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20話:戦士の狂宴-開宴①

 参加者それぞれ抱く想いに違いはあれど、時は平等に流れ訪れる。


 そして、ついにこの時がやってきた。


「いよいよ今年もやってまいりました! 冒険者最強の座を決める、年に一度のお祭り! 【戦士の狂宴(ウォーリアフィースト)】、ここに開宴します!!!」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


 この街最大級の規模を誇る闘技場に、大勢の観客が詰めかけている。


 通路すら埋め尽くす大盛況で、早くも大歓声やヤジが飛び交っている。実況に付くのは、ギルドの公式記録員の女性だ。まだ若いが冒険者通と評判で、今年の実況を任されると聞いたときには、嬉しさのあまりその場で泣き崩れたらしい。


「実況は私、ギルド公式記録員のサミュ=クローバーでお届けいたします! 不肖ながら、誠心誠意務めますのでどうぞお付き合いください!!!」

「いいぞー!」

「俺ともお付き合いしてくれー!」


 実況の熱に負けない声援や雄叫びが聞こえる。


 ギルド公式記録員、サミュ=クローバー。


 彼女はまだ20代と若いが『鑑定』スキル持ちの優秀なギルド職員だ。冒険者に対しても親身に接するその姿勢から、彼女のファンも多い。最も彼女自身は冒険者マニアを自称し、そういった恋愛事には疎いらしい。距離感を間違えた冒険者が玉砕する場面は、彼女の出勤日には幾度となく見られた光景だった。


 サミュ自身も興奮しているのか、猛りのままアナウンスが続く。


「そして! 今回は解説に豪華なゲストもお呼びしています! どうぞ!」

「ふぉふぉふぉ、クリスト=メンデウスじゃ。引退したばかりでこんな大仕事を任されるとは光栄よな。直にやり合った、ワシの視点で話せることもあるじゃろう」

「ギルハート参上……よろしく」

「こんにちは、マキリです。今日は私の『目』で、じっくり丁寧な解説をお届けしたいと思います」


 観客のボルテージがさらに上がる。


 サミュに導かれ、ゲスト解説として呼ばれた冒険者3名が席に付く。


「もちろん皆様ご存じでしょうが、改めてご紹介させて頂きます! 今回ゲストにお招きした3名はいずれも"十拳"に名を連ねた経験のある、超一流冒険者の方々です!!!」

「むしろあんたらも出ろー--!!」

「じじい引退すんなー!」

「え……ギルハートって全身鎧の重騎士だよな? 中身はあんな可愛い子ちゃんだったのか!?」

「マキリ様ー-! 私をあなたの矢で射抜いてー--!!」


 当然名の売れた冒険者には、熱狂的なファンが付く。


 彼らは今回の【戦士の狂宴】からは漏れてしまったが、いずれも実力は折り紙付き。ただ"十拳"落ちを経験した冒険者は、あまり人目に付く仕事はやりたがらない。それを考えれば、直前まで"十拳"に在籍していた冒険者が3名も解説に加わるのは、過去に例を見ないことだった。


 フードが一体化したマントで小柄な体を隠した老人が、静かに歓声に応える。


 元"十拳"の一人、クリスト=メンデウス。


 今回の"十拳"落ちを機に引退を表明した、老齢の召喚術師だ。大型の野獣などを使役するものが多い中で、彼が召喚するモンスターは「植物型」。その戦闘スタイル故、付けられた異名は【千年樹(アンバーツリー)】。豊富な経験値と知略で勝ち残り続けた、熟練の冒険者であった。


 隣では長身の女性が、ぎこちない笑みを浮かべている。


 こちらも元"十拳"、ギルハート=ノーブル。


 【黒槍騎士(ブラックランサー)】の異名を持つ、重騎士である。彼女のトレードマークは黒槍と、同じく黒に染まった全身鎧。だが今は鎧を纏わず、肩まである滑らかな髪と、美人と言っていい顔立ちを露わにしている。今は無表情ながらやや緊張しているのか、言葉少なめに席に落ち着くのだった。


 最後の一人、爽やかな青年が黄色い声援ににこやかに手を振っている。


 "十拳"初の弓兵、【見敵必中(ホークアイ)】マキリ=インカルシ。


 弓兵は魔術師以上に"十拳"入りが絶望視されていた。弓兵のスタイルが、入れ替え戦の対面形式とは致命的に合っていなかったからだ。しかし、彼は風属性に愛され、さらに類まれなる『目』を持っていた。風魔法『ウィンド・アロー』と通常の矢を巧みに使い分け、どこでも彼が支配する狩場を作り上げるのだった。


 三者三葉、いずれも特徴のある冒険者達。


 ギルハートに至っては、直前の入れ替え戦で惜しくも"十拳"落ちしており、惜しむ声が歓声となって届いている。本人もようやく落ち着いてきたのか、その歓声に応える程度の余裕は生まれてきたようだ。


 頃合いを見計らい、実況のサミュが切り込む。


「本日はお越し頂きありがとうございます! ギルハート氏は今回鎧なしで参戦と言うことで、何かお気持ちの変化などあったのでしょうか?」

「え……いや、別に戦う訳じゃないし……なくてもいいかなって」

「それもそうですね! 大変失礼しました! しかし、これで益々ファンは増えていきそうで、今後も期待しております!!」

「え? あ、はい……頑張ります?」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 普段とのギャップに悶える、男臭のする歓声が響く。


