23話:戦士の狂宴-Aブロック1回戦②
胸が、熱い。
冒険者の最高峰"十拳"が一堂に会する、年に一度のお祭り【戦士の狂宴】。一度は拝みたいと思っていたが、まさかこんな間近で見られるなんて。それも特等席、司会進行を務めるただ一人の実況として、私はここにいる。
ただ観客の声に負けないように――。
あれこれと事前に詰め込んだ知識や段取りなど、当に頭から飛んでいる。この熱を前に、予定調和な実況なんてできやしない。大役を任された若きギルド職員、サミュ=クローバーは吠えるように実況しながら、誰よりも試合を楽しんでいた。
*
スキルを使用した二人の戦闘は、正に圧巻だった。
二段階は状態が上がると呟いたギルハートの言葉通り、まるで最初の攻防が児戯だったかのようにさえ見える。振りかざした斧が掠めるだけで強固な闘技場の床が削れ、直撃などすればそこに大きなクレーターを生んだ。
「――ああっと!? ここで両者大きく弾き、距離を取ります!!」
目まぐるしい攻防を必死に追うサミュが、次の展開の匂いをかぎ取る。
「身体強化、武器強化のスキル諸々を用いても五分五分、そうなれば……」
「ほっほ、次は勝負を決める大技の出番じゃろうな」
マキリとクリストも声を揃えて、解説を加える。
「――ふん、これを早々に切ることになるとはな」
「モット、モットダァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
腰を落とし深く構えたオルゲートがぼやき、ハクマが迎え撃つ。
「『捧げよ、戦場で震えし魂――我こそは頂に立つもの也』!」
「――『ソウル・リバレーション』!!」
まるで魔法の口上のように告げられたスキル。
それはオルゲートの背中から立ち昇り、確かな重量感をもって濃い影を落とす。ここで切った手札はオルゲートの必殺と呼べるスキルの一つ――熟練の戦士のみが辿り着く至高の領域、戦神を生み出す秘術だった。
圧倒的な存在感を放つ戦神。
オルゲートの背後に浮かぶそれは彼をモチーフにしているのか、トレードマークのバイキング帽子に顔を覆い隠すほどの髭、宙に浮かぶ筋骨隆々な上半身は巨大な両刃戦斧を握っている。このスキルで生まれた戦神はオルゲートの動きと連動し、威力とリーチを極限まで高めるのだ。
「さて、今度ばかりは受け方を間違えると……終わるぞ?」
切り札の一つを切ったオルゲートが、一歩間合いを詰める。それを見てか、解説席のギルハートが両腕で体を摩りながら呟く。
「ハクマはわざと待ったんだろうけど……これ受けるって選択は流石にないよ」
「おっと、防御術にも長けたギルハート氏からの警告! 確かに、これは素人目に見ても……受けられるイメージが湧きません!!」
隣のサミュも悲鳴交じりに実況を行う。
『ソウル・リバレーション』は一定の精神統一とスキルの口上が必要なため、多くの対戦者は使わせない方向で作戦を組み立てていた。ただでさえオルゲートとの打ち合いなどごめんだというのに、その威力を何倍にも膨れ上がらせた戦神相手など、もはや相手にするほうが正気ではない。
それでも不気味に笑うのは、対峙するハクマ。
両手に持つ手斧をガチガチぶつけ、いつ飛びかかろうかと構えているようだった。二人の距離は近接戦闘を行うにはそれなりに離れていたが、今のオルゲートにその距離はないに等しい。
「――――行ったっ!」
ギルハートの反射的に上げた声が響く。
先手を仕掛けたのはハクマだった。一瞬踏み込みの溜めを作ったオルゲートの動きを察知してか、片方の手に持つ手斧を放つ。彼の持つ手斧は柄の先端が長い鎖で繋がっており、投げ縄の要領で投擲したのだ。鋭い一撃だが、戦神を従えたオルゲートには届かない。
オルゲートが軽く振るった腕をトレースし、戦神が手斧を粉砕する。
武器を砕かれ出鼻を挫かれたと思われたハクマだったが、その顔に浮かぶ笑みは変わらない。詰めにかかろうとしたオルゲートの上空、淡い光が瞬いたかと思えば、無数の鎖が何もない空間から湧き出て彼の進行を阻む。
「これは――スキル、いや魔道具でしょうか!?」
「ええ、恐らくとしか言えませんが……ハクマの持つ『手斧』でしょうね」
サミュの読みにマキリが肯定の意を返す。
【戦士の狂宴】では所謂回復POTなどのアイテム使用は禁止されている。ただし、各冒険者のアイデンティティとも言える装備類、魔道具は許可されていた。持参した手元の魔道具名鑑で、サミュが素早くお目当ての項目を見つける。
「ええ……ハクマ選手の持つ手斧の銘は、二挺手斧『ランページ・チェーン』。固有能力は【暴鎖】。破損を引き金に、異空間から無数の鎖を召喚するようです!」
「使い切りの魔道具かー……そういうのは特に効果は強力だよ」
興奮して話すサミュにギルハートが相槌を返す。
メインウェポンを使い捨てにするハクマの度胸、いや最早狂気か。鎖の嵐に対応するため、オルゲートの脚が止まる。それでも戦神の破壊力は抑え込めず、飛び出る鎖から無情に宙にまき散らされる。
「ふん! これしきでわしを止めようなど、百万年早いわ!!」
「鎖の嵐が――届……かない! 届かない、全く届きません! これが戦神の、いやオルゲート選手の力かっ!!」
強力なスキル故、『ソウル・リバレーション』には持続時間に限界がある。
だがその時間稼ぎにはなっても、抑え込むまでには至らなさそうだ。このままいけば、メインウェポンを失くしたハクマのほうが圧倒的に分が悪い。そう誰もが予想する中、嵐の真っただ中にチカッと光る閃光が指した。
「――――ぬっ、ぐう……!!」
「あっ! あー--っと!!?」
サミュの絶叫に釣られ、観客の声も上がる。
闘技場内に設置された大型モニターが、衝撃の光景を捉える。そこには盤石と思われたオルゲートの、片膝をつく姿が映し出されていた。




