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56話:戦士の狂宴-Aブロック2回戦①

 本戦3日目、【戦士の狂宴】が開宴して9日目を迎えた。


 本日行われるのは、Aブロック2回戦とDブロック2回戦。


 1回戦を突破して勢いになる闘技者と、出番を待っていた"十拳"上位との対戦だ。"十拳"上位として挑戦を受けるのは、冒険者序列1位:クシャーナと序列2位:ストリック。対するは、世代交代に抗い続ける古参の猛者、序列7位:オルゲート、そして若きスターとして注目を浴びる新進気鋭の剣士、序列4位:リュウレイである。


 すでに仕合開始時間は迫っており、舞台上には役者が揃っていた。


「これ新旧1位対決だよなっ! ずっと楽しみにしてたんだよ!」

「クシャーナーー!! 序列1位の実力、見せつけてくれーーーーー!!!」

「オルゲートーーー!! 俺はあんたが勝つって信じてるぞーーーーー!!!」


 観客の声援が降り注ぎ、彼らの人気を示すような盛り上がりを見せている。


「あれ……オルゲートさ、武器新調したの?」

「ふふん、始まってからのお楽しみよ。お主はいつもと変わらんな」


 そんな中、当の本人達は軽い調子でお互いに探りを入れている。


 クシャーナの出で立ちはいつもと変わらない。目立つのは、顔を覆い隠す仮面『絶望の断罪マスク』と愛用の呪剣『トリステスアイル』、そして蒼と黒を基調とした剣士らしからぬドレスだ。ただ他にも指輪や腕輪などの呪具を幾多も身に付けており、その使い分けと組み合わせによって、名実ともに最強の座に就いていた。


 逆に変化があるのは、オルゲートのほうだ。


 年季の入った角付きバイキング帽子や重厚な鎧は見慣れたものだが、背に背負った武器が異なっている。いつも使用している斧は、終戦斧『ソウルアイゼン』。三大生産ギルドの内の一つ、鍛冶屋【沈黙の大鎚(サイレンスハマー)】の職人に打たせた専用武器である。【不壊】の特性を持ち、長らく続いたオルゲートの武器探しに終止符を打った相棒とも言える武具であった。


 その見慣れた両刃戦斧の面影はなく、背中には歪な武器がある。


 形からすると片刃長柄の斧だが、ご丁寧に大部分は布で覆い隠されているため、詳細は窺えない。わざわざ仕合直前まで隠していることと言い、間違いなく対クシャーナ用に用意したものだろう。剣士や戦士が使い慣れた武器を大一番で変えるということは珍しく、目ざとい観客からもざわめきが起こっていた。


「それ、私のために用意してくれたんだ?」

「ふん、下手な小細工だがな。お主に勝つために、考え抜いた結果よ」


 長らく"十拳"の頂点として君臨したオルゲート。


 彼の一番の長所は、強者特有の奢りがなかったことだ。


 冒険者の頂点に立ちながら、研鑽を怠らなかった。それには肉体的な成長の他に、戦術的なものも含まれている。オルゲートが覇権を取った時代は、ただでさえ己の力とスタイルを誇示する者が多かった。それ故に対策されれば脆い一面も秘めていたが、時代が移り変わる中でも、オルゲートは適応し生き残り続けてきたのだ。


「……幻滅したか?」

「へ?」


 とうに全盛期を過ぎた戦士の悪あがき。


 オルゲートにしては珍しい自嘲を込めた呟きだったが、対するクシャーナの受け止めは彼の予想とは異なっていた。まるで本気で言っている意味が分からないとばかりに言葉を咀嚼しながら、頭をうんうんと捻っている。やがて彼女なりに解釈できたのか、すっきりした顔で向き直る。


「オルゲートさぁ……そういう考えは良くないね。最強の戦士がさ、私のために対策してきたって言ってるんだよ? 光栄だよ、すごく」


 顔だけはいい女の殺し文句。


 ナチュラルに恥ずかしいこともさらっと言えてしまうのは、クシャーナのずるいところだ。今度はオルゲートが一瞬止まってしまったが、すぐに破顔して顔にくしゃくしゃの皺を浮かべて笑う。


「………………ふっ……ふははははははははっ!!!!」

「うわ、びっくりした」


 そんなどこかゆるいやり取りを終わらせ、二人は静かに離れていく。


 新旧1位の直接対決。これで盛り上がらない訳はないとばかりに歓声が降り注ぐ。実況のギルド員サミュの声が高らかに響く中、二人は目の前の好敵手を見据え、構えと共に不敵な笑みを浮かべた。


