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7話:呪具が誘う迷宮探索①

 深層目指し、ダンジョン奥深くへと足を伸ばす3人。


 カロン達に大量の《ラビット・スキャム》を押し付けた後、彼らは度々現れるモンスターも問題なく退けていった。荷物持ちがいたり帰りの道であれば、拾っていきたい素材などもあった。ただクシャーナの目的はそこではないので、泣く泣くスルーを決め込んだ。


 潜るにつれ同業者は少なくなり、代わりに増えるのはモンスター。


 現在潜っているダンジョンは、全30階層と判明している『()()()()』のダンジョンだ。最深層ボスの討伐記録があること。それが、ギルドが『攻略済み』として認定するための必要事項だった。


 先頭を歩くクシャーナに、ストリックが声を掛ける。


「で、適当に付いてきたが……深層ってどこまで潜るんだ?」


 『攻略済み』ダンジョンとはいえ、全ての階層がマッピングされた訳でも、誰もが安定してモンスターやボスを狩れる訳でもない。しかし、大部分の未知を失ったダンジョンからは、冒険者の脚は遠ざかる。お目当ての素材や魔道具などの情報があれば別だが、冒険者はそういう生き物だった。


「目標は25階層辺りかな。その辺で目撃情報があってね」


 開いた地図を眺めながら、ぼんやり答えるクシャーナ。


 そんな中、冒険者の中でもトップランカー達がこぞって『攻略済み』のダンジョンに潜ることは稀だ。常に最前線を行くことは、彼らの存在意義と同義。それだけクシャーナの呪具探しは、冒険者目線で見れば理解しづらい行動だった。


「ふ~ん、じゃあもうちょいだね」


 適当な相槌を打ち、クシャーナに続くのはセミテスタだ。ゆるい返事とは裏腹に、彼女の周りには防護結界が張られており、表情も心なしか引き締まって見える。


 現在地はすでに23階層。


 ダンジョンの階層を進むにつれ、まるで冒険者を試すように、そこに生息するモンスターの強さは増していく。すでに熟練の冒険者でも、お散歩気分で潜れる階層ではなくなっていた。


「――誰かいる」


 24階層への入り口も見えてこようかと言う中、漏れた声。


 クシャーナのアンテナに引っかかったそれに、ストリックも頷きを返す。呪具の性能をフル活用した広範囲索敵、そして盗賊としての嗅覚が危険信号を鳴らす。セミテスタにはまだその正体の気配すら察知できていなかったが、おもむろに魔法を唱えだした。


「『泥の賢者――纏うは大いなる守護』」


 セミテスタの足元には、詠唱に応じるように土色の魔方陣が展開される。彼女は"十拳"の中でも二人しかない、魔術師の才能を見出された少女。火や雷属性などの派手な攻撃魔法が脚光を浴びる魔術師界隈において、彼女の最も適性のあった属性は"土"。


「――『マッド・シールド』」


 土魔法『マッド・シールド』。通称『泥盾』と呼ばれるその魔法は、土魔法の中でもメジャーな魔法の一つだ。防御面で弱みを抱えがちな魔術師の盾となる、防護結界。人一人を淡く円状に包むその魔法は、今はクシャーナ達にも付与されていた。


「サンキュー、テスタ。さぁて、防御面に不安がないとするなら……あとは狩るだけだよなぁ?」

「ふふ、ストさんヤバい顔してる」


 すでに戦闘モードに入っているストリックに、クシャーナが茶々を入れる。


 『マッド・シールド』は対象者への一定の攻撃を遮断する、使い切りのスキルだ。重ね掛けで効果回復は可能だが、常に何%カットというような軽減効果が得られる魔法ではない。それでもセミテスタの魔力量があれば、それは鋼鉄の鎧となるのだった。


 『攻略済み』で冒険者の出入りが少ないダンジョン。


 おまけに深層でのエンカウントだ、相対する相手のレベルも推し量れるというもの。クシャーナの感覚が捉えているのは、二つの人影。ただの同業者ということも考えられる中で、クシャーナ達がすぐさま戦闘態勢に入った理由。それはその人影から迸る、圧倒的なまでの()()からだった。


「…………来るっ!!」


 まだ暗いダンジョンの先から、一瞬光が見えた。


「……やばっ!!」


 それは、一直線に放たれた大火球。


 それもただの火球ではない。ダンジョンの通路から熱風と共に溢れたそれは、明らかに閉所で放つような魔法ではなかった。『マッド・シールド』だけでは耐えきれないと判断したのか、セミテスタが即座に別の魔法を発動する。手を付けた地面からせり上がった土壁が、寸前のところで大火球を阻む。


 ――轟音、そして衝撃。


 咄嗟の機転ではあったが、無詠唱魔法は詠唱済みの魔法よりも安定性と効果は落ちる。その差が響いたのか、完全には大火球の勢いは殺せず、セミテスタは後ろへと煽られ飛ばされる。


「クシャーナ! ストリック!?」

「テスタ! お前は自分の心配をしてろ!」

「もう一人、来てる!」


 身体の軽いセミテスタが、悲鳴と共に遠ざかっていく。


 クシャーナとストリックは『マッド・シールド』の効果もあってか、その場でなんとか踏み止まっていた。しかし、敵は()()()。一人はとんでもない火力を秘めた魔術師だろうが、もう一人は大火球の影に隠れて、すでに忍び寄っていたようだ。


「……ちっ!」

「相手、やるよ」


 数度の斬撃の応酬。


 クシャーナ達と切り結び、その人物は距離を取った。薄暗いダンジョンの中で、先ほどとは打って変わって奇妙な静けさが訪れる。今は双方とも相手を一筋縄ではいかない強敵とみなし、次の一手までの読みと牽制が静かに繰り広げられていた。


「……あら、誰かと思ったらあなた達ですの」

「まっ、エミットの魔法防いだ時点で、ただものじゃないのは分かってたけどね~」


 暗闇から身を乗り出す影。


 張り詰めた空気をぶち壊し、呑気に声を掛けてきたのは、二人の女性。


 一人は魔術師としての軽装に身を包みながら、その高貴な雰囲気をまるで失わない、自信と優雅に満ちた貴族のような女性。流れるような金の長髪を掻き上げる姿は、その仕草だけで異性でなくてもドキリとさせる魅力に満ちていた。


 もう一人はヒラヒラの踊り子の衣装を纏った、快活な少女。健康的な小麦色の肌を惜しみもなく曝け出しており、両手には湾曲した刀身が特徴的な武器、ククリナイフが握られていた。


 クシャーナとストリックは互いに見つめ合うこと数秒、盛大に息を吐いて脱力した。



「こんなところで"十拳"が5人も揃うなんてあるのかよ……」

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