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40話:戦士の狂宴-Bブロック①

 Bブロックの開戦を間近に控え、闘技場に再び熱気が籠り始めている。


 実況のアナウンスが響く中、クシャーナ達は外界とは隔離された一室から闘技場を見守っていた。件の死霊術師一派の襲撃や妨害に備えてのことだったが、当の本人達はどこ吹く風だ。今も間近に控えた一戦に向けて、あれやこれやと他愛もない話を繰り広げていた。


「結局さ、魔術師同士の闘いはどうなるのかな?」

「ああ? なんだよその漠然とした疑問は……」


 クシャーナのとぼけたような質問に、ストリックが噛みつく。そこに絡んできたのは、同じく話を聞いていたヤムとオルゲート。


「でもでも、こういう大きな大会で見たことないし、言いたいことは分かるかも! 近接職は近づいて削り切れたら勝ち、魔術師は近づけずに大技当てれば勝ち、みたいなとこあるし」

「うむ、案外語るには難しいテーマやもしれんぞ」


 長く冒険者の第一線に立ち続けたオルゲートでも、安易に即答できない話のようだ。


「最終的には、魔力量の差じゃないですか?」


 皆が振り返る中、最後に声を上げたのはリュウレイである。


 魔術師の強さ、そこに魔力量は大いに関係がある。まず魔力とは、全生命体が備え持つ一種のエネルギーだ。生命活動を行う身体からは微量な魔力が放出され続けているが、魔力は大気中にも漂っており、自然に取り込まれるため、基本的に何もしなければ枯渇するということはない。


 その魔力を糧に、魔法として打ち出すのが魔術師である。


 魔力量はスキルを磨くことで多少伸びることはあるが、大半は生まれ持ってのもの、つまりは才能と言ってしまえる。そもそも魔術師の適性を得たものは他の冒険者に比べて圧倒的に魔力量は豊富であり、それこそ魔術師の証明とも言えた。


 魔力の大小は身体の強弱や生命力には直接結びつかないものの、スキルの威力や手数には大きく関係してくる。攻防の手段をほぼ魔力に頼っている魔術師からすると、魔力量が一つ大きな指標になるのは当然だった。


「それなら、セミちゃんが最強ってことになるけどね」

「え、なんでー?」


 顎に手を当て呟くクシャーナの言葉に怪訝な顔をするヤム。


 "十拳"に名を連ねるだけあって、セミテスタの魔力量は一般の冒険者よりも多いことは間違いないだろう。だが基本五属性を使いこなすエミットも決して負けていないはずだ。数値化することが難しい要素で何故断言できるのか。


 その疑問は次のクシャーナの一言で衝撃に変わるのだった。


「だって、魔力切れ起こしたことないって言ってたし」



 *



 太陽が真上に位置する時間帯、闘技場の真ん中には魔術師の星が二つ。


「魔術師の頂上が今日決まるのか!? 両者揃い踏みです!!」


 多くの人に囲まれる中であっても、決して光陰ることはないその二星は静かに始まりの時を待っている。今展開される世界の中心にいながらどこか他人事で、しかし舞台の主役であるという自覚は静かに受け止めていた。


「いい仕合しようね」

「頂を目指す戦い、勝たせてもらいますわよ」


 焦りもなく、油断もなく――ただ静かな高揚感が、ゆっくりと湧き上がってくる。短い会話の後、自然と零れた笑みを、人は馴れ合いだと非難するだろうか。ただそんなことはどうでもいい。あるのは、魔術師としての矜持のみ。


「Bブロック、【天変地異(カタストロフ)】エミット=アルグレカvs【緑牢亀(テストゥードー)】セミテスタ=ケアー!!!」


 その矜持を、魔術師としての域を、粋をぶつけられる相手がいること。それは途轍もなく幸せなことだ。


「――――――始めっ!!!」


 だから、彼らは笑みを浮かべ詠うのだ。


「『浮かぶは虚空』――」

「『宙より出でよ』――」


 静かな詠唱が大きな動揺を誘う。


 両者の口から紡がれるのは、大技に分類される三節で構成された魔法。同じ魔術師同士、魔力を削り合う素早い無詠唱戦が行われるという予想があっただけに、闘技場内で息を呑む音が幾重にも重なった。


 さらに問題は魔法のチョイス。


 大技の魔法は大体が広範囲に影響を及ぼすもので、おおよそ対人戦、特に一対一の試合形式において選択されるものではない。そして、フル詠唱された一流魔術師の魔法は、この闘技場一つをまるまる吹き飛ばせるほどの威力を誇る。


