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22話:戦士の狂宴-Aブロック1回戦①

 過去最大級の、戦士と戦士のぶつかり合い。


 仮にこの戦いを評するならば、誰もがそう声を揃えたに違いない。


 闘技場の中央、正方形の舞台に残ったのは1回戦を迎える"十拳"下位2名。しかし下位だからと言って、それが直接冒険者の力量通りとは限らない。物事に絶対はないように、戦いもまた様々な要因、手段、取り巻く全ての環境が密接に絡み合って生まれた一種の奇跡、その産物なのだ。


「オルゲートー-! あんたの実力を見せつけてやってくれー-!!」

「ハクマーー! 新しい時代見せてくれよー--!!」


 開幕のゴングが待ちきれないと、観客から歓声が巻き起こる。


 舞台の中央で額を擦り合わせるほどの距離で睨み合う、二人の猛者。正しく歴戦の猛者、その名に相応しい実力、実績を持つのは冒険者序列7位:オルゲート=フュリアス。戦士の代名詞として呼ばれるその名は、長らく冒険者の頂点に君臨していた。


「さあ! 間もなく1回戦の開始ですが、御三方はこの試合をどう見ますか?」


 実況のサミュが、ゲストの3名へと話を振る。


「身体能力のスペックで圧倒するもの同士……案外勝負は早々についてしまうかもしれませんね」

「ふぉふぉ。まかり間違っても、細かな細工はないじゃろうからなぁ」


 弓兵マキリと召喚術師クリストは、渋い顔で応じる。


 勝敗を分ける要因は様々である。


 戦術、戦闘スタイルの得手不得手、属性の有利不利。その時の精神状態、肉体の充実度、装備の差。似通ったタイプであれば、単純に格の違いというものもあるだろう。だがここまで上がってきた両者に、大きなスペック差があるとは考えづらい。


 それでも泥仕合ではなく、早期決着を睨むのには訳がある。


 彼らは、いずれもパワーファイター。一つのボタンの掛け違いで、容易く勝負を決められるほどの必殺を持っている。だからこそ、読みにくいのだ。


 言葉が詰まった二人とは別に、上がる声もある。


「純粋な肉弾戦でオルゲートが負ける展開は予想できない……。でも、ハクマは……なんていうか、不気味なんだよ」

「おおっと、ハクマ戦の経験のあるギルハート氏からの、不穏な一言! これは要警戒か!?」


 重騎士ギルハートは、唯一公式戦でハクマと相対した冒険者だ。


 鉄壁の防御とそれに見合わない柔軟なフットワーク、そして磨き抜かれた槍術。クシャーナ達とは少し遅れて出てきた彼女だが、その実力は高く評価されていた。その彼女が見つめるのは、オルゲートと睨み合う、もう一人の猛者。


 オルゲートに負けないほどの巨漢が、舞台中央に陣取っている。


 冒険者序列10位:ハクマ=シダン。今は焦点の合わない白目で、眼前の獲物を前に舌なめずりをしている。彼もオルゲートと同じく武闘派、そして斧を用いた近接戦闘が売りのファイターだ。ただオルゲートを武人とするのであれば、彼は狂戦士。


 野性味溢れる外観は、それだけで不気味さを醸し出していた。


「さあ! 長らくお待たせしました!」


 実況のサミュの合図とともに、睨み合っていた両者が離れていく。


「【戦士の狂宴(ウォーリアフィースト)】Aブロック1回戦! 【駆逐要塞(デストロイヤー)】オルゲート=フュリアスvs【雷獣(ビースト)】ハクマ=シダン!!」


 サミュの口上に導かれ、それぞれ武器を構える。


 先ほどまで轟いていた歓声が嘘のように鎮まる。一瞬にも永遠にも感じられる奇妙な静寂は、やがて一つの合図で張り裂ける。


「――――始めっ!!!!」


 まるで小山のような巨漢が、その場から掻き消える。


「ヌゥウウウウウウウウウウウウウウンンン!!!」

「ウバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 オルゲートの長柄の斧が前進と共に真上に振りかざされ、その両の腕を伝い、必殺が振り下ろされる。まず受けることを諦めるほどの威力を秘めた一撃が、地面に着く前に留まる。


 甲高い金属音が闘技場に響き渡り、耳鳴りに襲われる。


 見れば振り切ったオルゲートの斧は、ハクマが両手に持つ手斧に挟まれるような形で受け止められている。余波が闘技場外にまで広がる中、観客が息を呑む。


 たった一合のやり取りだけで、両者のレベルの高さにただ圧倒される。


「……ふん、見掛け倒しではないということか。楽しませてくれそうじゃのう」

「我……強者、倒す…………!!」


 お互いの力量を認め合った両者は、ただ愉悦に任せて斧を振るう。


 一つ一つが間違いなく致死級の、命を刈り取る一撃の連続。ガコンガコンと武器のぶつけ合いとは思えない、重厚な響きが打撃音のように響き渡る。手数とスピードはハクマ、リーチと威力はオルゲート。それぞれの武器の特性が、次の打ち合いの流れを決めていく。


