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68話:十拳会議⑦

 ジーク達が退出した後、"十拳"の面々はまだ残っていた。


 【戦士の狂宴】も残すは本戦2日、期限は恐らくそう残されていない。


「魔術師イルル対策は大体出揃ったが……そろそろあれ詰めといたほうがいいんじゃないか?」

「え、あれってなにー?」


 ストリックの投げかけに首を傾げるヤム。


 意味深な問いかけを投げかけたストリックの視線は、対面左斜め前のスカルに向いている。彼女がわざわざ彼を指名するということは、彼と一部の面子しかその場にいなかった事柄についてだと推測できた。そうなれば、自ずと話の先は決まってくる。


「ふん、せっかちな癖に勿体ぶるな。奴らの目的について、であろう」

「前は槍女の話だけで終わったからな。ネルチェがいるうちに詰めとくべきだろ」

「あまり期待をされても困るのだけど……」


 分かってる組が話の方向性を決めていく。


 死霊術師一味の目的。ギルドや教会、"十拳"が後手に回っているのも、結局のところそれが分からないからだ。例えば何か秘宝や神器を狙っているのなら、その護衛に回ればいい。対象が人物であっても同じことだ。だが彼らのやったことは、精々"十拳"にハクマを送り込んだ程度。しかもその後は放置と来ている。


「そういや、ハクマって今何してるの?」

「最近まで軟禁状態だったけど……今は裏方として働いてる」


 クシャーナの問いに、テレサがあっさりと答える。


「おいおい、教会はそれでいいのかよ……」

「お父様がいいって言ったらいい」


 ストリックなどは露骨に嫌な顔をしたが、テレサの反応は軽い。


 聞くところによると、ハクマの素は思ったよりも紳士的だったらしい。教皇のお眼鏡に叶ったのか、近衛による監視と魔道具による拘束はしているが、精力的に働いているそうだ。オルゲートとまともにしのぎを削れる実力者だけに不安視されるのは当然だが、それにはネルチェの提言もあった。


「死霊術師ハイロとハクマの契約は解かれていない。ただ死人の扱いに関しては制約もある。彼本来の実力を出させるには、彼の同意が必須。それに反して操るなら、ただの特殊素体と変わりはない」

「奴は根っからの武人よ。今後言いなりになることはなかろう」

「つまり、相手方の主戦力としてはカウントしなくてもよいということですわね……」


 オルゲートが思い浮かべているのは、仕合後のハクマの姿だろう。


 誇り高き武人は、偽りの生よりも土に還ることを望んでいた。教会としても、ただの人形として暴れられる分にはすぐに制圧できるとの見方なのだろう。無論万全を期すのであれば、彼を自由にするという選択はない。だが、彼も被害者である。各自思うところはあれど、ひとまずハクマの心配はしなくてもいいという共通認識は築けたようだ。


「となると、そっちからの線はなしかー」

「他にめぼしい行動と言えば……あ、ダンジョンでやりあったやつかな」


 ギルハートが思い付きをそのまま言葉にする。


「そういや、あのダンジョンボス()()()()よね?」

「そう言われれば……なんか手数少なかったかな? 仮死ブレスも眷属召喚もなかったし」

「全然大したことなかった、雑魚ボス」


 実際にボス部屋での戦闘を行ったヤム達が振り返る。


 冒険者の最高峰、"十拳"が半数近く揃っており、おまけに攻略済みのダンジョン。さらには神聖魔法や白魔法のアドバンテージもあった。ただそれらを差し引いても、今思えばボスは驚くほど呆気なく陥落していた。むしろあの時はイレギュラーな存在である槍女こと、ギルガメイジュのほうに手を取られたほどだ。


「それは恐らく、不完全な状態で生まれたからでしょうね」

「ボスが……? そんなことあり得んのか?」

「死霊術師は生死の境を操るもの……もちろん並みの術師じゃ到底考えられないけど、今の彼ならやりかねないわ」

「ふむ……つまり、奴らは()()()()()を済ませ、追っ手には無理やり引っ張り出したダンジョンボスを当てたということか」


 死霊術師であるネルチェの考察。


 怪訝な顔を隠さないストリック含め、誰もが半信半疑であるが、そう考えればしっくり来る。ネルチェの読みを代弁したスカルの呟きに、息を呑む音が重なる。彼らがあそこにいたのは偶然ではなかった。そして、すでに目的は達成されている。


