12話:呪具が誘う迷宮探索⑥
呪具を取り込んだ、件の《スワローウェポン・スライム》。
クシャーナ達は分裂した同種のモンスターを瞬く間に駆逐し、25階層でその本体を発見した。それは今までの分裂体と比べても明らかに肥大化しており、すでに通常の個体とはかけ離れた威圧感を放っていた。
「いい加減、頭がガンガンするんだよ糞がっ」
「いやー、ストリックは誰が見ても生き生きしてたよ」
「同感~」
「ふふ、最早何かのアトラクションかと思ってたわ」
「あなた達……仲がいいのは良いことでしょうけど、ボスの手前ということ忘れてますの?」
それぞれが好き勝手喋る中、巨大に膨れ上がったスライムがその触手を伸ばす。
《スワローウェポン・スライム》は厄介なモンスターではあるが、俗にいうダンジョンボスではない。しかし冒険者との戦闘を経験し、生き延び成長したモンスターは、通常の個体よりも遥かに強力になっている。
そうしたモンスターは「中ボス」「ユニークモンスター」などと呼ばれる。
討伐難易度が跳ね上がると、実力のある冒険者に名付けられるように異名を付けられる。そしてギルドには高額な報奨金と共に、討伐クエストが張り出されるのだ。そうした有志を募るパターンが一般的だが、今回はギルドに名指しされ、クシャーナが討伐に乗り出した形となっていた。
"十拳"ともなると、そうした非公開の任務も任されるようになる。
一種の義務のようなものだが、呪具への関心度からか、クシャーナの行動は早かった。呪具の効果を『無効』にできるクシャーナこそ、最適な人選だったのは間違いない。ただ増殖のスピードからいって、ストリック達の助けがなければ、クシャーナとて苦戦していた案件に違いなかった。
「おらっ! さっさとくたばれよ!」
「流石にこの大きさだと、核まで遠いね~」
鞭のように振るわれる触手を躱し、時には切り刻んで対応するストリック。その隣では無数の岩棘を打ち出し、攻撃と防御を器用にこなすセミテスタの姿もある。彼らでさえ攻めあぐねる理由、それはスライム特有の耐久と粘着力のある身体が理由だ。
まず、スライムは決して弱くはない。
スライムのような液状のモンスターは、大体の場合中央付近に核が浮いており、それを破壊すれば生命活動を停止する。逆に言えばそれさえ無事であれば、決して倒せないモンスターとも言える。肥大化した体積はそのまま何重もの防御層の構築と、攻撃手数の増加に繋がる。
スライムの強さは、その大きさで決まると言っても過言ではないのだ。
「わわっ!?」
業を煮やし前のめりになったヤムの脚に、触手が絡まる。
そのまま宙吊りにされるヤムを救ったのは、後方から放たれた炎弾。火魔法を得意とする、エミットからの援護射撃だ。小型のスライムであれば、手練れの近接職が後れを取る理由はない。だが肉厚で弾力のあるボディは、今や『斬撃耐性』すら備えていそうだった。
「ごめーん! ありがとうエミット!」
「こういうデカブツ相手は、魔術師の独壇場でしてよ!」
立て続けに放たれた炎弾で、スライムの身体にいくつもの穴が穿たれる。
身体に絡まり、武器に絡まり。近接職の冒険者にとって、粘着質の身体は非常に厄介だ。その点、魔術師はわざわざ触れる必要がない。巨大な身体でさえも格好の的である。
しかし、知恵を付けたモンスターの動きは速い。
執拗にエミットへの手数を増やすことで、大技の行使を阻害しているようだ。
「全く、やりづらいですわね! ――『エル・グレンカ』!!」
「――――!!!」
詠唱を飛ばした魔法、無詠唱の一撃。
エミットほどの使い手となれば、それだけでも驚異的な威力を誇る。まるで巨大な炎の華が咲き誇るように、《スワローウェポン・スライム》の身体を包み込む。
「おー、燃えてる燃えてる」
「……ったく、できるなら最初からそうしとけよ」
ストリックの物言いに、エミットの眉がややつり上がる。
「それはあなた達が近場でウロチョロしていたからでしょう? 一緒に燃えても文句言わないのであれば、すぐにでもできましたのよ?」
「はっ……誰がそんなウスノロ魔法当たるか」
「あら、試してみましょうか?」
「ちょっとちょっと! 内輪揉めしてる場合じゃないって!」
以前から衝突の多い二人ではあったが、彼らは相変わらずだった。
慌ててヤムが仲裁に入るのもいつものことだったが、その衝突は奇しくも振り下ろされた触手によって阻まれた。即座に散った面々は無事だったが、その巨体を見上げ思わず舌打ちをする。
「わお、タフだね」
「……というかあいつ、炎飲んでないか?」
「能力コピーの要領かなぁ……流石に炎まで使えるようにはならないよね?」
「効いてないわけではないようですわ。心なしか小さくなった感じがしますし」
「削れるまで繰り返しかー」
そこには炎に悶えながらも、未だ健在な《スワローウェポン・スライム》の姿がある。流石にユニークモンスタークラスに昇華した存在ともなれば、一筋縄ではいかないらしい。
それでも勝ち筋は見えた。
ストリックは多少文句がありそうだったが、近接職は触手の撃ち落しに回り、魔法職のサポートをするのが正解だろう。呪具の効果はクシャーナが抑えている以上、攻め方を間違わなければ仕留めきれない相手ではない。
「それじゃ、もうひと踏ん張りしよっか」
クシャーナの軽い号令で、彼らは再び動き出すのだった。




