32話:市街遭遇戦②
戦闘が始まってクシャーナ達の行動は早かった。
「合わせてね、行くよ――『アクア・ランス』」
「お安い御用ですわ! 『ブリッツ・ブリンク』!!」
「ほいきた~、『ストーン・エッジ』!」
直線状に放たれる、3種の属性魔法。
冒険者はそれぞれ得意属性が異なり、扱える魔法にも影響する。クシャーナの得意属性は『水』。お気に入りの呪具の一つである、呪剣『トリステスアイル』が司るのもまた水。さらには呪具『チェインルートの指輪』で増幅された一撃は、それだけで魔術師の魔法に匹敵する。
そして、本家本元の魔術師である二人の反応も慣れたものだ。
エミットの得意属性は『火』。ただ水魔法を扱うクシャーナとの相性は悪く、瞬時にそれを見極めて雷魔法に切り替えていた。また彼女の持つ魔杖と固有スキルにより、得意属性以外も同等の威力が保証されたそれは、クシャーナの魔法と合わさり更なる破壊力を生み出す。
最後はセミテスタの土魔法。
土魔法は比較的防御主体のスキル構成であり、速度や威力においては他属性には劣る。だが『ストーン・エッジ』は込める魔力量によって大きさが変わるほか、岩の大きさと射出速度にも魔力の振り分けが可能なピーキーな一面も併せ持つ。もっともそれを使いこなせるのは、セミテスタのような土魔法を突き詰めた一極型の魔術師ぐらいであった。
三つの角度からほぼ同時に着弾する魔法。
無詠唱とはいえそれぞれ必殺級の威力を誇る魔法は、例え防御に優れた魔術師であっても容易に受けきれるものではない。それ故に回避や反撃を見越していたクシャーナ達ではあったが、敵が動いた気配はない。不穏な空気が漂う中、第二射を躊躇うクシャーナ達の耳に愉快気な声が届く。
「なんや、さすがに強いなぁ。まあそれで私の防御が破れる訳でもないけどな」
「イルル見栄っ張り」
そこには全てを受けきったイルル達の姿があった。
「これは……少なからずショックですわね」
「うーん、結界張り直した感じもしなかったしなぁ」
「え、それってけっこうやばくない?」
口々に率直な感想を漏らす。
セミテスタの見立てが正しければ、イルルの実力はエミット達をも凌ぐ可能性がある。仮にセミテスタが同じ状況で受けに回れば、彼女でも防ぐことはできただろう。だが一度の結界で全てを防ぐことは不可能で、複数回張り直す必要があったはず。
必然的に示された差に、次の一手に迷う面々。
「あれ、なんやもしかしてびびってもうた? ぼーっとしてたら、ほれ危ないで?」
「足元……っ!?」
反射的に回避。
各自の足元が光る中、クシャーナ達3人がそれぞれ地面を蹴る。その直後には爆音が響き、地面が小さな噴火を起こしたような衝撃をまき散らす。
「地雷魔法――『フレイム・マイン』。初見なのに動きええなぁ」
「それはイルルが教えるからでしょ」
上機嫌なイルルにぶーたれるミーコ。
高い防御力に、既存の枠に収まらない特殊な魔法。明らかに異質、そして強敵。瞬時にその認識を共有した3人は様子見から切り替え、相手を討つ行動に移る。出し惜しみをしない全力、その先陣を切ったのはギアをトップスピードに上げたクシャーナだった。
「ちょっま!? ま、待ってや!!」
「ぷぷ、イルル慌ててる」
呪具『チェインルートの指輪』の効果を『反転』。
魔法の威力を犠牲にスピードを底上げしたクシャーナによる、近距離での連撃。依然イルルの周りは強固な結界に守られているが、対魔法への抵抗力に比べるとその効果も落ちるようだ。ひび割れると同時に瞬時に張り直されるが、それはイルルの魔力を削っていることの証。
宙に浮いたままの長杖が、イルルの後退に伴いそれに付いていく。
傍観するミーコの狙いは読めないが、これ幸いとイルルに狙いを定める。地雷魔法で足止めを狙うが、クシャーナの足捌きに淀みはない。さらに後ろからはエミットとセミテスタによる援護射撃が途切れない。攻めに出られないイルルが溜まらず悲鳴を上げる。
「おい、ミーコ! いい加減さぼらず働けやっ!」
「なんだ、一人でやりたいのかと思った」
そんな相変わらずのやり取りを交わし、ようやくミーコも動く。
