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42話:戦士の狂宴-Bブロック③

 豊富な魔力量を持つセミテスタ。


 土魔法の特性も活かした、持久戦が得意な彼女が今回選んだ戦法は、()()()速戦即決。エミットのお株を奪う、火力で圧倒する短期決戦を仕掛けたのである。その象徴が大技による砂塵の隠れ蓑と、大量の『フロート・バレット』。これらはいずれも時間経過や、風魔法で対策できる程度のものでしかない。


 セミテスタは持久戦を仕掛けてくる。その思い込みを逆手に取り、ある種博打寄りの策略を見事に完遂させたのである。


「はぁはぁ……」


 ハイペースで魔法を絶えず構築した反動か、息が荒い。


 セミテスタとて魔力量には自他共に認めるものがあり、決して持久戦の分が悪い訳ではなかっただろう。だがエミットは基本五属性のスペシャリスト。魔法の威力もそうだが、的確に状況にあった魔法を選択できる、目に見えない能力を最大限に警戒した末の選択だった。


 日差しが照り付ける中、止めを刺す魔法を待機させにじり寄る。


 『フロート・バレット』の乱舞をまともに食らったエミットは、今は地に伏せか細い息を零している。回復を司る光魔法はシスターの専売特許だが、魔術師の魔法にも多少の回復効果があるものはある。だがそんな隙を与えるセミテスタではないし、仮に回復できても全開するような軽いダメージではないはずだ。


 仮に闘技場内で死ぬほどのダメージを負っても、決して死ぬことはない。


 だからこそ、セミテスタは躊躇わない。勝負を手繰り寄せる最後の一手、これは決して弱っているものに掛ける情けではなく、どこまでもエミットを警戒しているが故の行動だった。


「――――」

「……っ!!」


 微かに動いたエミットの唇。


 それを認めた瞬間、セミテスタは後ろに飛びのきながら、容赦なく展開していた『フロート・バレット』を射出した。それがエミットに触れ貫く瞬間、突如出現した黒と白に瞬く球状の空間に削り取られる。その空間は瞬く間にエミットを中心に拡がり、そのままあっさりと土の杭を呑み込んだ。


 明らかに異質。


 防御結界を何重にも張り直し、セミテスタが慌てて距離を取る。闇雲に仕掛けなかったのは、魔術師のアンテナが最大限の警戒を発していたからだ。謎の空間は闘技場の床をも滑らかに削り、収まった頃にはエミットの伏す床だけを辛うじて残すのみだった。


「『癒しの風よ――精霊と共に舞え』」


 新たな詠唱と共に、ゆっくりと立ち上がるエミット。


「――『ヒーリング・ブリーズ』」


 風魔法『ヒーリング・ブリーズ』。魔術師が持つ、代表的な回復魔法である。体力の回復、痛みの緩和などが主な効果だが、傷を全て消し去るほどの力はない。それでも一息付けたのか、淡い緑の光に包まれたエミットは静かに深い息を吐いた。


「本当に効きましたわ、さすがセミテスタですわね」

「……いやー、これが試合の後だったら素直に喜べたんだけどなぁ」


 会心の試合運びだった。


 軽口で応えながらも、内心冷汗が止まらない。冒険者は往々にして切り札は隠し持っているものだが、既存の魔法の枠から逸脱し過ぎている。効果は何だ? 属性は? 範囲は? 魔法の消去? いや、物理的にも有効? 条件は? ぐるぐると疑問が頭に渦巻き、次の行動が選べない。


「聞くだけ聞いてみるけど……種明かしなんてしてくれちゃう?」


 とにかく時間を稼げ。


 速攻作戦は有効だったが、今はもう持久戦に移行するしかない。何より、もうあれを使わせても食らってもいけない。まずは近づけさせないこと。そこを第一に考えて、もう一度プランを立て直す――。


「――『消滅魔法(ロストマジック)』」

「え?」


 頭を必死に働かせるセミテスタの耳に、予想しなかった答えが返ってくる。


「決してスキルと呼べるような昇華された技ではありませんわね。まだ生まれたてで、精々()()()()()と言える程度かしら。基本五属性を均一に練って生まれる、五芒星の結晶……強いて言えば"無"属性。これが私の中ではしっくりきますわ」

