19話:戦士の狂宴-前夜祭④
その入れ替え戦は、観客も入れずに唐突に始まったらしい。
後日、残ったのは序列が入れ替わったという結果だけ。
当然ギルドには苦情が殺到し、説明を求める声が相次いだ。そんな混乱を収めたのは、当事者である若き剣士、リュウレイ=イサヤだった。聞けば入れ替え戦を頼み込んだのは彼らしく、「見世物にしない」という条件でひっそりと開催される運びとなったのだ。
当の本人に負けた、と言われれば外野が口を挟む術はない。
それでもギルドの圧力だの、新人への理不尽な制裁だのと反感の声は絶えなかったが、それも【戦士の狂宴】開催告知と共に消えていった。そこには全て公の下で開催されると明記されており、参加者一覧には3位に躍り出た【放浪武者】スカル=ゾゾンの名も記されていたのだった。
*
「――とまあ、そういう事情があったのですわ」
したり顔で説明するエミットに、ストリックが顔をしかめる。
「いや、それ何一つ根拠がない話だろうが。その強さが眉唾じゃなさそうなのも、クシャーナの話を聞いてからようやく分かることだしな」
苦言を呈するストリックだが、他の面子はその実力を疑っていないようだ。
「少なくともリュウレイの剣への情熱と姿勢は本物ですわ。その彼にあそこまで清々しく言わせるのでしたら、それがスカルの実力と言うことなのでしょう」
「随分そいつ買ってんなぁ、さては色男か?」
「若いし格好いいのも事実だけどねー、冒険者ならその腕で評価してこそでしょ」
「ストリック、まさか唾つけようとでもしてるの~?」
エミットに正され、ヤムに突っ込まれ、セミテスタに煽られる。
案の定ブチ切れたストリックがセミテスタを追いかける中で、話題は最後の"古株"に移る。現在7位の男、オルゲート=フュリアス。彼はスカルに次ぐ古参であり、"十拳"の礎を気付いたとされるほどの猛者であった。
「その男がまさか7位とはね……」
「時代としか言えねぇのかもな。というかテスタ、お前そのおっさんにまさか勝ったのか?」
「ふふーん! 気付くの遅いよ! 正直私めっっちゃ頑張ったんだよ!?」
「セミちゃんえらい」
追いかけ回されたり、自慢したりと忙しいセミテスタ。
彼女の現在の序列は6位。つまりは古参の猛者、オルゲートを倒して勝ち取った座で間違いない。オルゲートは、両端に角の生えたヴァイキング帽子を被り、髭を蓄えた筋骨隆々な昔ながらの大柄な戦士。
近接戦闘を苦手とする魔術師の、鬼門とも呼ばれる存在だった。
彼を評価する際には、「戦士を体現する男」「モンスターと素手でやり合える男」など、そのポテンシャルを高く評価する異名ばかりが轟く。両手で携えた長柄の斧が一度振るわれれば、前に立ちはだかるモンスターは1体たりとも残らなかった。
「実際私達が出てきたときにもぶつかった、ドでかい壁だったもんね」
「過去形で言えるほど、今も大きな差はねぇだろうがな」
「……彼を追い越すべく、誰もが修練を積みましたわね」
それは一時代の終わりを告げる予兆か。
彼は長く、"十拳"の序列1位に君臨し続けた男だ。寿命が短い冒険者界隈において、常に最前線に立ち無数の傷を負いながらも、その座を守り続けた。ただ寄る年波か、蓄えた髭が白に染まり出した頃から、序列を徐々に落としていったのだ。
「同じ"古株"のクリストも"十拳"落ちを機に、一線を退くようですわね」
「あの召喚術師のじじいか。むしろあいつこそ、いつまで現役やってんだって話だったからな」
「まだ後衛職だったからね。オルゲートは前衛に立ち続けてこれだから、正直脱帽だよ」
口々に語られる言葉に込められるのは、偽りなき賛辞と敬意。
いずれ人は衰え、時代は移り変わる。そこに何か残せるとするのであれば、それは通ってきた道にしか芽吹かないものだろう。先人が切り開いた道を歩き、やがて塗り替え、その先へ行く。その決意が、彼らをこの高みへと押し上げたのだ。
「俄然、楽しみになってきたね」
ポツリと呟いたクシャーナの言葉は、この場の全員の総意として受け止められるのだった。




