52話:引き合う魂③
ダンジョンで唐突に始まった、達人同士の切り結び。
それはどうやら再会を祝した、彼らなりの挨拶だったらしい。立ち込めていた殺気は霧散し、今はお互いにのどかな雰囲気で会話を重ねている。スカルと剣を交えるほどの腕を持つ謎の人物も気になるが、仕合をまだ残しているスカルがここにいることも不自然だ。
そうヤムが考える中、さらっとお呼びがかかる。
「さて……ヤム達もいるのだろう?」
「あはは、やっぱりばれてたかー」
ばつが悪そうに頭を掻き、岩陰からぞろぞろと姿を現す。
実のところ、まだ少しばかり緊張していたのだが、スカルの反応は柔らかい。スカルに懐き、彼に抱き着く勢いで向かうテレサにも、探す手間が省けたと穏やかに対応している。そんなやり取りを見守るのは、素顔を晒した謎の剣士である。美女と言っていい顔立ちで、ややつり目で寡黙な印象を受ける人物だ。
今は肩にかかるピンク髪のおさげを指で弄り、どこか所在なさげな様子だった。
そんな彼女に向き直り、スカルが本題に入る。
「ジーク……ギルド長からのお使いでな。お前らを引き合わせるなと言われていたのだが、こうなっては仕方あるまい」
「……元々そういう目で見られてたって訳ね。監視からしてもそうだけど、協力を仰いどいて白々しいわね」
「あ、あれ? やっぱり仲悪いの!?」
吐き捨てるような彼女の物言いに、ヤムが分かりやすく狼狽える。
「色々と奴にも立場があるからな。貴様の"職業"と今の状況を考えると、やむを得なかったのだろう」
「……私はあなたにも言いたいことがあるんだけど、レギーに免じて許してあげる」
「それは助かるな」
それなりに友好関係を気付いたもの同士のじゃれ合いなのか、本当にギスギスしているだけなのか、まるで分からない。あたふたするヤムと思案顔で見守るセミテスタがいる中、次に言葉を発したのは、スカルの袖をキュッと摘まんで離さないテレサだった。
「あなた誰? 勝手に話してないで、分かるように言って」
「教皇のところの……」
スカルへの圧が強めだったからだろうか、テレサの言葉に不機嫌な色が滲み出ている。スカルの手前、彼女にしては我慢が効いているほうだったが、これは返答を間違えると詰むタイプの問いであった。それを知ってか知らずか、ようやく彼女の口からその正体が明かされるのだった。
「私は……ネルチェ=ネイソン。【剣聖】レギルスの魂を使役する、死霊術師よ」
*
ネルチェと名乗った死霊術師。
彼女は【戦士の狂宴】時に仕掛けられた、死霊術師一味への対抗策として外部から呼び寄せられた人材らしい。彼女自身はギルドから受注するクエストを細々とこなし、特に問題行動が確認されたことはない。むしろ冒険者としての実力は高く評価されており、ギルドから個別に依頼をかけられるほどだった。
「実力はさっきの見たら分かるよねー」
「うん、やっぱ世界は広いな~」
二人で知った顔で相槌を打つのはヤムとセミテスタ。
ギルドにとって、まさに渡りに船の人物ではあったのだが、彼女がどちらを選ぶかまでは、判別がつかない。そのため、協力を仰ぎながら監視もするという、ネルチェにとっては不信感を煽る仕打ちになってしまったのだ。
「あのアホと一緒にされたらたまったものじゃないから、はっきり言わさせてもらうけど……少なくとも私がこの件で関与していることは何もないわ」
「ふむ、その言葉は私からギルド長に伝えておこう」
件の死霊術師との関係性を匂わせ、釘を刺すネルチェ。
情報が欲しければ、つまらない干渉をしてくるな。暗にそう訴えるネルチェの意図を、スカルはサッと汲み取る。彼女の実力は本物であり、反感を買って敵に回すほうが損である。ある種双方で線引きができたことで、今回の衝突にも意味があったと言えよう。
「……それで、あなたはここで何をしていたの」
「おやおや、随分と嫌われてしまったね」
未だ言葉に圧が籠っているテレサからの問いに反応するのは、【剣聖】レギルス=フォー=トゥナイト。スカルの旧知の友でもある彼は、今はネルチェが首から掛けるロザリオから声を発している。魂を使役する死霊術師の戦術の一つ、『憑依』による疑似召喚。古き時代に生きた【剣聖】の技は、この時代でも突出した力を誇っていた。
「ギルドからの追っ手を撒きたかったのは一つあるが……」
「ちょっと、レギー」
「はは、本音だろう? それはそれで、彼女も自分で調査したいことがあったようでね」
茶目っ気を含んだあっさりとした暴露に嘆息するネルチェ。
ここまで来たら一蓮托生、腹を割って話そうと持ち掛ける相棒の言葉までは無視できなかったようだ。睨みを利かせるテレサを見つめ、それから全体へと意識を向ける。どうやら自分の口から説明しないと話は進まないらしい。観念したネルチェは、何でもない風に一言残すのであった。
「あなた達が追ってる彼ら……今ここに来てるわよ」




