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27話:戦士の狂宴-Dブロック1回戦①

 クシャーナ達が各自戻った頃、実況席からアナウンスが響く。


「大変お待たせしました! 本日の第二仕合、Dブロック1回戦に移ります!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 裏の揉め事などまるで関係ないとばかりに、歓声が飛び交う。


 次に行われる仕合はAブロックと同じく1回戦が組まれた、Dブロックのリュウレイvsヤム戦である。入れ替え戦から瞬く間に3位に駆け上がったリュウレイを推す声は多く、大してヤムの評価はここ最近の戦績を見ても落ち込んでいる。


 すでに両者の姿は舞台の上にあり、リュウレイは爽やかに観客席に手を振っている。対するヤムの表情は固い。


「リュウレイ様ー! 今日も鮮やかな美技を見せてー!」

「応援してるよ、ヤムー! 雪辱を果たしてくれー!!」


 異性人気の高い二人のマッチアップなだけあり、黄色い声援が多い。


 普段はヤムもにこやかな笑顔を振りまいているが、現在の冒険者序列は9位。崖っぷちの立場を理解しているのか、気持ちは既に目の前の仕合にしか入っていないようだった。そんな様子を見たリュウレイは、少し思案したのち、ヤムに近づき手を伸ばした。


「あなたとの再戦、楽しみにしていました。いい仕合にしましょう」

「……ごめんね、今は余裕ないから」


 短い捨て台詞とともに背を向けたヤム。


 普段の彼女には見られない光景に、観客席からどよめきが起こる。熱心なリュウレイ推しの観客からはブーイングも漏れたが、戦う姿勢を見せたヤムに雑音はもはや入らない。その様子をまじまじと見たサミュは、少し小声になりながらも実況を全うする。


「――ここにきて強い気持ちが表れているヤム選手、どう見られますか?」

「私はいい傾向だと思いますね」

「うん、私もそう思う」


 マキリとギルハートが揃って肯定。


「ほっほ、今更ヤムの実力を疑う者は誰もおらん。それでもあえて"十拳"上位に食い込めなかった要因を考えるのであれば、それは勝利への"飢え"じゃろうて」

「な、なるほど? なにやら興味深い話が出てまいりました!」


 ボルテージが高まる闘技場で、愉快気なクリストが静かに続ける。


 曰く、ヤムに足りないのは勝利に対する執念や執着。腕がもげようが相手の首を必ず盗るほどの気迫を見せるストリックと比べると、確かにその点ではヤムの見切りは早かった。壁にぶつかった彼女は、今殻を破ろうともがいている。


 サミュが声を張り上げ、仕合の進行に移る。


「ならばもはや言葉は不要! 本日二戦目に入りましょう!!」


 闘技場が一瞬の静寂に包まれる中、口上が響く。


「【戦士の狂宴】Dブロック1回戦! 【五月雨式(ソードレイン)】リュウレイ=イサヤvs【舞踊姫(マイヒメ)】ヤム=ソーア!」


 すでに二人の剣士は距離を取り、準備万端とばかりにスラリと剣を構えた。


 刀を腰だめに構えたリュウレイの姿勢がさらに前傾姿勢となる。刃は鞘に収まったままであり、抜刀術による迎撃態勢を取っている。対するヤムは自身の得物であるククリナイフを両手に持ち、その場でトントンッと軽く跳ねる。


「――――――始めっ!!!」


 仕合開始の合図とともに、再び観客席からの大きな声が波動となり拡がる。


 先に仕掛けたのはヤム。


 飛び跳ねるような独特の足さばきで、リュウレイの間合いを探る。相手を惑わすその軌跡は、決して直線的ではなく的を絞らせない。幻影と踊ったが最後、瞬く間に勝負を決められてしまう、魔性の舞だった。


「ヤム選手の十八番『ファントム・ステップ』が早くも飛び出しました! 基本にして奥義! 天性の踊り子である彼女を止めるのは、一流の剣士にとっても至難の業です!!」

「流石に仕掛けが早い! これは受け間違えると即詰みですよ」


 サミュの実況に、即座にマキリが反応して返す。


 ヤムと対戦した多くの冒険者は、()()()()()()()()()()。彼女に一撃の強さはないが、天性のリズム感としなやかな体躯、芯の強さが独特な角度からの多段攻撃を可能にしていた。


 耐え抜いて一撃にかけるか、乗らせる前にきめるか。


 多くは勝つために、相手の長所を封じる戦略を立ててきた。だが受けるリュウレイにとって、目の前の一戦への勝ちの拘りはない。全ては高みへ至るために――。武者修行を終え、世界に実力を示し始めた彼の前に立ちはだかった、剣の高み。


『下から這い上がってこい、その時は再戦を受けよう』


 誰にも語られない剣士達の一戦は、彼の心に大きな波紋をもたらした。


「――『明鏡止水』」


 リュウレイの心の中には、波風も立たない静かな湖がある。人知を超えた鍛錬の末に得たもの。スキルとしては表せない、『業』に昇華された一種の精神領域。そこに侵入するものがいるのであれば、たちまち波紋が生じ、相手の居場所を明確に示すのだ。


「……くっ!!?」

「あああっとぉおおおお!?」


 誰の目にも追いきれなかったヤムが、弾かれるように飛ばされる。


「――『波紋・飛水の太刀』」


 遅れて微かに聞こえたスキルの名が、剣技の鋭さを示す。


 実況のサミュが驚き身を乗り出すが、一連の攻防をその眼に捉えられたものは一握りしかいなかっただろう。解説席に座るマキリはその眼を見開き、レベルの高さに思わず息を呑む。


「……彼の特徴は一向に途切れることのない、雨のような攻めの剣技かと思っていました。ただそれも一端に過ぎなかったようですね」

「悔しいけど……この域に達した剣士なんて、早々いないよ」


 高みを目指した、手をかけたものにしか分からない領域。


 マキリに釣られて、ギルハートも歯がゆそうに言葉を零す。一線を退いたクリストは言葉には出さず、髭の先をなぞり興味深そうな視線を残した。


「ちっ……あいつ、ヤムの舞をピンポイントで止めやがった」

「おー、これは間違いなく強敵だね」


 業の精度、完成度に息を呑んだのはこちらも同じ。


 関係者席から見下ろすストリックが、盛大に舌打ちをかます。直に対戦してその業を体感したエミット、セミテスタが黙る中、クシャーナが呑気な声を上げる。彼らにとっても、ヤムの舞を正面から止めるのは至難の業だ。


 一撃のもとに、ヤムのリズムを断ち切ったリュウレイ。


 そんな彼は周囲のざわめきを余所に、静かに息を吐いた。


「我儘を言って正解でした。あなたとの再戦は間違いなく、高みへと続く道のさなかにあった。だから――最後まで死合いましょう」

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