25話:戦士の狂宴-閑話①
1回戦から凄まじい仕合が展開された【戦士の狂宴】。
闘技場中央に浮かぶスクリーンには、今回の勝敗結果が表示されていた。
Aブロック1回戦:〇 オルゲート=フュリアス vs ハクマ=シダン ×
闘技者が去った今も闘技場には歓声が鳴りやまず、最高峰の仕合を見せてくれた両者を称え合う光景が拡がっていた。熱気に当てられた人々は口々に周りと感想を共有している。実況のサミュもしばし放心状態であったが、己の役割を思い出し慌てて1回戦の振り返りに入る。
「――さて、今回はこのような結果となりましたが、御三方はどう見ましたか?」
横の解説席に座る内、高ぶりを隠せない二人をおいて、クリストが上機嫌な声で応える。
「ほっほ、実にハイレベル。実績からオルゲートを推す声は多かったと思うが、どちらに転んでもおかしくない接戦じゃったよ」
「そうですね、オッズを見ても7:3でオルゲート氏が圧倒的人気。まさにその期待に応えた結果でしたが、ハクマ氏の強さが熱戦へと引き上げたのは間違いないでしょう!」
それもオルゲートを相手にしての、堂々の真っ向勝負である。早くも両者の再戦を求める声は上がっており、ハクマもオルゲートのライバル候補として、華々しくデビューしたと言えた。
その後、マキリとギルハートも加わり戦評が行われる。
戦闘内での繊細な駆け引きやスキルの効果や選択、勝敗を分けた分岐点などなど。闘技者目線で語られるそれらは観客の関心を引き付け、次戦までの待ち時間を贅沢に満たしてくれるのだった。
*
一方その頃、闘技場の最上段では人知れず盤外戦が行われようとしていた。
「おっと、有名人が僕に何の用かな?」
「んー、用ってほどでもないんだけどさ、野暮はいけないよね」
剣を構え相対する相手を睨むのは、クシャーナである。
言うまでもなく、現在の冒険者序列一位であり、今回の【戦士の狂宴】の主役と言っていい存在だ。そんな彼女が待機所を抜け出し、剣まで抜いているとなれば、騒動に発展するのは必至だ。ただそんな一触即発の場面において、周囲の観客は驚くほど無関心だった。
「野暮って……あー、分かっちゃうかぁ」
「わお、素直だね。このまま何もしないでいてくれたらありがたいんだけど」
クシャーナの正面には、灰色のマントで身を隠した痩身の男の姿。
降参とばかりに両手を上げ、軽口を叩いている。見る限り丸腰であり、覇気も感じられない佇まいだ。そんな彼の横には、同じく灰色のフード付きマントで姿を隠した人物が一人。クシャーナのセンサーはそちらへの警戒を呼び掛けている。
間違いなく強い。だがそれでもクシャーナは目の前の男から目が離せなかった。
「剣を抜かれたのであれば……こちらも応えねば無礼ではないか?」
「……!!」
男の隣の人物から聞こえた声。
それは艶と色気、そして威厳を感じる女の声だった。咄嗟に距離を取るクシャーナに、フードを脱いだ女性は挑発的な視線を送る。まるで光り輝くようなオレンジの髪と、内面を見定めるような目力。それだけで存在感に圧倒される。
そんなクシャーナを余所に、男が慌てて割って入る。
「待った待った、君が出るともう収拾つかなくなるから」
「なら、妾のこの高ぶった情熱は何処にぶつければいいのだ? そもそもだな――」
エミットにも感じたような、気品のある佇まい。
そんな既視感も覚えるクシャーナだったが、彼女はきっとさらに上だと漠然と理解する。生まれついての強者、それが当たり前である環境と自負。例えるならば王族のような――。
「ああもう、分かったよ。君の高ぶりは僕が何とかするから」
「ほほう、随分と自信がありそうだがなにを――んっ、――んん!?」
「ええ……」
対峙するクシャーナの力が一気に抜ける。
あろうことか臨戦態勢のクシャーナを前に、男女が情熱的なキスを交える。強者の余裕を醸し出していた女性は長いキスの後、まるで恋も知らない生娘のようにふにゃふにゃになっていた。一仕事した感を出す男は額を拭い、クシャーナについでとばかりに声を掛ける。
「あ、ハクマを送り込んだのは確かに僕だけど、用は済んだから。その先を見せようかと魔が差したのは事実だけど、両者に敬意を払って邪魔者は消えるとするよ」
「え、そう? ならいいんだけど」
それじゃ、と言い残し男女は去っていく。
「うーん……ああいうタイプは苦手だなぁ」
強者の風格を纏う女性に、強さ以外の何かを持つ男性。不気味な存在には変わりないが、こちらにも荒事に向いている人材は多くいる。考えても仕方ないかとクシャーナはクルリと向きを変え、その場を後にするのだった。
*
ここは闘技者用の待合室。
闘技場の規模同様大きめに作られているが、今その一室は二人の大男が占領していた。先ほどまで死闘を繰り広げていた、オルゲートとハクマである。闘技場は一種の魔道具であり、闘技場内で受けた傷も戦闘終了と同時に消えるため、彼らの身体は戦闘開始時と何ら変わりはない。
それでも体力の消耗や、極限状態による精神の摩耗などは残る。
「……何か言いたいことがあって来たのだろう?」
「驚いた、お主まともに話せるのだな」
重苦しい雰囲気の中、切り出したのはハクマ。
オルゲートが思わず真顔になるような、理知的な物言いだった。仕合が終わってすぐ、オルゲートはハクマの待機室へと押しかけていた。誰も付き添いのいない部屋で、一人椅子に腰かけ身体を丸めていたハクマは、何かに導かれるように彼を迎え入れていた。
「腹の探り合いは不得手での。単刀直入に聞くが……お主『死人』じゃろう」
「…………」
死人。それは文字通り、死んだ人、死者である。
それは死への冒涜。本来動いてはいけない、生きてはいけない人を動かす秘術がある。死霊術と呼ばれるそれは、代々とある一族により受け継がれてきた禁術。最も今は数多の冒険者に紛れるほどに血は薄れ、その秘術を生業に活躍するものもいるという。
おもむろに立ち上がったハクマは、静かに立ち上がり首を垂れる。
「そこまで知っているなら話は早い。私を負かしたあなたになら頼める。……どうか私を終わらせてくれ」
大男の懇願は、暗い部屋に重く響くのだった。
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