「エ、エミットさん……!?」


 エミットの口が止まらない。


 まさかセミテスタのリクエストにお応えした訳ではないだろうが、彼女独自の解釈で語ってくれている。聞く限り、まさかこの土壇場で習得したのだろうか。


「たぶんあなたにあてられて私もハイになっているのでしょうね。ようやく捕まえた流れ星、自慢したいなんて言ったら鼻で嗤われるかしら?」


 エミットの笑みに釣られ、セミテスタの口角が上がる。


 高ぶる魔力が引き金になったのか、再び観客の声援が飛び交う。この戦いは決着が近い――。何故だか漠然と共有された想いは、熱気と共に闘技場を駆けるのだった。



 *



 窮地に覚醒した、エミットの『消滅魔法』。


 これは固有スキル:『五芒星(ペンタグラム)』を応用して生み出された、エミットしか使えない魔法である。五つの属性を『五芒星』で束ねた結果、属性同士が反発し合い全てを無に帰す、一種の超圧縮エネルギーを生み出すことに成功したのである。


 攻防一体の奥義ではあるが、それ相応のデメリットもある。


 まず『消滅魔法』を使っている間は、新たに別属性の魔法を唱えることはできない。今はセミテスタの牽制もあり、とても解除はできない状態だ。さらには魔力消費が激しく、長時間の使用はできない。つまりはもう、次の一手で決めるしかない。


「これは、逃げられませんわよ?」

「……それ人に向けていいやつじゃなくない?」


 円状に展開している『消滅魔法』の中で、エミットがさらに魔法を練る。


 距離がある中、悠然と構えるエミットの姿が今は逆に不気味だ。攻撃が通らないとは言っても、魔力量を削る意味では有効なはずだが、セミテスタは牽制をやめ、それに対応する構えを見せた。


 決着が近いことを察してか、再び闘技場が静まり返る。


 防御結界を構築しながら、セミテスタは考える。『消滅魔法』は五属性を圧縮して生まれた魔法。であればその属性も備えていると踏んだほうがいい。彼女が警戒するのは、雷属性に含まれる()()()()


 ただでさえとんでもない魔法なのだ、不利な体勢で受けることだけは避けたい。結局この仕合は、これを受けきれるかどうかで決まる。なに、受けることには慣れている。受けて耐えることこそ、土魔法の本懐。覚悟を決めたセミテスタは地面に杖を突きさし、不動の構えを取った。


「それでこそ私のライバル……ではいきますわよっ!!!」

「ばっちこーーーい!!!」


 お互い死闘を尽くし、蹴落とし合う相手。それでもそこには、最後まで相手への偽らざる敬意があった。セミテスタの防御結界が何重にも構築される中、その詩は響く。


「――『赤に燃え、緑に芽吹き、土を纏い、黄に瞬き、青に流れる』」


 『消滅魔法』は『混成魔法』と同じく、詠唱という正解のない魔法に思えた。だがエミットの口からは、まるで沸き上がる水のように詠唱文が紡がれる。詠唱は魔法における導線の役割を持ち、古くから受け継がれてきた世界の理の一つである。


「――『自然界に存在する五つの色よ、今こそ五芒星の下に集え』」


 世界のほんの一部でしかない人間が、あまねく世界の理をどれだけ知っていようか。正解は星の数ほどあり、結局のところ人が知り得ているのは極々僅かなのである。そして今、エミットは五芒星の力を解放し、新たな正解に辿り着いたのだった。


「――『ロスト・カノン』!!!」


 それは恐らく『消滅魔法』における唯一の魔法。


 基本五属性が凝縮された光線は、黒と白に瞬きながら一直線にセミテスタに迫る。備える時間は十二分にあった。セミテスタも吠え、地面からは土壁が幾重にも生み出される。絶対的な魔力量が生み出す、無詠唱魔法による圧倒的な物量。その壁は【駆逐要塞(デストロイヤー)】と呼ばれるオルゲートの特攻すら阻んだ、鉄壁の砦である。


 魔法と魔法のぶつかり合い。


 それらは必ず力で押し合い、狭間で弾ける。そこにはさらに込められた魔力量や属性の相性などが常に付き纏うものなのだが、『消滅魔法』は全てを無に帰す。まるでそこだけ綺麗に切り取られたように、なんの抵抗もなく土壁が突き破られる。当たる瞬間から消滅する、異質極まりない感覚。


 阻んだという感触がないまま、『消滅魔法』が迫る。


 『マッド・シールド』を始め、まだまだ多くの防御結界を展開しているセミテスタだったが、不意に無理だと悟ったのか、その展開を解いた。だが決して勝負を諦めた訳ではない。特異な『消滅』という属性があっても、結局はこれも魔法。であれば、対応して見せる!


 圧倒的に追い込まれたセミテスタが取った行動。


 それは地面に突き刺した杖を払いのけ、()()()『消滅魔法』を受け止めることであった。

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