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16話:戦士の狂宴-前夜祭①

 【戦士の狂宴(ウォーリアフィースト)】の開催が近くなると、街が活気づく。


 冒険者のトップ集団"十拳"が一堂に集う、年に一度のお祭りともなればそれも当然だった。数週間も前からチラシ配りや告知が大々的に行われ、街のムードも徐々に高まってきている。


 屋台を開く料理人や商人、旅人そして冒険者。


 物見珍しさや出稼ぎ、敵情視察……様々な目的はあれど、それほどまでに多くの人々が世界最高峰の闘いを見ようと集結するのだ。


 そんな街の喧騒を邸宅から眺めるのはクシャーナ達。


 いよいよ目前に【戦士の狂宴】を控えた彼らは、エミットの邸宅へと()()()()()()。窓からぼーっと眺め、人の数を数えているクシャーナ。自慢のティーセットを出し、優雅に寛ぐエミット。魔術書を読み漁るセミテスタ。訓練場で剣を振るうストリック。ソファーでスヤスヤと眠るヤム。


 今ここにいるのは、その5名だった。


「……ったく、この時期になるとおちおち街にも出れねぇ」

「あ、おかえりー」

「すぐ人に囲まれちゃうしね。別に気にしないけど、ちょっと身体鈍っちゃうかも」


 シャワーでも浴びてきたのか、ラフな格好のストリックが戻ってくる。


 魔術書から顔を上げたセミテスタが迎え、クシャーナもそれに続く。彼らはまさしく【戦士の狂宴】の主役。束縛を嫌う彼らは人の目を避けるため、直前までダンジョンに籠る計画を立てていたのだが、エミットに捕まり今に至る。


「いい加減諦めなさいな。万全な状態で臨むためにも、ギルドからきつく言われてますの」

「お前は私の親か……言われなくても始まるまでには戻ってきてたわ」

「セミテスタはまだしも、あなた達二人は全く信用できませんわ」

「はは、照れるね」

「いや、クシャーナそれ別に褒めてないよっ!?」


 ぼやくストリックにピシャリと言い放つエミット。


 クシャーナは計画性がなく気付けばいなくなっていることが多い。ストリックも似たようなものだ。お目付け役のセミテスタもそれに面白がって付いていくので、今回はエミットが手綱を握った形だ。ギルド的にも癖のある冒険者達の相手は、同じ冒険者に任せることにしたのだろう。


 やれやれと頭を抱えるエミットは、今回ここに彼らを集めた、()()()()()()()にも触れる。


「それはそうと……あなた達、今の序列を正確に把握してますの?」

「ああん?」


 "十拳"には序列制度が存在する。


 月に一度行われる入れ替え戦で、その序列を賭けて前後の相手と戦うのだ。基本的には下位からの申請をギルドが受理し、上位へと打診を行う。だが冒険者達は自由だ。好き勝手ダンジョンに潜ったり、平気で旅に出ることもあるので、このマッチング機会が実はなかなか限られてくる。


 それでも立て続けに入れ替え戦を拒めば、当然その座を失う。


 割と綱渡りなシステムではあるのだが、冒険者達もそれぞれ"十拳"に入った理由を持っている。強さを追い求めるもの、特権を求めるもの、お金を求めるものなど様々だ。その利害関係で成り立っている部分もあるので、不戦敗の連続で資格を失う冒険者は、意外にも少なかった。


 ただそれが他の冒険者への興味には、必ずしも繋がらない。


「そんなの上さえ分かってたらいいだろ」

「最近はストさんの挑戦しか受けてないからなぁ」


 冒険者序列1位と2位が、この有様である。


 彼らは誰もが自分自身を最強と信じて疑わない。相手の研究よりも自己の研鑽。全てがそうとは言わないが、大部分がそういった人種なのは間違いなかった。


 予想通りの答えに、エミットがため息を吐く。


「今まではそれでよかったかもだけど、今回は知っておいたほうがいいかもよー」

「なんだ、ヤム。お前何か知ってるのか?」

「むしろ知らないほうがびっくりだよね~。実際今けっこうすごいことになってるからね。聞いたらびっくりすると思うよ!」

「へぇ……セミちゃんがそういうなら、俄然興味湧いてきた」


 いつの間にか起き上がってきたヤムも加わり、話は進んでいく。


 "十拳"の入れ替えで、大きく序列が変わったのはここ数年の流れ。新星と呼ばれたクシャーナを筆頭に、ここにいる5名は立て続けに名を上げ、"十拳"へと新たに加入していた。しかし、その新星達が実力を示す中、新たな世代が到来しようともしている。


 話が盛り上がってきた中、エミットが話題を振る。


「試しに聞きますけれど、私達3人の今の序列は分かりまして?」

「えー…………エミット3位、セミちゃんとヤムちーは5、6位とかじゃないの」


 話を振られたクシャーナが、分かってる組のエミット達を見ながら答える。"十拳"の面子はいずれも強者揃いだが、上位常連ともなるとある程度候補が絞られてくる。


 続けて話すストリックの答えも似たようなものだった。


「正直オルゲートのおっさんとエミットが上位3か4、テスタとヤムはそれに続く感じだろ?」

「わお、ほんとに知らないんだねー」

「ね、けっこうニュースになったのに」


 二人の答えはどうやら的外れだったようだ。


 セミテスタとヤムが顔を見合わせ、信じられないといった様子で煽る。青筋を立てたストリックがセミテスタを捕まえようとする前に、エミットが1枚の洋紙を机にバンッと置いた。


「これが最新版の序列ですわ」

「どれどれ……」


 クシャーナとストリックが覗き込む先に、その答えは映っていった。


 1位:【瑠璃色蝶(ラピスラズリ)】クシャーナ=カナケー

 2位:【灰掛梟(グレイオウル)】ストリック=ウラレンシス

 3位:【放浪武者(サムライ)】スカル=ゾゾン

 4位:【五月雨式(ソードレイン)】リュウレイ=イサヤ

 5位:【天変地異(カタストロフ)】エミット=アルグレカ

 6位:【緑牢亀(テストゥードー)】セミテスタ=ケアー

 7位:【駆逐要塞(デストロイヤー)】オルゲート=フュリアス

 8位:【逆十字(アンダークロス)】テレサ=スー

 9位:【舞踊姫(マイヒメ)】ヤム=ソーア

 10位:【雷獣(ビースト)】ハクマ=シダン



 しばらくそれに見入った二人は、口々に感想を漏らした。


「うわ、知らない人が3人もいるよ」

「ああ……だが一番の問題はそこじゃねぇ。なんで『万年十位』が3位にいやがる!?」

「まあそうなりますわよね」


 新星達に刷新された"十拳"に、新たな世代が迫る。


 その世代は"新星"を喰らう"化け物"として、今大きな注目を浴びていた。

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