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41話:戦士の狂宴-Bブロック②

 砂塵が晴れ、闘技場に再び日が射す。


 セミテスタが用意した隠れ蓑は消え去り、太陽の下に引きずり出される形となった。しかし、これでエミットが有利になった訳ではなく、あくまで振出しに戻っただけ。いや一時的にではあるが、守勢に回ったエミットのほうが消耗という点では不利かもしれない。


「さすがエミットだね~、まさか一手でひっくり返されるなんて」

「あら、それも予測済みではなくて?」


 まっさらになった闘技場で軽口が飛び交う。


 そんな軽口を余所に、闘技場ではざわめきが収まらない。エミットが放ったのは、風魔法『ウィン・トルネド』。この魔法は本来相手を直線状に攻撃する魔法だ。出力を上げれば竜巻を模した規模にもできるだろうが、問題はエミットが彼女自身を中心に展開したことである。


 風魔法の扱いは難しい。


 出力を上げるほどその威力は増し、鋭利な刃物で切り付けられたようなかまいたちも生む。精霊に愛された魔術師であっても、不規則な風の流れを制御するのは至難の業。それを窮地で事も無げに行ったのだから、その実力が窺えるというものだ。そしてその技術も踏まえた上で、解説席から聞こえるのはまた別の声。


「先ほどの風魔法の規模……彼女の得意属性は火だと認識していましたが、あの噂はあながち眉唾ではなさそうですね」

「『エミットは()()()()()()()に適性がある』――そんなことが本当なら、全魔術師が嘆いちゃうよ」


 基本五属性の全適性。


 魔術師100人に聞けば100人とも有り得ない、と鼻で嗤うだろう。実際に目の当たりにしても、半信半疑なマキリと懐疑的なギルハートの反応がそれを裏付けている。しかしその有り得ない適性を、エミットは固有スキルによって獲得していた。


 固有スキル:『五芒星(ペンタグラム)』。


 魔術師であれば誰もが羨むスキルであり、スキルの最高峰と言っても過言ではない。ただし、真に注目すべきはそれを使いこなす彼女の力量である。ただ適性が解放されているだけであり、決して最初から上級魔法を全て使えるなどという楽な話ではなかったのだ。


 その身に星を宿し、魔術師の星へと登り詰めたエミット。


 しかし、相対する相手もまた規格外の怪物。まるでお互いの存在に呼応するように、星は光り輝く。ざわめきから興奮へ。そんな彼女達だからこそ、観客のボルテージも底なしに上がっていくのである。


「それじゃ、第二ラウンドといきますか!」

「ええ、何時でも」


 お互いに杖を構え直し、先手を取ろうと動き出す。


 攻撃が早かったのはエミット。選んだのは、速度と速射性に優れる風魔法『ウィンド・カッター』。風魔法は土魔法に対して有効だ。面で受けてしまう土魔法に対し、鋭利な斬り属性が付与された風魔法は絶大な威力を誇る。今は風を身に纏う『シルフ・アーマメント』も使い、機動戦に打って出たようだ。


 ちなみに基本五属性では火は風に強く、風は土に強い。土は雷に強く、雷は水に強い。そして水は火に強い、とぐるりと一周する力関係になっている。魔術師同士の戦いでは、この相性が魔力量と同じぐらい重要になってくるだろう。


「あっぶなっ!?」

「逃がしませんことよ!」


 セミテスタの防御結界を一気に削り、その威力を文字通り刻み付ける。エミットほどの出力であれば、流石にセミテスタでも全て受けきるのは難しい。苦し紛れに『ストーン・エッジ』で応戦するが、エミットが展開する風の流れにより狙いが定まらない。


「もう……エミットがこれでもかって吹き飛ばすから、戻ってくるのに時間かかっちゃったじゃん!」

「何を言って……っ!?」


 一進一退の攻防を繰り広げながら、セミテスタが器用に喚く。


 反応しかけたエミットの言葉を遮った影。それは上空から降り注ぎ、二人の距離を再び引き離す。遥か上空、見上げてギリギリ見える位置にあるのは、岩から切り出されたような無数の欠片。その正体は、土魔法『フロート・バレット』。砂塵に紛れて仕込んでいた、セミテスタの隠し玉である。


「この子は単純な動作しかできないけど、今はエミットが飛ばしてくれたおかげで角度が付いてるからね。これ全部捌けるかな~?」

「まったく……!! 油断も隙も無いとはこのことですわね!」


 土魔法の神髄は、己に有利なフィールドを作り出すこと。相手の魔法をも利用して作り上げた檻が、今エミットに牙を剥くのであった。



 *



 無数の岩の欠片が乱れ飛ぶフィールドで、エミットは駆ける。


 風魔法の恩恵により、近接職さながらの機敏な動きを可能にしているが、今は防戦一方だ。空からの『フロート・バレット』だけでなく、憎いタイミングで飛んでくる『ストーン・エッジ』にも注意が必要だからである。風魔法『ウィン・トルネド』を使おうにも、ここまで落ち着かないと暴発が怖いし、根本的な解決にもならない。


 魔力量だけでなく、体力も削られる持久戦にエミットの顔が歪む。


 『フロート・バレット』は宙に浮かべた岩の欠片を、好きなタイミングで射出できる魔法だ。単純な動作しかできない分、その射出速度は『ストーン・エッジ』をも上回る。属性の不利を利用し、予測から有効手を導き出したセミテスタ。普段のおちゃらけた態度からは想像できないほど、練りに練られた試合運びであった。


 そして彼女自身も勝利を掴むために、勝負に出る。


「『土の息吹』――」


 岩の欠片と踊るエミットの耳に、微かに詠唱が響く。


 ここに来て詠唱ありの魔法、それもすぐ近くで舞う土煙の後ろ。チラリと光る杖の先端を目視したエミットは、予想される射線から脱兎のごとく逃げ出す。身に纏った風の鎧の出力を上げ、多少の被弾も厭わない。その瞬時の判断もあって、危険区域からは逃れた――そう思ったエミットの耳に、詠唱を完成させる詩が届く。


「――『芽吹くは大地の峰』」


 『ストーン・エッジ』()()()()!!! 魔法は節ごとに詩が分かれているが、中には同じ詩から始まるものもある。対人戦において、一流の魔術師がそれを駆け引きに使うこともあるらしいが、決まれば効果は絶大である。


「――『ストーン・ニードル』!!!」


 地面から生み出されるのは、大地の怒りか。


 フル詠唱で生み出された鋭い棘状の突起物が、エミットを遥か上空へと吹き飛ばす。防御結界の上からではあるが、誘導され始めてまともに食らった魔法である。一時的に意識を飛ばすほどの衝撃に見舞われた彼女に、すぐに次の行動に移れる余力はない。そこにさらに襲い掛かるのは、最後まで空に待機していた『フロート・バレット』。


 四方八方から入り乱れ、無抵抗なエミットを刻んでいく。


 あとは星の重力に誘われ、地に落ちるのみ。一瞬にしてボロ雑巾のようになり地に伏したエミット。熱気に沸いていた闘技場の観客も、今は静まり返っている。もはや虫の息に見えたが、それでもセミテスタは油断しない。決して安易に近づこうとはせず、再び生み出した複数の『フロート・バレット』で包囲し、悠然と告げるのだった。


「私の勝ちだよ、エミット」

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