 そんな中、いまいち呑み込めていないヤムから声が上がる。


「え、単純に追われるのが嫌で隠れてたんじゃなくて?」

「流石にリスクのほうがでけぇだろ。道中の人の目もあるしな」

「そもそもあの鏡の神器の性能を考えたら、隠れ場所には困らなさそうかな」

「むー……そっかぁ」


 やや不満げなままのヤムだったが、一応納得はしたようだ。


 彼らの見立て通り、ハイロ達がボス部屋で何かをしていたのであれば、当然そのお目当てはボス絡みだろう。単身でダンジョンに潜っていたネルチェに自然と視線が向く中、ストリックも机の上の資料を漁り出す。


「あのダンジョンのボスモンスターは《トレット・ボーダーオブ・デス》。骸骨型の大型アンデッドよ。討伐した際のドロップ品は色々あるけど……死霊術に関係ありそうなのは『隠世(かくりよ)の器』かしら」

「おっさんが残した資料にもあるな……『数多の死霊を留めておける器』とあるが、そんな特別なもんなのか?」

「死霊術師でもなければ、無用の長物でしょうね」


 懐疑的なストリックの眼差しを受け、真正面から答えるネルチェ。


 ボスモンスターのレアドロップ品でありながら、限定的な効果しか持たない宝玉。市場価値としては決して高くないが、ギルドはこれを高価買取していた。何故なら()()()()()()()()()()()であり、そのドロップ品を求めるほど魂を膨大に集めてやることなど、悪い想像しかできないからである。


「意外に世間が思うほど、魂の収集は簡単ではないのよ。器となる肉体からはおいそれと離せないし、代わりの肉体も適合するとは限らない。私みたいに霊魂を操る死霊術師なら、こんなロザリオも使えるけど……それにしても一人に付き一つ。仮に国盗りするほど死霊を集めようとすれば、ロザリオに埋もれてもまだ足りないわ」


 胸元のロザリオを掲げて見せるネルチェ。


 注目を浴びた【剣聖】レギルスによる照れ隠しか、ロザリオに埋め込まれた宝玉がチカチカと点滅する。死霊術師目線における、物理的、能力的に制限があるという話は貴重だ。例えば戦いのフィールドが戦場跡地やダンジョン内であれば、死霊術師の力は猛威を振るうだろう。扱える魂が大量にその場に溢れているからだ。


 だが、今回の舞台は街の中。


 闘技場があるとはいえ、力を存分に震えるフィールドとは思えない。街中には墓地もあるが、それだけでは大きな脅威にはなり得ないはずだ。それでも『隠世の器』さえあれば、話は変わってくる。一つ一つのピースを手繰り寄せるように、クシャーナが顎に手を当てたまま呟き、セミテスタやエミットも続く。


「そうした制限を無視できるのが『隠世の器』な訳ね。……あれ、でもそれってかなりまずくない?」

「大量の魂の保管庫が持ち運び自由ってのは、悪い匂いがプンプンするね~」

「後は魂を入れる肉体の準備だけですけど……呪法と神器の組み合わせが最悪の想像しかさせませんわね」


 魂の問題がクリアできれば、後は容易い。


 特殊素体の準備には時間と素材が必要だが、【墓荒らし】ハイロの今までの活動が全てそれに起因するものだとしたら。魂に馴染まないツギハギの肉体を使っても大した戦力にはならない。だが、それを一流の戦士に変えてしまう呪法を、件の一味は持っている。


「ちっ……何を企んでるかまでは分からねぇが、いよいよ野放しにはできなくなってきたな」

「うむ。鏡の神器がある以上、こちらからの接触は難しいであろうが……」

「そういうつもりで備えたほうがいいのは、間違いなかろう」


 苛立ちを隠さないストリックに、オルゲートが重々しく同意を示す。


 スカルもそれに倣うが、結局死霊術師一味の目的までは分からなかった。狙いは人なのか物なのか。あるいは、無差別な破壊そのものだろうか。顔馴染みであるネルチェにも、その真意までは見通せないらしい。何かつっかえたものが取れないような顔をしていたが、ふと思い出したように言葉を紡ぐ。


「あ、彼らの目的については分からないけど……死人については一つ、引っかかる点がある」

「【潜むもの(ラークス)】だとよ」

「え…………?」


 その話を遮ったのはストリック。


 ピラピラと手に持った羊皮紙は、ギルドが用意した膨大な資料の内の一枚だ。記された大量の情報の中に、ジークが後から殴り書きで付け加えたような記述がある。首謀者や一味に連なる者達の名前などは明かされたが、いつまでもおざなりな対応をするわけにもいかない。そんな経緯と決意が綴られたそれを、各自覗き込んで確認するのだった。


『ギルドは件の死霊術師一味を危険度S、特別犯罪指定組織として正式に決定した。仮称は【潜むもの(ラークス)】。【潜むもの】首謀者ハイロ=ナインソウルとその一味を抹殺せよ』

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