45話:戦士の狂宴-Cブロック①
観客が少しずつ闘技場に戻ってきている。
本日組まれている残り一仕合は、これも注目カードのCブロック。『万年十位』謎の剣士スカル=ゾゾンと、こちらも謎多きシスターのテレサ=スー。スカルは未だ公の入れ替え戦での戦闘記録がないだけに、3位という序列にいながらもその実力を疑問視している観客は多い。
対するテレサはというと、現在の序列は8位。
いずれも実力者であるクリスト、ギルハート、ヤム相手に三戦続けて勝ち進んでいる。魔法陣から斬撃を飛ばすという、他に類を見ない戦闘方法の攻略は傍から見ても難しく、リュウレイと同じく快進撃を期待する声が多く聞かれる。さらには薄幸の美少女とまで謳われるビジュアルが、異性人気をしっかりと獲得していた。
「テレサちゃーん! 今日も期待してるよー!」
「ひょろい骸骨剣士なんて、速攻で終わらせちゃってー!」
外面しか知らない歓声に、一部シスター界隈からはため息が漏れる。
もっともテレサ自身に人気を獲得しようなどという気はさらさらない。仕合開始が近づき、両者入場する中で降り注ぐ歓喜の声にも全く反応しない。それすらも俗世に囚われず、神への祈りを真摯に遂行する敬虔なシスターの姿として映り、好感度は勝手にアップするばかりであった。
「見たいものを好きなように見る……人は変わらんな」
「わ…………喋った」
ぼやくスカルにテレサが薄い反応を返す。
仕合開始が間近に控える中、対面する両者の面持ちは静かなものだ。スカルは黙し、テレサはローテンションのまま。開始前の所説明を行っているサミュが反応の薄さにドキドキしているが、その姿は両者の視界には入らない。
「えー……両者準備は良さそうなので、始めましょう!」
必死に合図を送るが、あくまで二人は自然体のまま。武器にすら手をかけない両者に内心オロオロするサミュだったが、隣のギルハートに後押しされ開始のゴングを鳴らした。
「Cブロック、【放浪武者】スカル=ゾゾンvs【逆十字】テレサ=スー!!!」
「――――――始めっ!!!」
開始の声と同時に、観客席からの歓声がどよめきに変わる。
棒立ち姿はそのままだったが、先に動いたのはテレサ。魔法陣から斬撃を放つ異色の技、それがスカルを囲むようにいくつも展開されている。この技の厄介な点は、剣士という職業から解放されたかのような効果範囲、そして溜めなどが一切存在しないこと。
「お父様の下に行くのは私……さっさと死んじゃえ」
無慈悲なまでの数の暴力。
魅せる仕合など、する気はない。ましてや相手にすら興味のないテレサは、速攻で仕合を決めにかかる。ピンクに発光する魔法陣の光がひと際強くなり、檻に閉じ込めた相手を容赦なく貫く。全方位からの高速斬撃。耐えるにしろ避けるにしろ、被弾は必至。
観客の悲鳴が上がる中、技の余波で立ち昇った土煙が少しずつ晴れていく。
あわや謎の骸骨剣士はその実力を発揮できず、未知数のまま散った。誰もがそう思ったが、土煙が晴れたその先、スカルは平然と立っていた。先ほどと違うのは、腰に収まっていた刀の位置のみ。胸元まで上げられた鞘の中心には衝撃がぶつかった様な跡が残っていたが、スカル本人が被弾した様子はなかった。
「ふん……当てる攻撃が一つだけなど、随分舐められたものだな」
「生意気……」
全てを見切った上での挑発。
挨拶は終わりとばかりに、両者が動き出す。
スカルはテレサを追い、テレサは逃れながら魔方陣を展開する。まるで剣士対魔術師の様相を呈しているが、テレサの場合接近戦が弱い訳では決してない。背中から抜き取った十字架を模した剣は、テレサの身の丈ほどあり、華奢な身体からは想像もつかないほどの威力を生み出していた。
「魔方陣からの攻撃と合わせて、リーチは圧倒的にテレサ選手が上か!?」
「スカルも上手く掻い潜っておるが……なかなか隙がないのぉ」
サミュの実況にクリストが同調する。
クリスト自身はテレサと直接対決を行った経験があり、そのやりづらさを体感している一人だ。どこにでも斬撃を生み出すそれは、攻守に活躍するだけでなく、相手の動きを制限、牽制する役割をも担っている。必然的に攻めるルートが制限され、誘導された先にはテレサからの手痛い反撃が待っていた。
「なるほど……上手く真似るだけでなく、自分に合った戦い方ができている」
「なにを……!!」
「褒めているのだ、素直に受け取っておけ」
懐にもう少しで飛び込める、そうした瞬間に死角から飛び出す斬撃。
それをまるで見えているかのように最小限の動きで躱し、再び距離を取る。一気に高速化した仕合が一瞬落ち着き、観客席から大歓声が漏れる。剣技自体の腕としては、リュウレイには遠く及ばない。だが、魔方陣を展開しての立体的な攻めと守りを卒なくこなせる天性の戦闘技術がある。
伊達に三戦勝ち上がり続けた訳ではない。
体勢を立て直し、スカルは冷静にテレサを評価する。リュウレイとの仕合を経て、恐らくスカル自身にも影響があったのだろう。勝者と敗者、それしか知らなかったスカルの道に、才能の輝きを突き付ける後進の剣士たちが現れた。私も年を取ったものだ、そう自虐するスカルは内心の高ぶりを少しの驚きと共に素直に受け止めていた。
「逃げてばかりで勝てるとでも?」
「そうだな。相手に刃を突き立てその命を絶つまでは、決して終わらん」
「……今日はよく喋るね、お爺ちゃん」
嫌みを垂らしながら、息を整えるテレサ。
見切られている、その事実を歯噛みしながら確認する。テレサのスタイルは言ってみれば剣士と魔術師のいいとこどりであり、隙が少ないのが特徴だ。魔法陣の展開スピードは魔術師の無詠唱のそれであり、効果が落ちることもない。一度捕まれば即座に囲まれ、細切れにするほどの斬撃を浴びせられる。
その見極めは、一流の剣士と言えど簡単ではない。
『超一流なのだから、当たり前です』
リュウレイが解説席にいれば聞こえてきそうな声を掻き消し、テレサは再び剣を構える。彼女を苛立たせるもう一つの理由、それはスカルがまだ一度も剣を抜いていないことである。鞘での防御は何度か見られたが、まるでテレサなど眼中にないような戦い方に、激しい憤りを覚える。
「その『刀剣術式』――、奴からの教えか?」
「…………っ!!」
再びポツリと呟いたスカルの言葉に、テレサが過剰な反応を示す。
眼を見開いた瞬間、その姿は掻き消え、放つのは魔法陣さえも置き去りにした神速の斬撃。それは闘技場の観客、解説席の冒険者の目をも掻い潜り、悠然と佇むスカルに突き立つのであった。
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