18話:戦士の狂宴-前夜祭③
【戦士の狂宴】に出場するクシャーナ達。
参加者10人の内5人も同じ場所に集まれば、やはり話は弾むようだ。口々に情報を持ち合い意見交換をする中で、"化け物"世代と呼ばれる3人の新人の話題に華が咲いた。そして、次の話題に上がったのは、残りの"古株"世代だった。
「……まあ新人がどいつもこいつも曲者揃いなのは分かったが、他のとこでも面白いこと起こってるよな」
「うん……順位で驚くのはやっぱり"古株"の二人だよね」
「3位と7位……どちらの順位も今までを考えると、有り得ないことですわね」
概ね驚きを持って語られているが、もちろんこれには理由がある。
まず3位:【放浪武者】スカル=ゾゾン。彼は「万年十位」と呼ばれる、"十拳"の中でも最古参の人物だ。彼は"十拳"制度を形作るための番人とも言われ、長くその序列を固定されてきた。言わば"十拳"の名を欲する者達の脚切り役として存在していたのだ。
「その実、誰もその姿を見たことないしな」
「度々"九拳"と揶揄されるのも、彼が表舞台に上がらないからですわね」
「それでも弾かれた冒険者からは、全然不満が出ないんだからすごいよねー」
"十拳"を目指すものは、ギルドが化す「挑戦者選抜審査」を受ける。
そこをクリアしたら、晴れて序列9位への挑戦切符を手に入れられるのだ。その審査役が10位の彼と言う、専らの噂だった。そして挑戦者と9位がその座を賭けて戦い、負けたものが追われる。そこで追われたものは10位になるのではなく番外、つまり11位以下へと落ちてしまうのだ。
それ故懸念されてきたのは、9位から"十拳"の座を追われた者達の報復。
その報復の対象は、入れ替え戦もなく10位に居座り続ける「万年十位」。"十拳"はある種の特権階級だ。テスト役として存在するのであれば、"十拳"内に組み込む必要はない。そうした議論もしばしば呼んだが、その制度は何事もなく今日まで続いている。
「あ、でも私は会ったことあるよ」
「は?」「え?」「ほんとですの!?」「詳しく!!」
何でもないという風に呟いたクシャーナに、他の面々が群がる。
"十拳"の番人【放浪武者】スカル=ゾゾン。彼の異名は剣士らしいという情報と、全く姿を見せないことから、自然と冒険者の間で呼ばれるようになったものだ。それでもクシャーナは、その彼にあったことがあるという。
「えっとね、確かに剣士っぽかったよ。白いフードが付いた東洋風の着物に、腰に刀。骸骨みたいなマスクも付けてたから素顔は分かんないけど、たぶん男性じゃないかな」
クシャーナから語られる情報は、今までの噂を肯定するものだ。
「まじか、実在するのかすら怪しげな存在だぞ」
「ギルドが作った『架空の人物説』も一時期流れてたよねー」
「実際見たことがないのですから、無理もありませんわ」
「で、結局どこで見たの!?」
色めき立つヤム達の追及は止まらない。
「ほら、"十拳"入り目指す人は半年に1回くらい、一斉に集められるじゃない? あの時だよ」
「ああ? それ、合格者は問答無用でそのまま返されるやつじゃないか?」
「あ、ストリックもそうだったんだ。急に『何番の人は番号札を受付に返却してお帰りください』って言われるから、不合格かと思って焦ったよね~」
口外を禁止されている、"十拳"挑戦者の審査制度。
それは厳しい試験や模擬戦、ましてや生き残りを賭けたサバイバルなどではない。集まった彼らは、ギルドの高難易度クエストを複数回こなした実績のある、名のある冒険者ばかり。ただ"十拳"への挑戦権を得られたのは、いずれも集められてすぐ帰らされたものばかりであった。
「あれでさ、その時帰らされたのは私だけだったんだよ。それで残された人は、別の会場に移るみたいだったんで、気になって付いていったんだよね」
「よくそれで不合格にならなかったな……」
「もう聞いてるこっちがハラハラするよ~」
当時からクシャーナはクシャーナだったらしい。
そんな変わらない彼女の魅力を感じつつ、話は続く。最も彼らはいずれも一発合格で帰らされた者達。多くの冒険者の間では、その後の試験こそが「挑戦者選抜審査」だと思われていた。
「で、見たら闘技場の中央に彼一人が居て、『一太刀でも入れられたら合格だ』って」
「…………説明それだけ?」
「うん、たったそれだけ」
何度も言うが、集まった彼らとて一流の冒険者である。
それが何十人、多い時は何百人と集まる中で、たった一人で相手にするのは正気ではない。おまけに一人ずつ相手にするのかと思えば、誰でも好きに来いという。最初は戸惑いが場を支配していたが、それ以上のアナウンスはない。
そうこうしている内に、最初の一人を皮切りに、瞬く間に乱戦となったらしい。
「へぇ、じゃあ戦闘まで見たんだな。実際どうだったんだ?」
「んー……なんていうのかな、派手さはなかったよ。というか、彼は結局刀抜かなかったし」
「え!? 抜かずに全員倒したの!?」
言うなれば、一つの動きの極致。
闘技場を割る様な怪力や斬撃、目にも留まらぬスピードがあった訳でもない。ただ気付けば近づいた冒険者が倒れ吹き飛び、最後には彼一人しか立っていなかったという。
「そういうスキルとかでもなく、武道の類か?」
「恐らくね。体の使い方に淀みがなくて、ここしかないってとこに自然と入ってた感じ」
「それだけで圧倒できるということは……とんでもない格上ってことかしら」
「うへぇー……やっぱり化け物じゃんかぁ」
それが今日まで、彼が10位に留まれた理由でもあるのだろう。
「でもでも、クシャーナはどうしてたの?」
「え?」
「仮にも最強を目指す私らからすれば、いずれは戦わないといけない相手だよな。その時やろうとはしなかったのか?」
「あー……いや、隙があれば一太刀入れようかなと思ってたんだけどさ」
セミテスタ達の追及に、頬をポリポリ掻くクシャーナ。
「隙が無かったんだよね」
「ええー-……」
「それほどの相手、ってことか」
クシャーナの言葉が重く圧し掛かる。
クシャーナの実力は誰しもが認めている。呪具という特異な装備に目を奪われがちだが、それも使いこなせる技量があればこそだ。決してアイディアだけで勝ちぬけできるほど、"十拳"の頂点は軽くない。そしてそんな彼女に、彼は一つの言葉を送ったと謂う。
「『――逸るな、相応しい舞台はいずれ訪れる』って」
「わお、強者の貫禄だね」
「それがつまり、今回の【戦士の狂宴】って訳か」
現在3位の彼だが、過去の【戦士の狂宴】にも参加してこなかった。
だが序列が上がった今であれば、「万年十位」の責務から解放され、その刀を振るうことは十分考えられる。事実告知では参加メンバーとして名前が挙がっており、それが多くの話題や噂を呼んでいる。
「ん? ちょっと待て、何となく強いのは分かったがなんで3位にいるんだ?」
「え、いやなんでも何も……ねぇ」
「ええ、文句のつけようもありませんわ」
今までの話からすると、エミット達も対戦したことはないはずだ。
にもかかわらず、3位という位置にいる。ストリックの疑問に、ヤムとエミットが顔を見合わせる。そして、衝撃の発言が飛び出すのだった。
「彼は当時3位の【五月雨式】リュウレイ=イサヤを倒しているのよ」




