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29話:戦士の狂宴-Dブロック1回戦③

 闘技場のボルテージが上がる。


 一時不穏な動きを見せたDブロック1回戦、リュウレイvsヤムの一戦は佳境に差し掛かっていた。再始動をしたヤムの動きに淀みはない。今は鉄壁の領域を展開するリュウレイを相手に、華麗な舞を披露している。彼を中心に360度、止まることのない舞の連撃は確実にその範囲を狭めていっていた。


(剣の軌道は追えている……だが……)


 あくまで迎撃に徹するリュウレイは、冷静に分析を行う。


 初めてヤムと戦った時も感じたことだが、彼女の剣は独特だ。連撃を得意とする両者だが、その本質は大きく異なる。リュウレイの場合は、最適化された一つの剣の動作をひたすら繰り返して圧倒する、一種の数の暴力である。


 単純動作を上手く水属性の流派に落とし込み、最速の連撃を生み出していた。


 一方、ヤムのほうはダンスがベースであり、無形と呼べるほど決まった形が存在しない。相手に合わせ、状況に合わせ、なんなら気分に任せ、彼女はその時だけの舞を踊る。それは剣の軌跡にも現れ、相手の剣を掻い潜る様に振られるそれは、一本の線で紡がれる曲線を描いていた。


 これはリュウレイの追い求める理想とは、真逆である。


 剣の道を突き進めると、その軌道は至極単純な一本線、つまるところ綺麗な直線になる。斬る、という単純な作業をいかに速く鋭く正確に行えるか。その必殺の一撃さえあれば、鞘から剣を抜くのも一度だけでいい。


 その極致を、リュウレイは()()()()()()()()()


 一切の無駄のない、剣の極意。斬るという行為そのもの。リュウレイ最速の抜刀術『波紋・飛水の太刀』も、その極致を目指した末に編み出した、彼の中の一つの到達点。それを防ぎ対応されること自体、リュウレイにとっては不本意であり、ヤムの実力の高さを示すものでもあった。


 だからこそ、リュウレイはヤムとの再戦に心を震わせた。


 下から這い上がり、必ず至高に再び相まみえる。剣の道に生きるリュウレイの覚悟は、一時ヤムの心を揺さぶったが、彼女にも彼女なりの信念がある。孤高の道を行く剣士と、音を愛する踊り子。本来交わることのない二人は、今闘技場という大舞台で死力を尽くしている。


 観客の声援や熱気が、まるで音楽のように降り注ぐ。


 リュウレイにとっては無駄にも思える、魅せる振りや大振りな軌道。だがその間に剣戟を差し込む隙が見られないほど、ヤムは乗っていた。ヤムの固有スキル:『心躍舞踏(ハートリズム)』もその後押しの要因の一つであるが、自分だけの武器を持っているのは彼女だけではない。


 固有スキル:『剣流線(ソードライン)』。


 ヤムと同じく、先天的に獲得していたリュウレイだけの才能である。本来固有スキルを持つ冒険者は、全体数で見ればほんの一握りだ。だが冒険者のトップを張る者達が集まったのであれば、自ずと固まってくるのは当然と言えた。


 それは剣士であれば、誰もが羨む才能。


 その効果は『視覚的、体感的に剣の軌道を読み、理解する』というもの。ヤムにとっての音が、リュウレイにとっては剣だっただけの話だ。持って生まれた才能(ギフト)と剣を愛する心が、彼を険しい剣の道へと誘った。


 努力と成長失くしては、開花しないスキル。


 世界に力を示し始めた少年は、今新たな剣との出会いに感謝し、その腕を振るう。『剣流線』により理解し、最適解を当てはめる。時間をかければかけるほど、彼の中で解析は進み有利になる。だが常に変化するヤムの舞に、いつまでも答えが出てこない。


 今までに感じたことのない感覚。


 ヤムの舞が、彼女の持つ剣の切っ先がもう目の前に迫ろうとしている。リュウレイの剣技の速度は依然衰えていない。それどころか、ヤムに釣られてその鋭さは増しつつある。その事実に、リュウレイの心に波紋が拡がる。


 彼の理想の剣技は、何時如何なる状況でも変わらない、必殺の太刀。


 今感じているブレこそが、未熟の証。そう自戒するリュウレイだが、その顔には薄ら笑みも浮かんでいた。湖には波紋がいくつも拡がり、彼の常とは程遠い。それでも、今はこの熱をただ感じていたい。


 剣の道の頂、それは間違いなく孤高なものだ。


 誰にも理解されず、されてはいけない、唯一無二の剣。それを目指すと決めた時に、こんな感情は捨てたはずなのに。


「『波紋・飛水の太刀』――――『百波(もなみ)』!!!!」


 息を止め、一呼吸の間に百を超える斬撃を放つ派生業。


 陸に打ち付け崖を削る波。そんな荒々しさを一点で開放する、攻撃に振り切ったある種の捨て身業である。敵対者を真正面から跡形もなく消し飛ばす威力を持ったそれは、確実にヤムを呑み込んだ。だがその急流の中でさえ、少女は笑っていた。


「――――抜けたっ!!!!」


 サミュに変わり吠えたのはマキリ。


 特異な眼を持つ彼は、今度こそその軌跡を見逃さなかった。体全身を使ったステップと、激流を捌き切るリズムと天性のバネにより、少女は死地から帰還した。全身に裂傷を刻まれながらも、致命傷は辛うじて避けた彼女は、最後の一撃に掛ける。


 全てを決めるつもりで打った一撃、いや百撃だ。


 達人同士の仕合では致命的な硬直から立ち直り、再起するリュウレイ。水平に振り切られるヤムの斬撃から逃れようと体を引くが、もう遅い。確実にその細い首に刃が付き立つ、そう幻視した瞬間は結局訪れなかった。


 一時の間が空き、両者が体を預け合う。


 そして、前から崩れ落ちてきた体を支え、どこか他人事のように勝敗を決する宣言を聞くのであった。



「Dブロック1回戦、勝者――リュウレイ=イサヤ!!!!」

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