15話:迷宮探索アフター②
優雅なティータイムの中、時間がゆっくりと流れる。
エミットも話したいことを話せたのか、どこかスッキリとした様子だ。そんな彼女はふと思い出したかのように、クシャーナに向けて声を掛ける。
「それで、あなたはどうなんですの?」
「んん?」
お茶請けにと用意した菓子を頬張るクシャーナが、変な声を上げる。
元々遠慮もない性格だが、まるで年下の子供みたいだ。こんな姿はこういった時にしか見れないのだろうと、ぼんやり思う。それで別に私情が入ることはないのだが、改めて強引にでも誘ってよかったと思うエミットだった。
「別に話したくない過去や出自を詮索する気はありませんわ。でも、例えば呪具に執着する理由とか……とにかく、冒険者のトップを走る人物がどんな人か、単純に興味がありますの」
「あー…………」
目を輝かせるエミットに、クシャーナは気の抜けた返事をする。
クシャーナの強さや秘密を暴こうとした質問ではない。強さだけでなく、人となりも評価できるのがエミットという女性だ。つまりは、本当に言葉通りの意味なのだろう。クシャーナとしても、自分を曝け出した彼女に応えたい気持ちもある。
だが、呪具にまつわる話をするならば問題がある。
過去のこと、つまり奴隷時代の話が出てくることになるのだ。別にエミット相手が嫌という訳ではないが、やはり当たり前のように気軽に話す過去ではない。少し悩んだ結果、クシャーナは呪具について語り出した。
「呪具は……なんというか、私みたいでほっとけない感じ?」
「なかなかこう、独特な言い回しですわね……続けて?」
まるで意中の相手の話をしているようなフレーズが飛び出す。
これはストリック達にも言ったんだけど、と前置きをして続きを語るクシャーナ。曰く、呪具はデメリットや悪用されるリスクなどから、いいイメージを持たれない魔道具である。ただ道具に善悪はなく、結局は使い手次第。それに知ろうと思えば、呪具も面白いことがたくさんあるという。
「『鑑定』できるのは前聞いたよね」
「ええ、呪具限定とか珍しいですけど、有り得ないスキルではありませんわ」
鑑定スキルはその名の通り、アイテムを鑑定できるスキルだ。
この鑑定スキル持ちは珍しく、冒険者以外となると大体がギルドにスカウトされる。魔道具や武器の性能、ドロップ品の名称や効果など、結局それが分からなければ宝の持ち腐れ。それを判定できるというのだから、引く手あまたなのは当然だった。
「呪具限定だからか、その効果が発現するに至った経緯も分かるんだよね」
「……それはまさか、普通のアイテムが呪具になった、ということですの?」
「エミットすごいね、大正解」
呪具の認識は、呪われた魔道具。
それは間違いないのだが、より正確に言うのであれば「最初から呪われた」魔道具である。後付けではなく、元々そういう装備という認識が一般的なのだが、それをクシャーナは平然と否定したのだ。
「ほら、例えばこれ見て」
「これは……『純然たる悪意の指輪』ですわね」
にわかに興奮するエミットに、クシャーナが頷く。
固有スキル:呪物操作の一スキル『鑑定』で、その指輪を見る。すると鑑定スキルを使用とした際に出る「詳細ウィンドウ」が立ち上がる。それを二人して覗き込むと、性能などの記述の下に、呪具にまつわるテキストが記されていた。
『元はダンジョン内で見捨てられたヒーラーが身に付けていた、神聖力を高める指輪。その怨念からか、狂気を吐き出す指輪へと堕ちた。ヒーラーの光魔法で解呪可能』
その詳細を見ていたエミットが唸る。
「これはちょっと衝撃ですわね……呪具に解呪が効くなんて」
「当然物にもよるけどね。こういう使用者も同じ効果で蝕むタイプの呪具は、案外解呪可能だったりするんだよ」
呪具の成り立ちに理由あり。
そう説明するクシャーナの言葉に、一つ一つ頷いて返すエミット。今までガラクタと見向きもしなかった呪具の、新たな世界が見えてくるようだ。これでもしデメリットを打ち消せるようであれば、それを熱心に収集する意味も分かる。
「あー……メリットデメリットがはっきり違う効果を持つ呪具は、その類とはまた違うんだよ。あれはそれこそ、そういう物って感じ」
「あら、そうですの。でも確かに……面白いですわね」
「お、分かってくれる?」
魔道具と冒険者の関わりは深い。
お金や強さ、便利さを求める際にも必要だが、その成り立ちや仕組みにときめく知識欲というのも、人間が持つ欲求だ。話の分かる相手を見つけて、クシャーナもご満悦だ。
「この『純然たる悪意の指輪』にしても、上手く頻度を守って使えば狩りには有用だよ。解呪してヒーラーの装備として運用してもいいし」
「まさに使い手次第、ということですわね」
クシャーナの言葉を引用し、茶目っ気のある顔で返すエミット。
その後も呪具談義は続き、二人は交流を深めていく。時にはエミットの知識量に驚きながらも、クシャーナの呪具愛は止まらなかった。そして満足いくまで語らった後、クシャーナはおもむろにエミットにポツリと漏らす。
「呪具ってさ……日の目を見ないのが、私っぽくて」
「クシャーナが……?」
「うん、だからきっとそういう面もあるんだと思う」
クシャーナが呪具を集める理由。
エミットの知るクシャーナは、疑うこともない冒険者のトップ。人に囲まれ、栄光に包まれている彼女は、誰に聞いても成功者としか言われないだろう。それでも過去は決してなくならず、彼女の中に確かに存在するのだ。
「呪具自体に罪はないよ。……それでも誰も手に取らない。まるで存在すら許されないみたいに」
「クシャーナ……」
俯き喋るクシャーナの言葉に、ただ引き寄せられる。
「だから、私が見つけに行くんだ。見てる人もいるよって。作られた、生まれた理由があるんだよって。それが…………私が、呪具に執着する理由かな」
泣きそうで切ないほどの感情を裏に秘めた、ぎこちない笑顔。
その時のクシャーナの顔を、エミットは決して忘れないだろう。その静かな感情の吐露に圧倒されていたエミットだったが、しばらくしてようやくクシャーナが自分の質問に真摯に答えてくれたのだと気づいた。
「ありがとう、クシャーナ」
自分を認め、初めて話してくれたであろうことが、素直に嬉しい。その気持ちを嘘偽りなく込めたエミットの言葉は、どうやらクシャーナにもちゃんと届いたようだ。
「あー、いや、うん。なんか最近ちょいちょい変なスイッチが入って困るね」
「ふふ、それはきっといいことですわ」
そうかなーと頭をポリポリ掻くクシャーナ。
珍しく照れているらしいが、これで逃がしてやる気はない。クシャーナ相手に主導権を握れるのはそうはないと、その後もエミットの追撃の手は緩まないのだった。
評価、ブックマーク登録などよろしくお願いします!