「『導き描け空の華――闇に咲き瞬きと共に消えよ』」

「『大地を揺るがす星の瞬き――あまねく包み降り注げ』」


 ド派手なゴングを自ら鳴らすことは、もはや彼らにとって暗黙の了解に等しかったのだろう。魔法に詳しい者の中には、慌てて席を立ち全力で逃げようとするものもいるほどだったが、時すでに遅し。


「――――『ファイヤー・フラワー』!!!!」

「――――『メテオ・レイン』!!!!」


 滾った眼差しと満面の笑みが交錯し、全力で火花が飛び散るのだった。



 *



 ド派手な魔法の打ち合いで始まったBブロック。


 エミットが放った火魔法『ファイヤー・フラワー』、そしてセミテスタの土魔法『メテオ・レイン』。ダンジョン内でも広大なフィールドにおけるボス戦以外、なかなかお目にかかれない範囲魔法である。あわや闘技場は一瞬で廃墟と化すと思われたが、流石に客の安全対策は万全だ。


 そもそも闘技場自体が一種の魔道具のため、闘技者の放つ魔法やスキルが外部に漏れることはない。外から内も同様であり、あくまで決着は当事者たちにのみ委ねられているのだ。おまけに教会のシスター達による多重結界もあるため、安全性は高く確保されていた。


 両者の魔法は術師の手元から斜め上空に打ち上げられ、頂点に達する正にその瞬間に接触。本来はそれぞれ上空に打ちあがった後、地面に降り注ぐ軌道の魔法だったのだが、闘技場という限られたスペースでは止むを得ないことであった。


 広範囲にばら撒かれる前に衝突した魔法。


 それらが引き起こしたのは、闘技場を覆い隠す大量の砂塵。どういう技術か、闘技場内の大型モニターには、砂塵の中に隠れてしまった両者の姿が変わらず映されており、その動向を追っている。お互い防御結界を張っての様子見のようだが、先の魔法の威力のせいか、なかなか砂塵が引く様子はない。


「あっとぉ!? 次に仕掛けたのはセミテスタ選手か!」


 戦況を窺っていた実況のサミュが反応する。


 未だ砂塵が視界を覆う中、新たな攻防はすでに始まっていたようだ。セミテスタの十八番である『ストーン・エッジ』が次々に防御結界に突き立ち、エミットの魔力を削る。対するエミットも反撃の魔法を返すが、まるで手ごたえが無い。


「どうやらセミテスタのほうが主導権を握っているようですね」

「うむ……もしかしたら、最初から狙ってたやもしれんなぁ」


 解説のマキリの呟きに、クリストのぼやくような声が重なる。


「狙っていたとは、この状況がでしょうか!?」

「たぶん、最初の大技の打ち合いからだね……。土魔法が他の基本属性と明確に異なる点は、()()()()()()()()だということ。敢えて砂塵を巻き起こし、自分が優位なフィールドを作り出したんだと思う」


 大技の相殺による、副産物と思われた砂塵の発生。


 それが狙って発生させたものだとしたら、話は変わってくる。魔術師の索敵方法としては、土魔法『グランド・エコー』が一般的だ。大地を伝わる振動で索敵する魔法だが、今現在も大技の余波で大小の石礫が空から降り注いでいる。闘技場という限られたフィールド内ではあるが、おおよそ正確な索敵は難しい環境なのは間違いないだろう。


 だが土魔法を極めた魔術師であれば、決して不可能ではない。


 後はヒットアンドアウェイ、素早く攻撃、移動を繰り返す。魔力量に自信のあるセミテスタだからこそできる、堅実な勝ち筋と言えた。対するエミットだが、この環境を変えなければいつまでもジリ貧である。だが、下手な大技で空ぶれば魔力消費的にも痛い。視界を封じられた後手の状況、彼女は今試されていた。


「このまま終わる訳はないだろうけど……」


 解説席から歯噛みするような声が漏れる。


 同じ魔術師であるギルハートだからこそ、今の状況の難しさを理解しているのだろう。最も彼らはいずれも一流の冒険者であり闘技者だ。持っている手札だけでなく、その機転によって多くの窮地を脱してきた。それを正に示すべく、厳かな詠唱が響く――。


「『精霊の導き――逆巻く螺旋となれ』」


 ある一点を中心に、急激に空気が引き寄せられる。


「――『ウィン・トルネド』!!」


 エミットが選択したのは、風魔法『ウィン・トルネド』。


 セミテスタの追撃も見舞われるが、分厚い風がそれを通さない。自身を中心に生み出した風の脅威は攻防一体の砦となり、瞬く間に闘技場を再び大空の元に曝け出させるのだった。

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