55話:十拳会議④
Bブロックを終えて、中日3日目。
【戦士の狂宴】の本戦再開を明日に控える中、再びギルドに集まった"十拳"。議題はもちろん、件の死霊術師一味の件だ。協力者として、ギルハートとネルチェも席についている。ネルチェは飛び入り参加となるが、ギルドを通じて大まかな事情は把握しているようだった。
今回、ギルドと教会側からの出席者はいない。
彼らは死霊術師と神器の調査を一手に担っており、今この時にも全力で動いてくれている。今回の臨時招集では、昨日相対したばかりの敵戦力についての共有と対策が議題となっていた。
「……事の顛末としては以上だ」
立場上、"十拳"の古参兼当事者として、スカルから昨日の経緯と戦闘記録が報告される。中心として働かざるを得なくなった彼に、ストリックのニヤついた視線が刺さる。それを鋼の意志で無視して、スカルは話しを進める。
新たな神器の使い手、ギルガメイジュ=サン=ケヴィット。
神器:【煌炎の天槍ソールハスタ】を操る彼女は、その見た目と言動から、以前クシャーナが接触した死人の一人で間違いないようだ。彼女は主に後方支援がメインの呪術師ミーコや魔術師イルルと異なり、前線における相手方の主戦力であった。
「分かってたけど、やっぱり強かったかぁー」
「そうだねー、なにせ一対一でテレサを押せる相手だからね」
「ヤ、ヤムお姉様……!? 次にやったら私が勝ちますっ……!!」
「うむ、それだけの強敵ということだな」
わちゃわちゃと感想が飛び交う中、新たな強敵の出現にじわりと危機感が募る。
テレサの実力は、先の対スカル戦で十分に分かっている。結果としてスカルが貫禄の勝利を収めたとはいえ、一対一での戦闘能力は突出していると言ってもいい。神器の使い手相手ではあるが、そのテレサが真正面から押されたという事実は、インパクトを以て受け止められていた。
「しかし、ボスを凌ぎ切ったとはいえ、よくその後あっさり引きましたわね」
「確かに……聞く限りとても好戦的なようですし、人数差で引く相手とは思えませんけど」
エミットとリュウレイから素朴な疑問が漏れる。
ボス部屋での、突発的に発生した三つ巴。最終的に大きな負傷なくボスの討伐には成功したものの、ギルガメイジュも十分に余力を残していた。再び刃を交えるかと思われたが、彼女はひとしきり暴れて満足したのか、その場からあっさり離脱していた。
「他の面子は先に引いてたから、むしろチャンスかと思ったんだけどねー」
「うん、なんか使い切りの手鏡? みたいなのであっさり逃げられちゃった」
「おそらく鏡の神器による生成物でしょうね。……これで彼女だけマークすればいいという話でもなくなったのかしら」
ヤム、セミテスタ、ネルチェと実際に相対した面子から発言が相次ぐ。
今回判明したのがギルガメイジュの戦闘能力の高さ、そしてミーコがいなくても鏡を利用した転移が可能、ということだ。それは彼らが個別に動けることと同義であり、追いかける"十拳"やギルドにとっては、非常に頭が痛い話であった。
「まず呪術師最優先なのは変わらねぇが、当然邪魔してくるだろ。なんせ奴らの生命線だからな。ある程度戦闘は避けられないものとして、そいつらの対策もするしかねぇな」
「そうだね、実際テレサはその槍の人とやってどうだった?」
ストリックが悪態をつく中、話は再びギルガメイジュ対策へと戻ってくる。
突破しなければならない大きな壁として、実際に直接やり合ったテレサの意見は貴重だ。それをうまく引き出そうとクシャーナがやんわりと聞いてみるが、テレサの反応は芳しくない。スカルやヤムの前で無様な姿を見せたとの認識があるのか、感情の波に揺さぶられ苦悶しながらも、何とか言葉を絞り出す。
「……相手の強みは、純粋な『身体能力の高さ』。私のデバフありで圧倒されかけたから……」
突出した身体能力による強さ、スピード、そして身体のバネを活かした立体的な三次元起動。そして、そこから繰り出されるのは、全てを焼き切る灼熱の矛。単純だからこそ穴が少ない、圧倒的なまでのアタッカーと言えた。そんなテレサの告白を補うように、スカルがその後を引き継ぐ。
「テレサのスキルの効果は私が保証しよう。しかし、無効化した訳ではなく、受けたままであの動きとなると、むしろデバフは必須かもしれんな。後は……奴は光魔法が使える。そうだろう、テレサ?」
「は、はいっ! お爺様っ!」
スカルのフォローを受け、テレサの顔が途端に明るくなる。
死人と光魔法という、相反した属性の同居に頭が痛くなりそうだが、どうやらそこに間違いはないらしい。スカルやネルチェの考察によると、手鏡の保険と合わせて、それこそが単独でボス部屋に残った理由。いや、残れた理由と言うべきか。
補足とばかりに、ネルチェが再び口を開く。
「別に被弾前提って訳でもなかったけど、もらっても何とかなる傷は並行して治してたわ。だからこそ退かないというか、一歩の踏み込みが怒涛の攻めに繋がってる印象があるわね」
「そっ、そうです! 死人特有の動きというか……常人であれば怯む攻撃を、最小限の被弾でそのまま前に前に来るから……」
「なるほど……確かにやりづらそうな相手だね」
テレサの喰いつきを受け、クシャーナも感嘆気味の声を漏らす。
死人とて、器に過度な破損が残れば戦闘継続は望めない。だがそれを可能にするのが光魔法、という訳だ。神器の使い手というだけでも厄介だというのに、一人でどこまでも戦える狂戦士。好戦的な性格も相まって、下手をすれば死霊術師一味の中でも一番警戒すべき敵なのかもしれなかった。
「奴と神器の情報はそれぞれギルドと教会に上げておく。本格的な議論は情報が出揃ってからだ」
あらかた情報を共有した後、スカルの号令によりこの場は解散となった。
依然彼らの狙いは読めないが、おそらく【戦士の狂宴】中の仕掛けはないはずだ。何の保証もない話だが、言うならば戦士の嗅覚とでも言おうか。無論警戒は怠ることはないが、クシャーナを始め、明日の本戦を念頭に各自静かに牙を研ぐのであった。
評価、ブックマーク登録などよろしくお願いします!




