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13話:呪具が誘う迷宮探索⑦

 カラン――と乾いた音がダンジョンに響く。


 それがモンスターとの死闘が終わった合図だった。


「……あーっ、くそっ! 地味に疲れたな」

「私は派手に疲れたよ~~」

「5人いてこれは、なかなかだったねー」


 ストリックが悪態を付き、セミテスタが地面にへたり込む。


 ヤムも疲労を隠せていなかったが、目立った負傷はないようだった。体を伸ばしながら、駄弁るストリック達の輪に入っていく。それを少し遠目に眺めるのはエミットとクシャーナ。その眼には彼らの他に、四方八方に飛び散ったスライムの残骸が映っていた。


 《スワローウェポン・スライム》との耐久レースの結末。


 それは大きなどんでん返しもなく、クシャーナ達が削り切って終わらせていた。モンスターや冒険者を狂気に陥れ、「ユニークモンスター」にまで上り詰めたが、結局最後は相手が悪かった。


 肥大化してより強固になったスライム特有の耐久力と、呪具による精神汚染。数々の戦闘をこなしたことで得た『斬撃耐性』や『魔法吸収』などのスキルの数々。そこらのパーティーであれば、例え徒党を組んでいたとしても全滅も有り得た話だ。


 だが相手は冒険者のトップ集団。


 その戦闘能力もさることながら、呪具を無効化する糞装備マニアがいたことが、《スワローウェポン・スライム》の不運だった。耐久戦になれば呪具の効果はより影響力を増し、やがては自滅に導かれる可能性もあった。それは"十拳"と言えども例外ではない。


 スライムの身体が弾けた先で、クシャーナが何かを拾う。


「あら、それは……」

「うん、これが呪具『純然たる悪意の指輪』だよ」


 近づいてきたエミットにも見えるように、顔の前にかざす。


 細かい装飾こそあれ、それは何の変哲もない指輪と変わりないように見える。それでも一度はめてしまえば簡単には取れなくなる、れっきとした呪具だ。嫌がるエミットにぐりぐり近づけるクシャーナ。彼女の固有スキル:『呪物操作』があれば、その効果の『無効』は可能だ。


 ただ安全とは分かっていても、それで割り切れるものではない。


 能天気なセミテスタやヤムなどは、ほいほいと釣られて触っていたが、ストリックやエミットは決して近づこうとはしなかった。そして、次に始まったのはドロップ品の回収。通常モンスターは討伐されても、死骸はその場に残る。ただスライム系の場合は、その種類に沿ったジェムを落とすのだった。


「『魔封石(まふうせき)』……通常ドロップに比べると大きいですわね」

「あれだけでかいと『ユニークモンスター』扱いだろうしなぁ。報酬が割に合わねぇとやってられねぇよ」


 拾ったジェムの品評を始めるエミットとストリック。


 『魔封石』とは《スワローウェポン・スライム》を倒すとドロップするアイテムだ。装備品を呑み込みコピーする特性からか、魔法を蓄える宝石を落とすのである。それはアンティークよりも実用性に富んでおり、魔法が使えない前衛職が保険に持つ分には優秀だった。


「わっ……このドロップ品はレアじゃない?」

「なになに……『呪封石(じゅふうせき)』? ほんとだ見たことないやつだ」

「だよねだよね! というか、クシャーナ分かるの!?」

「あはは、これでも『鑑定』持ちだからね。呪具専用だけど」


 こちらでは変わったドロップアイテムが見つかったようだ。


 「ユニークモンスター」として昇華されたモンスターは、特有のアイテムを落とす場合がある。今回はどうやらそれに該当するらしく、セミテスタが驚きと共に声を張り上げている。魔法ではなく呪具の効果を取り込むとは、実に忠実な効果の再現だった。


「んじゃま……それはクシャーナの取り分だな」

「え、いいの?」

「元々あなたが引き受けたクエストでしょうし、私達はついでですわ」

「そーそー、あっでも散らばってる金貨とか、ほかのドロップ品は分けていいかな?」


 テキパキと後処理を始める面々。


 モンスターを倒した後の取り分の分け方は、パーティーにより異なる。一つ間違えるとパーティー崩壊にも繋がるため、本来は事前にかっちり決めておくものだ。ただこうした臨時パーティーも多く経験している彼らは、何を立てるべきかは暗黙の了解のように知っていた。


 それはずばり、この討伐において一番功績があった人だ。


 功績と言う点では、メイン火力として一番貢献度が高そうなのはエミットだ。そのことをクシャーナは主張するも、エミット始め、他のメンバーは首を横に振るだけだった。結局のところクシャーナに一番の目玉を譲ることだけは、彼女達の中ですでに決定事項のようだった。


「大人しく受け取っておきなさいな」

「クシャーナの呪具無効がなければ、どうなってたか分かんないしね~」

「……そっか、ありがとう」


 階層ごと狂気に支配されかねない、危険な事態だった。


 それを大きな被害が出る前に食い止められたのは、間違いなくクシャーナのおかげだ。特異な案件ではあったが、ギルドもいい人選だったと言えよう。


「さて、いい加減帰るか」

「さすがに皆『帰還の羽』使って帰るよね? ない人いる~?」

「今からの帰り、歩きは絶対ヤダー-!」

「冒険者たるもの、備えは万全ですわ」


 報酬の分配を終えた面々は、ストリックの号令で帰り支度を始める。


 『帰還の羽』とは魔道具の一種で、それを使えばダンジョンの入り口まで戻れるという、便利な帰還アイテムである。羽ペンのような形をしており、冒険者であれば一つは常備しておくべきアイテムだ。ただ需要が高い割には供給が少なく、使い切りで値段もそれなりにすることから、駆け出しから初級の冒険者は持っていないことも多かった。


「ふふ、帰ろっか」


 思わぬ死闘となってしまったが、終わりよければ全て良し。クシャーナはうんと背伸びをし、光に包まれて帰還するパーティーの後を追うのであった。

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