36話:十拳会議②
混成魔法、またの呼び名をミックスマジック。
その響きを聞いて、ギルハートはようやく自身が呼ばれた意味を理解した。
混成魔法とは文字通り、異なる属性の魔法を混成させた魔法である。目下の脅威のうちの一人、神器:【恵みの宝杖アダムツリー】を操る死人、イルル=ポッカロが多用していたものだ。魔術師にとっても扱いが難しいそれは、専門外であれば馴染みが薄いのも仕方ないことであった。
「はいはーい。それって普通の魔法と何が違うのー?」
先ほどまで退屈そうにしていた少女から、元気な声があがる。
序列9位:【舞踊姫】ヤム=ソーアである。リュウレイとの死闘から爆睡していた彼女は、今ではすっかり回復して持ち前の明るさを振りまいていた。いい質問よ、とエミットは微笑み、ギルハートへと視線を向けた。
「それを説明するのに彼女を呼んだのよ。お願いできるかしら?」
「え、あ、うん。いやでも……」
「はいはーい。なんでギルハートなのー?」
「それはもちろん……あ゛」
したり顔だったエミットの動きが固まる。
ギルハートは自分が呼ばれた理由が、混成魔法の説明のためだと分かっている。エミットも当然そのつもりで呼んだのだろうが、ここで一つ問題がある。その説明をするには、ギルハートの特殊な戦闘スタイルを理解してもらう必要があり、それは彼女の手の内をばらすのも同然だったからだ。
今更その考えに至り、エミットが分かりやすく狼狽える。
「そ、それは……彼女が貴族の名門、ノーブル家だからよっ!」
「ノーブル家って代々騎士の家系じゃなかったっけ?」
「ギルハートも普通に騎士だしね~、なんかそういうのに詳しかったりするの?」
「ま、まあそんなところかな……」
なんとか相槌を打ちながら、誤魔化し続ける。
チラリと目をやると、そこには非常に申し訳なさそうにするエミットの姿。自身の戦闘スタイルの絡繰りに気づいたのがエミットであり、それを機に交流が生まれ、今では親友と呼べる関係にまでになった。二人にとっては当たり前の話だったので、つい油断してしまったのだろう。
このまま説明しても問題はないだろうが、説得力には欠けてしまう。
「あー……この際いいか」
「ギルハート!?」
「いいよ、"十拳"落ちを機に自分を見つめ直す時期にも来てたと思うしね」
少し長い間を置いて、ギルハートは気持ちの整理を付けた。
驚くエミットを手で制し、改めて全体に向き直って話を進める。面と向かって話したのがエミットなだけであって、実力者であればその絡繰りに気付いていてもおかしくない。事実、おそらく観戦しただけの教皇には筒抜けだったのだ。
仮に話したからと言って、それで通用しなくなるものでもない。
それに相手は未知の強敵。自分が役に立つことがあるのであれば、協力することに迷いはなかった。席を立ち少し机から離れた位置で、おもむろに手のひらを前に突き出す。するとその前で火花が散り、次の瞬間には彼女のトレードマーク、黒槍が出現しているのであった。
「なんで私か、それは私が混成魔法の使い手だからだよ」
*
特異な二属性魔法、それが混成魔法。
手品の種明かしをしている気分で、少し気恥ずかしさも覚えるギルハートであったが、それは新鮮な驚きと興奮で迎えられた。特にセミテスタとヤムの食いつきは凄まじく、猛然と近づいてきて黒槍やギルハートの手をペチペチと触り出す。
「なにそれ!? 魔法で作ったの!?」
「え、すごい! 自由に出し入れできるってこと!?」
「できるよー。これは実用性皆無だけど、ランス二槍流とかもできちゃう」
「「かっこいい!!!」」
両手に黒槍を構えるギルハートに拍手喝采。
子供のようにはしゃぎまくる二人に釣られ、エミットも笑ってしまう。ふと目が合ったギルハートには、軽くウィンクまでされてしまった。気にしてないよ、と気を使われたみたいで、分かっていても気にしてしまう。後でちゃんと謝ろう、そう決めたエミットは進行を優先し声を張る。
「はいはい、いつまでも遊んでないで話を」
「ごめんごめん、あんまり反応良かったからついね。私の混成魔法は、火魔法と土魔法をミックスした、製鉄魔法だよ」
「おー……」
曰く、混成魔法に正解はない。
古より伝わる各種属性魔法は、詠唱が存在しそれが導き出すものが正解と言える。だが混成魔法に詠唱は存在しない。大事なのは目指す先の具体的なイメージ、個人のセンス、そしてある種の狂気。正解のないものに解を当てはめる作業は、時には不毛に感じられるほど多大な時間を浪費する。
「出し入れ自由ってメリットはあるけど、正直単純な戦闘力ならいい武器を買ったほうがずっと楽だからね。私がこれに拘ったのが、騎士の家系に生まれた魔術師だったから」
聞けば、幼い頃の夢は騎士になることだったそうだ。
代々騎士を輩出していた家系であるノーブル家では、誰もがギルハートも騎士になるものと思っていた。本人も強い憧れを胸に、兄弟に交じって稽古に打ち込んでいたそうだ。だが神託の日、彼女は魔術師の才能を見出され、必然的に騎士としてのレールからははっきりと外れてしまったのだ。
その結果生まれたのが、槍と鎧を生み出し戦う魔法騎士。
「……とまあ、私の自分語りはこの辺にして、つまりは個々人で種類も形態も異なる魔法ってことになるね」
「それなんだけど、イルルって子は複数の属性を組み合わせて、全然系統の違う魔法をいくつも操ってたんだよね。これはどう思う?」
ギルハートの話を聞く限り、おいそれとポンポンと生み出せる魔法ではない。
しかしまるで無数の引き出しを試すかのように、イルルは魔法を繰り出していた。地雷魔法、閃光魔法、錬成魔法……と多才であり、おそらく結界も含めるとさらに種類は増えると見られていた。クシャーナからの問いかけに、首を振りながら答える。
「あくまで私の感覚なんだけど……正直、常人で数種類の混成魔法を覚える、ましてや使いこなすのは無理だと思う。それこそ死人所縁の特性か、もしくは神器の恩恵じゃないかな?」
「そっかー。確かにかなりでたらめだったもんね。あまり細かい効果とか制限を気にするような相手じゃないのかも」
「教会の調査待ちか~」
結局は空振り、何も分かっていないのと一緒。
ごめんね、と申し訳なさそうにするギルハート。しかし、対策を練る上で現状把握は必須。使い手が希少なだけに、生の声は決して無視できない。その後も実際に使用された混成魔法を紐解き、対策を練る会議が続くのだった。