彼女の向かう先は、後方から援護射撃を行うエミット達。イルルに詰めていける状況を、可能な限り維持したい。そんな思惑をアイコンタクトで察すると、セミテスタの杖のみがミーコに向けられる。ローブをはためかせ滑るように距離を詰めるミーコに、そのまま最短距離で魔法を射出。
「当たったら痛いよ~」
「うん、当たったら……ね」
放たれたのは、威力はほどほどに射出速度を高めた『ストーン・エッジ』。先に見せた魔法をも囮にした、トリックアタック。実力者ほどその速度差が違和感となり、目測を合わせるのが難しくなる一撃だ。相手の実力を加味した上での戦術だったが、ミーコの脚は全く止まらない。
その魔法はミーコの持つ鏡に吸い込まれ、次の瞬間には向きを変えた。
「まさか反射……!? エミット避けて!!」
「え……きゃっ!?」
イルルの追撃に集中していたエミットへの不意打ち。
反射された魔法はエミットの結界に弾かれ不発に終わる。それでもバランスを崩したことで砲撃の手が止み、ミーコの狙いは達成されたようだ。魔術師の天敵足りえる、反射能力。効果範囲や許容限界はどれほどか。一瞬の逡巡の内、セミテスタ達は各自散りながらミーコへの攻撃を再開する。
「むう、もっと迷うと思ったのに」
「どこかで試さないといけないなら早いほうがいいでしょ!」
一度に反射されないよう、対角線へ。
エミットとセミテスタの連携はそつがなく、対応速度としても申し分ないレベルだった。それでもイルルと同じく、ミーコも一筋縄派ではいかない。戦闘に不慣れそうな見た目とは裏腹にその動きは軽快で、反射と回避を上手く使い分け立ち回る。
「1対1ならぁあ!!」
「うわっと」
ミーコが二人を引き付けたことで、もう一つの戦場も動きが変わる。
近距離の剣戟でイルルを追い込んでいたクシャーナに対し、イルルは結界を変更することで対応する。カキンと硬質なもの同士がぶつかった音が響き、クシャーナの腕が後ろまで弾かれる。その隙を付くのは、対象を狙い撃つ漆黒の杭。
「狙い撃ちや! ――『トワイライト・スピア』!」
「うわっ、闇魔法も使うの?」
冒険者にはそれぞれ得意属性があるが、魔術師はさらに顕著だ。
基本五属性は火、水、風、雷、土。それに特殊枠として光と闇の二属性が加えられる。基本五属性のどれかに適性があれば、他の四属性もある程度は扱える。だが光か闇に適性がある場合は、ほぼ基本五属性への適性は皆無だ。そんな常識を真っ向から否定する存在。
イルルの咆哮に合わせて、クシャーナの頭上に浮かび放たれる闇魔法。
闇属性に適性を持つ者が操る闇魔法は、敵をピンポイントで狙い撃つ特性を持つものが多い。他の属性と比べると広範囲の大技は少ない分、多種多様な効果を以て各個撃破するのに向いているのだ。避けられづらい特性を持つ『トワイライト・スピア』は、対象の頭上に付いて回る、一種のホーミングスキルだ。
小回りの利く相手には打ってつけであり、クシャーナも防御を余儀なくされる。
「一息付ければ――そこドボンやっ」
「おっと、それはまずい」
土が盛り上がり、再び火を噴く地雷魔法。
上下のコンビネーションでクシャーナを引きはがしたイルルは、ミーコに合流。対するクシャーナ達も揃い、再び二対三で睨み合う構図に戻る。ある程度手の内は引き出したとはいえ、逆に今度はそれが行動範囲を狭めていく。
「あんまり時間かけたくないんだけどなぁ」
「人数で勝っててこれは癪だけど、長引きそうだね~」
「私の代わりに近接職がいたほうがよかったかもしれないですわ」
これは決まった舞台で示し合わされた決闘ではない。
あくまで突発的に生じた戦闘であり、守るものが多いクシャーナ達にとってはどうしてもやりづらさがある。それを見通してのことか、イルル達にはまだ余裕があるようにも見える。冒険者のトップ"十拳"の3人を相手にしても全く怯まない強敵。
さらなる激戦が予想される中、それは一人の乱入者により唐突に終結へと向かう。
「なんだなんだ、あたし抜きで随分楽しそうなことやってんなぁ」
愉快そうな声を上げて駆けつけた人物。冒険者序列2位、【灰掛梟】ストリック=ウラレンシスは獲物を前に舌なめずりするのであった。