 ギルハート自身はそのつもりもなかったのだろうが、普段は全身鎧に身を包んだ寡黙な武人というイメージだったのだ。なんなら男とすら思われていただけに、中からスラリとした美人が出てきたともなれば、色々振り切ろうというものだ。


 そんな様子をクリストが面白げに眺め、マキリに絡む。


「ふぉふぉ。おぬしと言い人気者は大変じゃのう」

「観客からの声援は、私にとって一番の力の源ですからね。今度は参加者として、舞い戻ってきますよ」

「マキリ様ー! こっち向いてー-!!」


 何処までも爽やかな青年は、女性に大人気だ。


 もちろん他の"十拳"に連なる男性冒険者に女性人気がない訳ではない。だがオルゲートを始め、男性受けするいかつい強者の風格のほうが目立ってしまい、女性ファンの追っかけまでは出てこなかったのが現状だ。


「さて、豪華なゲスト陣とは1回戦から決勝戦まで、余すところなくお付き合い頂きます!」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


 いよいよボルテージが高まる闘技場。


 そして、満を持して主役達がその舞台に立つ。


「それでは行ってみましょう! 現"十拳"、今回の【戦士の狂宴】参加者の入場です!!!」


 実況のサミュが歓声に負けじと声を張り上げる。


 闘技場の端から姿を現したのはクシャーナだ。いつもと変わらない蒼いドレスに、呪具のマスクを付けている。それに続いてストリックなど他の冒険者の姿も見える。どうやら現在の序列の並びで入場してくるようだ。


「"新星"の先頭に立つのはやはりこの人! 昨年の【戦士の狂宴】前から突如として現れ、現在は冒険者トップの座を不動のものとした! 【瑠璃色蝶(ラピスラズリ)】クシャーナ=カナケー!!!」

「今回も頼むぞー!!」「クシャーナ素敵―!!」

「お前がNo.1だー---!!!」


 クシャーナのある種のカリマス性が、人々を魅了する。


 話してみると案外抜けているというか、恐らく多くの人が持っている神秘的なイメージは崩れてしまうだろう。だがその実力とビジュアルで、瞬く間に観客の心を掴んでしまうのも、また彼女の持つ魅力の成せる業だ。


「さあ、お次はトップの座を狙う狩人! 盗賊の常識を覆した、圧倒的な捕食者! 【灰掛梟(グレイオウル)】ストリック=ウラレンシス!!!」

「キャーーー! スト様ー--!!」

「ストリックー-! 今年はやるって信じてるぞー-!!」


 ストリックには何故か女性ファンが多い。


 黄色い声援にも愛想を振りまかない、孤高の冒険者として人気なのだ。また器用貧乏になりがちな盗賊がここまで成りあがることは珍しく、同業者の視線も熱心に浴びていた。


「どんどん行きましょう! 大混戦の3位に名乗りを上げたのは! 謎多き剣士がついにベールを脱ぐか!? 【放浪武者(サムライ)】スカル=ゾゾン!!!」

「リュウレイを破った実力を早く見せてくれー-!」

「あんたの試合見るために、高い金払ってきたんだぞー-!!」


 ストリックの後ろに続くのは、マスクで顔を隠した一人の剣士。


 今まで表舞台に上がらなかった、"十拳"の影の番人。その登場に歓声とどよめきが拡がる。身に付けた東洋風の着物とマスクで素肌は隠れており、腰に携えた刀だけが鈍い光を放っていた。


「そして4位は"新星"を喰らう新たな世代の登場か!? 瞬く間に"十拳"の階段を駆け上がった、若き才能! 【五月雨式(ソードレイン)】リュウレイ=イサヤ!!!」

「このまま1位までいっちまえー-!!」

「リュウレイ様ー-! 抱いてー--!!」


 青髪の青年が手を上げ歓声に応えている。


 その実力は間違いなく本物。"古株"や"新星"が集う"十拳"において、次の世代として注目される新たなスター。スカルとの謎の死闘は、多くの話題を呼んだ。そして彼の才能は剣だけに留まらず、その整った容姿は新たな女性ファンを抱えるには十分だった。


「続いて5位! 魔術師の星は健在! 圧倒的な火力で目指すはトップのみ! 【天変地異(カタストロフ)】エミット=アルグレカ!!!」

「エミットー-! 魔術師の意地見せてくれー---!」

「派手な試合期待してるぞー--!!」


 マントを翻し、颯爽と闘技場の舞台へと上がるエミット。


 彼女の戦闘は華やかであり、入れ替え戦でも人気は高い。そして、近接職が幅を利かせていた"十拳"内において、魔術師として成りあがった期待の星でもある。彼女に憧れ、魔術師ギルドの門を叩く者も多いらしい。


 続けて入場した上位5名が、闘技場の舞台に揃い立つ。


「さあ、これだけでも圧巻の光景ですが、まだまだ続きます! お次はあちらからの入場です!!」


 サミュの合図とともに、今度はクシャーナ達とは反対方向から歓声が響く。その先には、虎視眈々と上位を狙う、下位5名の姿があるのであった。

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