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46話:戦士の狂宴-Cブロック②

 天性の戦闘技術と、斬撃の魔方陣を展開する『刀剣術式』。


 それだけではないと思っていたが、よもやこれほどとは――。


 スカルが身に纏う東洋風の着物に剣尖が走り、前をはだけさせる。当然服一枚斬らせる気のなかった中で、初めてスカルの予想の上をいった攻撃であった。剣を振り切ったままの姿勢で荒い息を吐くテレサの姿。距離を取り、それを見据えるスカルの眼には、彼女の持つ固有スキルの名が浮かんでいた。


 固有スキル:『信仰天秤(フェイスバランス)』。


 テレサが生まれながらにして持つ、先天的な才能である。


 効果は「信仰心依存による身体能力大幅補正」というもの。要は想いの強さがそのまま力になるという、強力だが諸刃の剣とも言えるスキルであった。普段のやる気のなさはこの激情を抑えるものだったのかもしれないと、スカルは漠然と思う。


「あなた……お父様の何なの?」


 殺気立つテレサからの詰問。


 受け答えを間違えると面倒くさいことになる。何故か急に修羅場に巻き込まれた感覚に襲われるが、さりとて相手のご機嫌を窺う必要もない。欲するのは強者のみ。感情に振り回される剣士など、スカルが最も忌避する存在ではあったが、彼女の強さはまさしくそこにある。


「お前のお父様……ハインデルとは、古い知り合いなだけだ」

「古い……知り合い…………」


 スカルの言葉をうわ言のように反芻するテレサ。


 テレサのお父様――教皇ハインデル=スペランサは【戦士の狂宴】のスポンサーであると同時に、まごうことなき教会のトップである。彼女との関係を本人に直接確認した訳ではないが、『刀剣術式』を習うなら彼からしかあり得ない。剣士と魔術師両方の才を持って生まれた、偉人であり奇人。


 今も高みから見下ろしているのかと思うと、引きずり下ろしたくなる。


 そんなスカルの心の内を知ってか知らずか、ブツブツ呟いていたテレサが再起する。そんなテレサの様子を見て慄くのは、関係者席から見つめるシスター近衛隊長のサラ。テレサの面倒を根気強く見続けた彼女は、彼女の固有スキルについても把握している。だからこそ、今サラが憂いているのはテレサではなく、スカルの身だった。


「だめっ……()()()()()()……!!」


 顔を上げたテレサの瞳の中に浮かぶのは、黄金に輝く十字の刻印。


 テレサの感情はいつも不安定で、ふとした瞬間に『信仰天秤』が暴走し破壊衝動に駆られる獣と化す。それは天秤が片方に傾いた状態であり、体力が尽きると同時に解除される。だがその天秤が釣り合った時、冷酷無比な断罪の使徒が生まれるのだった。


 信仰心と釣り合わせるもの――それは、教皇の敵そのもの。


「私よりも前に…………『信仰天秤』――『判決(ジャッジ)』」

「これは……不可避の呪いか」


 その定義も結局はテレサ基準であり、スカルは見事に彼女の地雷を踏んだのである。殺気を剣に押し込め、罪人の証をスカルの身体に刻み付ける。


「『パニッシュ・サイン』――罪の証は、もう消えないよ」

「ふん、執行者気取りか。やってみるがいい」


 もはや問答はここまで。


 その点ではお互い意見が一致したのか、仕合は再び動き出すのであった。



 *



 飛び交う斬撃が、闘技場を荒らす。


 先程までの戦闘と同様に、テレサの攻撃がスカルを切り刻もうと縦横無尽に放たれる。対するスカルはというと、傍から見ても防戦一方。まるでテレサに近づけていなかった。スカルの身体を重く縛り付けるのは、『信仰天秤』の効果によるマイナス補正。


 『信仰天秤』の派生スキル、『パニッシュ・サイン』。


 これは殲滅対象に定めた相手の身体能力を、大幅に削るというものだった。スカルには重たい足枷が付けられているが、テレサの身体能力大幅補正はそのまま活きている。結果、覆しがたい身体能力の差が生まれ、今や闘技場は処刑場へと切り替わっていた。


「ほら、逃げてばっかりだといずれ捕まっちゃうよ」


 軽口を叩くテレサだが、『刀剣術式』の精度と威力も先ほどの比ではない。


 ある種、感性に任せて振られていたタクトが、今は明確な殺意の元、冷徹なまでにコントロールされている。『信仰天秤』の『判決』が出た後にのみ解禁される、魔法陣から斬り属性の斬撃を放つ『パニッシュ・スレイ』。突き属性の『パニッシュ・スタブ』。二対の魔法陣で結ぶ、一直線上の斬撃『パニッシュ・キル』。


 スキルとして昇華されたそれらを惜しみなく使い、少しずつ削っていく。


 1対1においては、比類なき強さを誇るテレサ。だがそんな彼女の容赦のない攻めに晒されながらも、スカルは耐えていた。辛うじて戦闘続行できている理由、それは彼の持つ特異な眼に起因していた。


 固有スキル:『天眼(ホロウアイ)』。


 効果は「全てを見通す眼」。


 彼はこの眼で数多の死線を乗り越え、多くの剣士を、人を見通してきた。本人しか知りえないスキル構成も、人としての器も、先祖や故郷などのルーツも、全て視えるのだ。


 幾度となく彼の窮地を救ったそれは、対人戦でこそ最も輝く。


 攻撃の軌道を先読みし、最小限の動きで躱す。重い足枷があるのであれば、それすらも計算に入れて動く。ゆったりとした動きで高速の斬撃を躱す、躱す、躱す。圧倒的な出力を誇るテレサの『刀剣術式』が、瀕死の剣士を捉えられない。


 感情を揺さぶられるテレサだったが、彼女は冷静だった。


 スカルに飛び道具はない。これまでの戦闘記録から、それは確定と見ていい。圧倒的アドバンテージは揺るがず、このまま削っていけば先に崩れるのは彼のほうである。そして、その見込みはスカルも共有するものであった。


 避けれこそするが、それは『天眼』も含め、全てを回避につぎ込んでいるからだ。


 相手を倒すには反撃が必要であり、相手の虚を付けるほどの身体能力も、今の彼の身体には残っていない。この状況を打破するために、身体を削られながらも『天眼』のリソースをテレサの解析へと少しずつ割いていく。そして、その過程で彼は知ってしまった――――()()()()()()()()()



「イラ……イザ……」



 達人にあるまじき、致命的な隙。


 脚が止まってしまったスカルに突き付けられるのは、周囲を逃げ道なく囲む無数の刃。退路がなければ逃げることは最早叶わない。


「『死刑執行(パニッシュメント)』――罪人には死、あるのみ」


 無慈悲な宣告、それは断頭台のギロチンのように振り下ろされるのだった。

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