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54話:三つ巴の死闘②

 スカル達は今、苦戦していた。


 ここはダンジョンの最下層、通称ボス部屋。


 ダンジョンの主が君臨するそのフィールドは広大であり、いくつものパーティーが大規模レイドを組み、長い死闘の末ようやく討伐できるかといった具合だった。だがそこは冒険者の最高峰"十拳"、彼らであればその常識には当てはまらない。


「テレサ出過ぎるな!」

「ご、ごめんない、お爺様!!」


 今この場には"十拳"に連なるものが4名。


 さらに同等の腕を持つ剣の達人もいるとなれば、いくらダンジョン主といえど、そうそう後れを取ることは考えづらい。ましてや『攻略済み』のダンジョンともなれば、知識という点でもいくらでも対策できた。だが状況は切迫しており、致命傷を負ったものはいないものの、ギリギリの綱渡りが続いていた。


「目で追いきれないっ!?」

「カバーは私とレギルスがする! 固まってボスを狙え!」

「どうでもいいけど、私はネルチェよ!」


 彼らを振り回す正体、それはダンジョン主ではない。


「実に愉快っ! ああ、もっと妾を楽しませるがよい!!」


 そこにはダンジョン主の突き出た肩部に降り立ち、高らかに笑うギルガメイジュの姿があるのだった。



 *



「ギルの強み? そりゃ"超人体質"と"継戦能力の高さ"やろ」


 振り返りながら答えるのは、魔術師イルル。


 彼らはダンジョンから緊急脱出した後、本拠地として利用している古城に戻ってきていた。呪術師ミーコの神器を利用した移動は、距離に左右されるものではない。彼らは国をも飛び越え、今は亡国の隠れアジトに身を寄せていた。


「急にどうしたんや? まさか、ギルが心配か?」

「うーん……ギルが負ける姿は想像つかないけど、そうかも」


 長い廊下を歩きながら、どこか冴えない顔のミーコが反応を示す。


 無表情で突拍子もないことを言う問題児、手のかかる妹分というのがイルルから見たミーコな訳だが、ここ最近の彼女はまた違う顔を見せるようになってきたように思う。そしてそれはおそらく、彼女が目の前でイルルを守れなかったことも影響しているのだろう。


「ははっ、メイジュはいい仲間を持ったね」

「いい仲間はボス部屋に仲間を置いていかんやろけどなぁ」


 ミーコの葛藤やイルルの心中を知ってか知らずか、同じく一緒に戻ってきた死霊術師の男が軽口を叩く。イルルは適当な返事でバッサリ切り捨て、備え付けのソファーにドスンと腰を下ろす。なにもギルガメイジュを置いてきたのは、男の独断という訳でもない。


「今頃手を焼いとると思うで、あの狂乱女王様にな」


 誰に言うでもなく呟いたイルルは、そっと不敵な笑みを残すのだった。



 *



 死霊術師一味にして、神器持ちが一人。


 彼女の名はギルガメイジュ=サン=ケヴィット。


 神器:【煌炎の天槍ソールハスタ】を操る生粋の武人であった。脱ぎ捨てた灰色のマントの下から出てきたのは、真紅に染まる鎧。その立ち振る舞いや雰囲気などから高貴な身分であったと察せられるが、今の彼女を見て優雅であるとはお世辞にも言えない。美人と言える整った顔立ちは今や暴力の愉悦に歪み、狂戦士然としていた。


「オオオオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「む、妾の椅子の分際で不遜な……」


 周りを飛び回る忌まわしい虫を落とすように、ダンジョン主の怪腕が振り回される。その主である《トレット・ボーダーオブ・デス》は、骸骨型のアンデッドモンスター《スケルトン》をそのまま大きくしたような見た目だ。地面から背骨を軸に上半身だけ突き出たような見た目をしているが、身体の所々から突き出している骨が、堅牢な骨の鎧を築いていた。


「下から来るぞっ!!」

「うわっ!? もうっ、これじゃ全然踏み込めないよ!」


 さらには、地を突き破って生み出される骨の杭が厄介だ。


 隠れた下半身と連動しているのか、的確に対象の下に潜り込み、連携を乱してくる。おまけにその場から動かない上半身も、背骨のしなりに合わせてとんでもない距離までその攻撃を届かせてくるのだ。大柄なダンジョンボスではあるが、動きという点では決して緩慢ではない相手だった。