「【戦士の狂宴】Aブロック2回戦! 【瑠璃色蝶(ラピスラズリ)】クシャーナ=カナケーvs【駆逐要塞(デストロイヤー)】オルゲート=フュリアス!!」


「――――始めっ!!!!」


 サミュの開始の合図とともに、速攻で仕掛けたのはオルゲート。


「ヌゥウウウウウウウウウウウウンンン!!!」

「うわっ、そのまま来るの?」


 オルゲートの足元、地面が爆発したような衝撃を残し、一直線にクシャーナへと迫る。ダンジョンに跋扈する大型モンスターも真っ青な特攻に、観客が息を呑む。オルゲートの手には新調した武器が握られており、依然布のベールに包まれたままだ。


「受ける選択肢はないとして……まずはお手並み拝見かな」


 受けるクシャーナは極めて冷静だった。


 肉体の全盛期を過ぎたとはいえ、まだまだオルゲート相手に真正面から打ち合えるものは限られている。彼女の選択は、固有スキル:『呪物操作(カースマジック)』を用いた、呪具+魔法による迎撃。刹那の判断、呪具『チェインルートの指輪』を行使し、無詠唱で水魔法『アクア・ランス』を放つ。


「強烈な幾多もの水の矢が真正面から迎え撃ちますがっ……!!」

「分裂させたことが逆に仇になったかな。止まらないね、あれは」


 サミュが状況を読み取り実況する中、ギルハートの冷静な声が重なる。


 機動力を犠牲にし、魔法威力を底上げしたそれは、安易には受けられない魔術師並みの威力を誇る。水魔法『アクア・ランス』はクシャーナが得意とする魔法の一つだが、無形の槍として一度に射出できる本数も調整できる。当然分けるほど1本ごとの威力は落ちる訳だが、今回はそれが裏目に出たようだ。


「んー、魔法に対するアクティブ反応はなし……かな」


 オルゲートが眼前に迫る中、クシャーナがポツリと呟く。


 オルゲートが現在展開しているスキルは、恐らく四つ。戦士のスキル『パンプアップ』『シャープウェポン』『アサルトアタック』、そして土魔法『マッド・シールド』。『パンプアップ』で身体強化し、『シャープウェポン』で武器強化を施し、特攻技『アサルトアタック』で仕掛けてきている。


 魔法対策には『マッド・シールド』と、抜かりはない。


 至極単純な攻撃ではあるが、オルゲートの肉体が合わされば、それは必殺の一撃となる。特攻技『アサルトアタック』は前面に衝撃波を展開させる攻防一体の技ではあるが、急な方向転換はできない。魔法で仕掛けたクシャーナの意図は特攻の阻止ではなく、あくまでオルゲートの持つ新武器への探りに過ぎなかった。


 土魔法をも駆使するオルゲートだが、彼はあくまで戦士。


 複数の魔法を器用に操るところまでは考えなくてもいい。その判断の元、次にクシャーナの取った行動は、離脱と牽制。呪具『チェインルートの指輪』による魔法威力強化の判定基準は、魔法発動の瞬間にかかっているかどうか。彼女が水魔法『アクア・ランス』を好んで使う理由の一つしては、溜めができるという点にある。


 オルゲートの持つ斧が上段に振り上げられる中、魔法強化を済ませる。


 今度は呪具効果を『反転』し、魔法威力を下げる代わりに驚異的な機動力で緊急離脱。魔法威力を下げるタイミングも同じなため、すでに発動を済ませている『アクア・ランス』には、その効果は乗らない。特攻技をギリギリで躱し、強化した魔法で追撃を阻止する。


 実に優雅な、計算された一連の流れであった。


「えっ……」


 しかし、ここに来てオルゲートの新武器が牙を剥く。


 呪具『チェインルートの指輪』の効果『反転』による移動術。その機動力は他者の追随を許さず、まるでその場から消えたかのような動きを見せる。だからこそ、クシャーナはギリギリまでオルゲートの動きを見た上で判断し行動に移したのだ。だがどうしたことか、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()


「ウオォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 まるで時が再開したような感覚を受けながら、振り下ろされるのは最重量を誇る鉄鎚の一撃。直撃こそ免れたものの、その威力は闘技場を割り、一時前には床だった硬質な破片をまき散らす。その衝撃によるものか、オルゲートの手にあった新武器のベールは剥がされ、黒光りする片刃長柄の斧の姿が日の下に晒されるのだった。

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