巡らされており、そこまでの貫通力は土魔法でもなければ持ちえていない。


 その不可能を可能にするのは、クシャーナの愛剣、呪剣『トリステスアイル』。


 固有スキル『呪物操作』を持つクシャーナだからこそ使いこなせているが、本来怨念と化したマリアに強制的に憑依されるデメリットは、非常に重い。当然それ相応のメリットが付随しており、その一つが水属性に対する恩恵である。デフォルトで水属性のスキルが強化される他、()()()()()()()()()魔剣技として扱うこともできるのだ。


「『アクア・ランス』改め……『アクア・スラッシュ』! なんてどうかなっ」


 呪剣『トリステスアイル』が『アクア・ランス』を取り込み、刀身を蒼く染める。そのまま軽い口調で振り切った剣筋は蒼い軌跡を描き、雷玉の障壁を切り裂いていく。雷玉が弾ける中、その放たれた魔剣技の威力は衰えることなく、風の刃を飛ばす風魔法『ウィンド・カッター』に似た直線状の軌道で、そのままエミットへと迫る。


「冗談でしょう……!?」


 『アクア・スラッシュ』を追いかける勢いでクシャーナが迫る中、対応に迫られるエミット。直線的な動きをするクシャーナと貫通力には劣る水魔法への対応策。それが一振りで潰されたとあれば、とても平常心ではいられない。それでも、まだ距離はある。それはエミットが今までの攻防の中で築き上げてきた、生命線そのもの。


 それを死守するため、放たれるのは反撃の『チェーン・ボルト』。


 二人の距離が近くなるほど、その追尾性能は威力を発揮する。だがどうしたことか、クシャーナの目前まで迫りながら、まるで弾かれるように軌道を変え、地面に突き立つ。――何かあり得ないことが起きている。エミットの頭の中によぎるのは、雷の中級魔法『ケラヴノス』を無傷で凌いだクシャーナの、あの光景。あれは偶然でもミスでもなかった。


 驚異的な貫通力を見せつけた『アクア・スラッシュ』。


 それは度重なる雷玉との接触により徐々に威力を削られ、エミットの『マッド・シールド』に浅い傷をつけただけに終わった。だが役割としては十二分に果たした。二人を遮るものは既になく、スピードに乗るクシャーナを止めるはずの、反撃の雷魔法も効力を示さない。


「――――捉えたっ!!!」


 解説のマキリが吠え、闘技場からも歓声と悲鳴が上がる。


 土魔法の結界『マッド・シールド』に、いくつもの剣戟が見舞われる。魔術師が距離を詰められること。これが致命的な理由は、手数の全てを守りに使わざるを得ないからだ。それなりの耐久力を誇る結界でも、数度の物理的攻撃で割られてしまう。なんなら魔法耐性のほうが高い傾向にあるため、その弱さが前面に出てしまうのだ。


 ここまで来て、詰め方を間違えるクシャーナではない。


 幾重にも結界を張り直し後退するエミットを、油断なく追い詰める。――距離が取れない。エミットに掛けられた身体能力強化はまだ活きているが、クシャーナの機動力には適わない。剣士であれば打ち合い、戦士であれば盾で弾けたかもしれない。だが一度この態勢に追い込まれた魔術師が取れるのは、焼け石に水の結界を張り直し続けることだけ。


「……どうやらそれもここまでのようですね」


 押し黙ってしまったギルハートに代わり、呟くのはマキリ。


 クシャーナの攻撃の回転数が増し、最早結界が追い付かない。魔力切れを起こしてしまったのか、叩き割られた結界の中で無防備な姿勢を晒すエミット。そこに油断なく振られるのは、仕合を決める一撃。序盤は回避に徹し、勝負どころを見極め一手で覆して見せた、圧巻の試合運びであった。


 誰もが真っ二つにされたエミットの姿を幻視した。


「こ、これはっ!? まさかの大逆転かぁーーーー!!?」


 だが、そこにはエミットのカウンターを受け血を吐く、クシャーナの姿が映っていた。

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