「おーっと! ここでハクマ選手のラッシュラッシュラーッシュ!!」

「手数はハクマが有利。このまま押し切るつもりですね」


 実況のサミュに解説のマキリが冷静に返す。


 ハクマの武器は片手にそれぞれ持った手斧。最もそれ自体が、一般の冒険者が両手で持つような重量感溢れる武器なのだが、彼はそれを軽々と振り回す。対するオルゲートの武器は、それこそ大の大人が数人掛かりで何とか持てる程度の、超重量を誇る長柄の両刃戦斧。


 つまり両手でしっかりと持ち振り回してこそ、真価を発揮する。


 間合いのさらに内、密接するような距離まで潜り込んでの手斧の連撃。長らく"十拳"内の重鎮として戦闘を重ねたオルゲート相手に、ここまでインファイトでやり合えた冒険者はおそらく初めてだろう。必然的に後手に回るオルゲートの姿に、闘技場の観客がざわつく。


「間合いを潰された……! あれじゃ長柄の斧なんか振り切れねぇよ!!」

「それが正攻法と分かってても、一つ打ち間違えたら即死レベルだからな……。これは瞬時に間合いを詰めれたハクマがすげぇよ」


 目の肥えた観客を唸らせたのは、ハクマの戦士としての実力だ。


 まず、オルゲートと打ち合えるほどの筋力。そして、死を無限にばら撒くような暴風地帯、オルゲートの間合いに踏み込むだけの精神力とその技術。野性味溢れる外見とは裏腹に、ただの力自慢ではないことをこのやり取りだけで証明したのだ。


「しゃらくさいわぁ!!」


 もちろんオルゲートもそれだけでは怯まない。


 連撃をかけるハクマを、強引に力を持って弾く。僅かにできた間合いには、くるりと回した両刃戦斧の柄が入り込み、ハクマの持つ手斧をかちあげる。そして一瞬の間が過ぎた先には、全体重を乗せた最速の突き。


 決まれば、終わる。


 そう確信させるほどの威力を秘めた鋭利な先端は、ハクマを掠め虚空を穿った。連撃を潰され、反撃を許したハクマはその一撃を受けに回らず、上半身のスウェーで対応したようだ。突きの威力に巻き込まれ、長髪が数本乱れ飛ぶが、ハクマは意に介さない。


 そのままの勢いでバク転を数回。せっかく詰めた距離を惜しむことなく体勢を立て直し、狂気の笑みを浮かべるのだった。


「――――これはっ」

「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」


 実況のサミュの声が、観客の雄たけびにかき消される。


 一撃一撃が超重量級の破壊力を秘めた二人の攻防だ。息を呑む展開に誰一人目が離せない。高ぶる笑みを浮かべる戦士二人の姿に、闘技場のボルテージが上昇する。そんなさなか、言葉を失いかけたサミュの横で、楽し気な声が響く。


「ほっほ、ようやく温まってきたかのう」

「ええ、小手調べは済んだでしょう」


 言葉と共ににやつくのは、解説席のクリストとマキリ。二人の会話の意味を図りかねているサミュに、沈黙していたギルハートがポツリと助け舟を出す。


「二人共、まだスキル……使ってないから。ここから一段階、いや二段階は状態が上がるよ」

「…………えっ」


 スキルとは冒険者の基本であり、切り札でもある。


 魔術師が使用する魔法もその中の一つだが、スキルは何も攻撃だけに留まらない。体を鉄のように固くすることも、風よりも速く走ることもできる。冒険者が凶暴なモンスター相手に渡り合えるのは、スキルあればこそなのだ。


 純粋な身体能力だけで、あれほどの打ち合いを――。


 その事実にサミュは動揺を隠せない。そんな彼女を尻目に舞台は次のフェーズへと移っていく。戦士なりの挨拶、流儀だったのか、遊びはここまでと両者の身体を様々な光が包んでいく。


「戦士のスキルは攻守をバランスよく高めます。大きな戦法の変更はないでしょうが……」

「うん、今までとは威力が変わる」

「そして……()()()()()()()()()()が大きく展開を左右するじゃろうな、ほっほ」


 それはきっと、冒険者だけに見える景色。


 解説席での意味深な言葉をよそに、舞台の二人は再び中央で激突するのであった。

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