「オオオォオオオオオオオオオオオオオオオ……」


 そんなボス相手に有効打を与えているのは、主に二人。


「ただの屍の癖に……邪魔しないでくれる?」

「どれ、躾が足りないならくれてやろう」


 テレサとギルガメイジュである。


 神聖魔法で光属性を付与した『刀剣術式』は、アンデッドモンスターには効果抜群だ。ボスクラスともなると『キュア』では浄化できず、精々動きを鈍らせるだけなので、『刀剣術式』で刻んでいく戦い方が正解だろう。向かってくる骨の杭を断ち、ボスの身体をも射程に捉える。流石に一刀両断とはいかないが、確実にダメージを与えていた。


 一方のギルガメイジュも、標的をボスに移したようだ。


 どうやら彼女の攻撃もボスに特攻があるらしく、彼女が通り過ぎた後には熱が残った様な傷跡が深く刻まれていた。彼女の持つ神器もその高ぶりに反応しているのか、柄は脈打ちまるで血管のような模様も浮き出ている。武骨で棒のようだった槍の先端は、今はその先が左右に割れ、太陽の輝きを放つ新たな穂先を生み出していた。


 途中二人は交錯しながらも、ボスを凄まじいスピードで削っていく。


 圧倒的なまでの身体能力を以て、ピンボールのように跳ね回るギルガメイジュ。そして軽やかな動きと縦横無尽に展開される『刀剣術式』で、攻守に危なげない戦闘を展開するテレサ。いつしか二人の動きは交差し絡み合い、ボスの胸に埋め込まれたコアへと登り詰めていく。


「『死刑執行(パニッシュメント)』――これでバイバイ」

「死者に太陽の輝きは辛かろう……早々に土に還るがよい」


 振り切られたそれぞれの一撃は十字に交わり、コアに吸い込まれた。テレサの身の丈以上もあるそれは、衝撃を真正面からまともに受け、その一点から瞬く間に亀裂が全体へと広がっていく。途端にボスの巨体は制御を失い、堅牢だった骨の鎧はひび割れ崩壊の一途を辿る。


「オオオオオオオオォオオオオオオオオオオオオ…………!!!」


 ボスの不運は、天敵足りえる人物が二人もいたこと。


 またそのどちらもが前線で戦える戦士だったことが、早期決着に結びついたと言えよう。本来の攻略方法は、神聖魔法で光属性を付与した、魔術師連隊を主軸にした消耗戦。前衛職は盾役となり本隊を支え、背骨を集中砲火で倒した後に、巨体に群がり止めを刺すのが正攻法とされていた。


「うわー……ほとんど二人で倒しちゃったよ」

「踊りの支援スキルと土魔法の補助があったとはいえ、攻撃面はほぼ自前だしね~。ちょっとボスが可哀想かも」


 唖然としながらも、どこか達観した感想がちらほらと漏れる。


 今回のボス戦では、ヤムとセミテスタは初めから支援に徹していた。ヤムの職業は【踊り子】。前線で戦える支援職であり、パーティーメンバーを鼓舞する舞はいつも以上の力を引き出させるのだ。刻一刻と状況が変わる中で、踊りの熟練度も高い彼女だからこそ、この混沌とした戦線を支え切ることができたに違いない。


 セミテスタは慣れたもので、テレサだけでなくパーティー全員の補助を一手に引き受けていた。主に防御結界の張り直しがメインではあったが、それと同時に幅広い視野で骨の杭の撃ち落しや無効化を担っていた。目立たないが、実に堅実的な守りだったと言えよう。


 今回出番が少なかったのは、剣士のスカルと死霊術師のネルチェ。


 彼らはいずれも近接戦闘を生業にするものであり、戦闘技術も対人戦に特化していた。無論モンスター相手にも後れを取らないだけの実力はある。だが超大型のボスモンスターには攻め手と火力に欠け、結果後衛の護衛に回らざるを得なかった。


「はぁー……改めてとんでもないことに巻き込まれたわね」

「お疲れ、ネルチェ」


 身体の疲労というよりかは、気苦労のほうだろうか。嘆息するネルチェに労いをかける、【剣聖】レギルスの声も聞こえる。


 最も一番の不確定要素であるギルガメイジュを牽制し、ボスの攻撃を凌ぎ切れたのも、彼らの徹底した見切りのおかげであった。結局のところ、全員果たすべき役割を果たした結果が、この勝利と言えるだろう。そしてボスは倒れこそしたが、戦闘はまだ終了していない。おもむろに発したスカルの一言が、再び場を引き締める。


「気を抜くのもそこまでだ。敵はまだ残っているぞ」



 ボスの巨体が沈み、土埃が晴れた先。


 そこには相対して睨みあうテレサとギルガメイジュの姿があるのだった。

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