48話:戦士の狂宴-Cブロック④
一瞬気を失っていたのかもしれない。
「かはぁ……っ!! はぁ……はぁ……」
思い出したように息を吐く。
テレサの思考が、まるで電源が入ったかのように再起する。視界の中で世界が二転三転した後、気付けば闘技場の端まで飛ばされていたようだ。痛む身体に鞭を打ち、懸命に顔を上げた先には死神の姿。恐怖を今更思い出したかのように手足が震えるが、剣を杖代わりに何とか起き上がる。
「ほう……何のために立ち上がる」
「私が……やらなきゃ……」
もはやスカルの言葉も耳に入っていない。
うわ言のように呟き、頬を涙で濡らし、顔を歪めながらもテレサは剣を構えていた。執念、ただそれだけで。
「お父様は最強……私なんかに守られなくても大丈夫」
教皇の腕にも届かないものの戯言。
自分自身でそう理解しながらも、この足掻きをやめるわけにはいかない。凍える季節、ただ路地裏で死を待つだけだった少女は、温もりを知ってしまったのだ。差し伸ばされたその手を握った、あの日あの時から。
「でも、人は必ず老いるからっ……いずれ剣を握れなくなる。だから……だからっ……!! 私が強くなって……守らなきゃっ!!!!」
仮面越しに、スカルはきっと笑っていたのだろう。
「…………守って見せろ、その剣で」
感情の爆発、それがテレサの最大の武器になる。
テレサの持つ剣が発光し、自ら切りかかったテレサの動きに合わせ、独特な軌跡を生む。まるでヤムの踊りのように流麗な曲線を描いた後、それは『天剣』を振るうスカルの剣を弾いていた。その斬撃の正体は、『刀剣術式』を纏った剣による、刹那の多段斬撃。
切り払いを受けたスカルの剣が、突きの衝撃を抑えきれず弾かれる。
なんでも斬られるのであれば、それが届くまでに押し返せばいい。異なる方向の斬撃が一度に刻まれるその精度と威力は、さすがの『天剣』でも一振りで断ち切れるものではなかったようだ。まともにスカルと斬り合っている、その事実が裏に控えるリュウレイの自尊心を激しく揺さぶる。
「こんな……!? 私は……っ!!!」
スカルの見立て通り、剣の腕では圧倒的にリュウレイのほうが上である。
だがスカルの一振りに沈んだリュウレイからすれば、今のこの光景こそが全て。容易に真似できないテレサのそれに、深い嫉妬を覚える。唇をきつく結び、手を付いた机にひびが入る。そんな様子を横目で見るストリックは、ポツリと呟くのだった。
「……決着が近いな」
『刀剣術式』を自分のものにした、テレサだけの武技。
それはスカルの『天剣』とも一時互角に斬り合ったが、徐々にその出力が落ちてきている。スカルの慣れもあるだろうが、弾き飛ばされることなく、超至近距離での斬り合いが続く。スカルのもつ剣がテレサの剣に沈みこもうとした瞬間、限界を超えてテレサがそれを弾き返す。
「……はぁ……これでっ!! 『パニッシュ・スタブ』三連――『棘』!!!」
距離が空いたのも束の間、繰り出されるのは、助走を取っての最速の突き。
全てを攻撃に回した、近接戦闘時におけるテレサの最大火力。まるで突きが押し出されるように重なり、立ち塞がる障害を穿つ槍となる。安易に受けられないそれに、スカルはここ一番の踏み込みで応える。
「――――――『死突』」
カウンターの要領で突きだされたそれは、寸分たがわずテレサの心臓を貫いた。両者勢いのまま駆け抜け、やがてテレサの身体が地にゆっくりと崩れ落ちる。スカルが銘打った、数少ない技の一つ『死突』。スカルが放つ突きの終着点であるそれは、常人には知覚しえない。
「守りたくば……上がってくるがいい、この高みに」
テレサがそれを受けて倒れている――その事実が彼女の強さの証明でもあった。感情をぶつけ合った先に勝敗は決し、高らかに勝者の名前が告げられるのであった。
「Cブロック――、勝者スカル=ゾゾン!!!!」




