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3話:瑠璃色蝶は蒼い夢を見る①

 曰く付きの魔道具、呪具を探し求める影が一つ。


「ふふっ、次はどんな呪具に出会えるかなー」


 恍惚とした表情で呟く、"十拳"の一人、冒険者のトップに君臨するクシャーナである。彼女の強さにはその呪具が大きく関わっているのだが、つまるところ彼女は「呪具コレクター(糞装備マニア)」なのだった。


「なぁ、今まで聞いてこなかったが、なんでそんなガラクタ集めてるんだ?」

「わぉ、ストリックそれ地雷じゃない……?」


 クシャーナに付いてきていたストリックがおもむろに尋ねる。


 その横ではセミテスタがおっかなびっくりな表情を作っていたが、当のクシャーナは怒る素振りも見せなかった。むしろ関心を持ってもらえたと思ったのか、嬉々として話し出す。


「ガラクタとは失礼な。そんなだから万年2位なんだよ?」

「よし、お前表出ろ」

「も~~……すぐ喧嘩腰にならないの!」


 ナチュラルに煽るクシャーナと喧嘩っ早いストリックの会話に、セミテスタが割って入る。これが彼女達のいつもの光景であった。


「で、でも私も興味あるかな~……」

「お、セミちゃんもいい喰いつきだね。アメ食べる?」

「食べる~~♪」

「どっから取り出したお前……」


 どこからともなく取り出されたアメを頬張り、ご満悦なセミテスタ。


 ストリックはやや引いていたが、クシャーナはどうも捉えようのない性格をしており、それが彼女の魅力でもあった。冒険者として順調に成りあがってきたストリックがぶち当たった大きな壁。それが天然糞装備マニアともなれば、どうにも突っかからずにはいられなかった。


「そうだなー、どっから話すべきか…………私、()()だったんだよね」

「うぇ!?」「はぁ!?」


 クシャーナの言葉に衝撃を受ける二人。


 だがそれはほんの序の口で、語られたクシャーナの半生はおおよそ普通とはかけ離れていた。



 *



 この世界では、どんな小さな村でもある習慣が根付いている。


 それは世界のルールとも呼べるようなシステム「職業適性診断」。子供達は10歳になると教会で神託を受け、そこで適性の合った職業を知り、15歳までは見習いとして学習していく。


 剣士や戦士など有用な才能を見出されれば、その後冒険者となり世界に羽ばたく。


 だが冒険者に向かない才能を掲示されたものの選択肢は、限りあるものしか残されていなかった。農夫や商人として村や街で従事することはむしろ幸運で、古い村の慣習などでは安い労働力として、人買いに売られることもあった。


 これがクシャーナが奴隷に身を落とした経緯。


 ここまではなくもない話だが、クシャーナの悲劇はそこで終わらなかった。人買いからさらに売られた先、それは怪しげな教団であり、呪具を収集、研究する組織だった。


 クシャーナに求められた役割は、呪具の()()()


 呪具は身に付けるまで、その呪いの効果は分からない。その見極めのための生贄にされたのだ。感覚を破壊され、自傷を引き起こし、光を奪われ、クシャーナの精神は摩耗していった。多くの奴隷を使い捨てにしてきた教団は、クシャーナを一つの駒としか扱わなかった。


 劣悪な環境で、来る日も来る日も人体実験を受けた。


 他の駒と同じく、やがて擦り切れ廃人となる一歩手前で、彼女は奇跡的に覚醒した。後天的に才能が開花し、彼女だけの「固有スキル」を身に付けたのである。それにより呪具の力を制御したクシャーナは教団を滅ぼし、大空の下へと帰還したのだった。



 *



「…………ってな感じ」

「いやいやいやいや、重いわっ!!!」

「うう……聞いてごめんなさい」


 あっけらかんと話すクシャーナに、ストリックが突っ込む。


 セミテスタは涙目で俯いてしまったが、当のクシャーナはまるで気にしてないとばかりに、朗らかに笑った。聞けば彼女が身に付けている装備品もほぼ呪具であり、その固有スキルによって制御されているとのことだった。


 固有スキル:『呪物操作(カースマジック)


 その効果は、呪具効果の『鑑定』『無効』『反転』『付与』。


「『無効』ってことは、デメリットだけ打ち消せるってことか?」

「違う違う、そんないいものじゃないよ。『無効』は()()()の打ち消し。だからただの装飾品だね」


 クシャーナに訂正され、顔をしかめるストリック。


 クシャーナの強さの一端を見たと思ったが、どうやらそこまで都合のいいものではないらしい。呪具のメリットデメリットは表裏一体であり、どちらかを打ち消したり取り出せるものではないようだ。


「えっと、それなら呪具のデメリットはどうやって抑えてるの?」

「んー? 別に抑えてないよ」

「「え゛」」


 セミテスタの問いにあっさりと答えるクシャーナ。


 固まる二人を置いて、クシャーナは饒舌に語り出す。聞けば奴隷時代にクシャーナの正常な感覚や視力は奪われており、そういった状態異常系のデメリットは一切効果がないらしい。また強力な能力と引き換えに人格を蝕まれる指輪や、着けたが最後取り外せなくなるドレスなんかも、彼女的には問題ないらしい。


「あ、清潔面は気を付けてるよ。ほら水魔法使えるし」

「あのなぁ……」

「やっぱりクシャーナって規格外だね……」


 慌てて取り繕うクシャーナの言葉に、ただ二人は嘆息するしかなかった。


 必要であれば『無効』で取り外せると言っていたが、彼女の出で立ちはいつも変わらない。特殊な生い立ちと性格面でデメリットを打ち消し、糞装備マニアと化した存在。



「これは……墓場まで持ってくしかねぇなぁ」

「同感」


 冒険者トップの威厳を守るため、二人は揃って口を噤むのだった。

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