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24話:戦士の狂宴-Aブロック1回戦③

 鎖の嵐の中、その光は一瞬で通り過ぎた。


 光速の弾丸と化したのは――()()()()()


「ちっ……ぬかったわ」


 ()()()()()()()()()、迎え撃てなかった。その事実に、片膝をつくオルゲートが歯噛みする。その背後には、一直線に駆け抜けたハクマの姿があり、闘技場の床にはまるで焦げたような黒い線が残っていた。


「これだっ! これに私もやられたんだ……!!」


 解説席から飛び出さんばかりの勢いで、ギルハートが叫ぶ。


 固有スキル:『電纏甲冑(ライジン)』。


 それは一度だけ、ハクマが"十拳"入りを決めた入れ替え戦で見せたものだ。高出力の雷属性の気を鎧のように纏う、攻防一体のスキル。『電纏甲冑』を纏ったハクマの速度は、名だたる冒険者に反応すら許さない。ギルハートも理解できたのは、試合が終わった後だったという。


 冒険者は自身が最強と信じて疑わない。


 オルゲートにもその気質はあったが、相手を研究する思慮深さも備えていた。故に、準備はしてきた。あれほどの出力を誇るスキルであれば、過度な連発は難しいだろう。つまり、確実に準備でき当てることのできるシーンを作り出そうとするはず。


 考えなしの戦闘を行わないのは、実際に手合わせする中でも分かった。


 鎖の嵐に晒されながら、オルゲートはその条件が整えられたのを確かに感じ取ったのだ。視界こそ悪かったが、戦士の嗅覚と魔法でそれは補えた。土魔法『グランド・エコー』、セミテスタも使う振動を利用したサーチ術だ。武術はもちろん、そうした細かい魔法まで彼は自分のものにしていた。


 しかし、やはり実際に見ると受けるのでは勝手が違ったようだ。


 反応に遅れたオルゲートは、左腹部が削れそうになるほどのダメージを追い、未だ鎖の檻に囲まれている。直撃せずに、この威力。微かに捉える気配では、のっそりと体の向きを直すハクマがいる。


 まだ終わりではない。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 そう認識した瞬間、オルゲートは吠えた。


 まだ『ソウル・リバレーション』の効果は残っているが、相手も切り札を切ってきた以上、畳みかけてくるだろう。この戦いは矛と矛とのぶつけ合い――狙うは防御や回避ではなく、カウンターだ。上手く合わせることができれば、それで終いだ。


 まともに一撃を当てたほうが勝つ――。


 両者が共有する思いは、高揚した戦意の渦となり闘技場を巡り、観客をも呑み込みボルテージを上げる。向き直ったハクマが溜めを作り、前傾姿勢を取る。軽くない負傷を負ったオルゲートが纏わりつく鎖を吹き飛ばし、迎え撃つ態勢を取る。鎖の嵐はここに来て効力を失い、舞台には二人の強者のみの姿があった。


「決着が、近い――」


 誰も声を発せない状況で、辛うじてうわ言のように漏れたマキリの声。


 まるでその声に弾かれるかのように、ハクマの姿がその場から消えた。あまりの出力と速度に、ハクマ自身も繊細なコントロールはできず、その軌跡は単純だ。だが『電纏甲冑』を纏った重厚な筋肉の鎧は、直線状の障害物全てを粉砕する砲弾となる。


 受けるは必至。だが相手も戦士の最高峰。


 大技ながら繊細な技術を模倣することで必殺足りえる、オルゲートの『ソウル・リバレーション』。ギリギリまで引き付け、カウンターの刃を振りぬく。まともに受ければ、死――。それでも死地に飛び込むハクマはその極限状態で、笑った。


「両者激突ー---っ!!!!!」


 実況のサミュの絶叫が木霊する。


 一瞬の邂逅の後、両者の距離が再び大きく離れる。観客も息を呑む静寂の後、駆け抜けたハクマの肩筋から勢いよく血が噴き出る。この試合でハクマが明確に負った、初めての大きな傷だ。どうやらオルゲートの反撃の刃は二度目にして届いたようだ。


 観客も沸き上がり、次はオルゲートのほうに目をやる。


「ここでオルゲート選手の反撃が、ついにハクマ選手を捉えたかっ!?」

「いや、これは…………」

「相打ちじゃのう」


 興奮するサミュの言葉に、マキリとクリストから冷静な反応が返ってくる。


 その視線の先には、再び片膝をつくオルゲートの姿。見れば今度は一合目で負傷した腹部とは反対側、右腹部に大きなダメージを負ったらしい。"十拳"に名を連ねるほどの冒険者であれば、その防具も最上級のもの。ただ今オルゲートを守るべき鎧は、そこだけ削がれたように破損しており、衝突の凄まじさを物語っていた。


「反撃は確かに届いた。……ただギリギリまで引き付けた分、その代償も大きかったようですね」

「あれにピンポイントで合わすのも、そもそも神業なんだけどね……」


 マキリの解説に、ギルハートもため息交じりに応える。さらには解説冥利に尽きるとばかりに、クリストが楽し気に話す。


「オルゲートもいっぱいいっぱいじゃろうが、ハクマのほうもちと怪しいぞい」

「え?」


 その真意を探ろうと、サミュ含め観客の目が再びハクマに戻る。


 肩に受けた傷は致命傷には遠いようだったが、その身体は大きく上下に息を切らし、消耗の激しさを見せていた。ハクマの固有スキル:『電纏甲冑』。凄まじい威力を誇るスキルではあるが、やはりその使用には大きな負荷がかかるらしかった。


 漠然とではあるが、サミュ含め闘技場に駆けつけた観衆は察知した。


「次の三合目が、最後の激突になる――」


 消耗した身体に鞭を打ち、再び向き直る両者。


 決着の時が近いと、静まり返る闘技場において、極限まで研ぎ澄まされる両者の意識。重苦しい空気の中、肩筋から流れた血が地に落ちた時、ハクマは再び砲弾と化した。その中で、彼は聞こえないはずの声を確かに聴いた。


「ふん、――誰がトレースしかできないと言った?」


 降りぬかれた戦神の一撃を、沈み込むようにして回避。後はさらに加速した威力をもって、棒立ちのオルゲートに致命の一撃を与える。そのはずが、一瞬目に映ったのは()()()()()()()()を取る、オルゲートの姿。


 まるで重車両同士の衝突。


 それは綺麗に振り切られた、オルゲートの武技によって決着を見た。空中で回転しながら飛ばされる中、その回答に行き着いたハクマは、静かに目を閉じた。その直後に響き渡るのは、巨漢が地面に叩きつけられた音。そして、決着を告げるアナウンスだった。



「Aブロック第1回戦、勝者――オルゲート=フュリアス!!!!」

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