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119話:見えた未来

 クシャーナとシャルが落ち着いた後、雑談交じりに現状把握をしていく。


 各地で起こった激戦で倒れた仲間達。


 それでも彼らはそれぞれの地でやるべきことをやり遂げ、ストリックをここまで導いた。【北側】から【東側】そして【西側】、最後に【中央】と各地を回った彼女も全てを把握している訳ではなかったが、誰一人欠けてもここには辿り着けなかったと、はっきり言える。腕に巻く魔道具『魔触手の千里眼』からは、クシャーナ奪還に沸く歓声と、ゾンビ掃討の報告が相次いでいた。


「よかった、じゃあみんな無事なんだね」

「無事の定義は人によるが……まあ死んではないな」


 無事という言葉に、若干言葉を濁すストリック。


 黒焦げになったり、魔力を酷使したり、腹を貫かれたり。致命的な呪術をまともに受けてなお暴れた戦士もいる中で、どいつもこいつも真面じゃねぇなと、他人事のようにストリックは振り返る。イルルを打倒し、続けざまにミーコを倒すも、突如出現した影の塔と真の姿を解放した彼女によって、多くの戦士が倒れた。そんな彼女も今は【西側】で大人しくしているというのだから、クシャーナは驚かされてばかりだった。


「あれ、じゃああとの二人は?」

「それなー……そろそろ来そうな気もするが」

「ふふ、呼んだかい?」


 和やかな雑談にぬるっと入り込んだのは、残りの二人のうちの一人。


 全く嫌な顔を隠さないストリックは、呼んでねぇボケ死ねと、様々な罵り文句で彼を迎えた。まさしく諸悪の根源、今回の全ての元凶である死霊術師、【潜むもの】統領ハイロ=ナインソウル。殺しても殺しても湧き出てくる彼は、まさに悪夢を具現化したような男だった。クシャーナが目覚めた今、彼の計画は失敗したと言っていいが、彼の執念がそれで途切れる訳ではない。


「私……というよりかは、シャルかな」

「そうだね。多くの手駒を失った僕に、今更君との再戦は無理だ。それでもシャルの未来に関しては、そう間違っていることを言っているつもりはないよ」


 冷静に戦力差を見極め、白旗を上げるハイロ。


 その目に映るのは、今はクシャーナではなく神器:【究明の氷杖エデンアイス】であるシャル。魂を使役する死霊術師とはいえ、彼と神器持ちの関係は良好だった。シャルの身の回りに起こった悲劇を引き合いに、ハイロはシャルに共に来るように訴える。対するシャルの警戒心は強く、クシャーナの影に隠れて出てこない。


「今だけの情で未来を決めるべきじゃないだ、シャル。僕は君を戦力として見るが、対等な友、家族としても見ている。イルル、ミーコ、ギルガメイジュ……彼らとは魂の契約をしているが、誰一人として何かを強制したことはない。全員、自分の意思で僕に付いてきてくれたんだ」

「はっ……そんなのなんとでも言えるだろうが」


 ハイロの訴えかけるような演説を、ストリックが切って捨てる。


「それは私もそう思うよ」

「おいっ、クシャーナ!?」

「だからさ、ここからは……シャル自身が決めないといけないんだ」


 ハイロにまさかの賛同を示したクシャーナが、隠れるシャルを前へと押し出す。


 捨てられた子猫のような視線をぶつけるシャルだが、それには首を振るクシャーナ。シャルは一人の子供である前に人知を超えた存在、神器である。人の営みに自然に溶け込むには、あまりにも大きな障害がある。もちろんその力がハイロに悪用されるとなれば、それを許容することなどできない。だが、その前にあるのはシャルの気持ちだ。今後を、未来を踏み出すのは、どうしても彼女の脚に委ねないといけなかった。


 ハイロとクシャーナの中央まで、トボトボと歩き立ち止まるシャル。


 俯いてしまったシャルに掛ける言葉を、クシャーナは持ちえていない。魂同士で語り、既に自分の気持ちは伝えてある。不安なシャルに掛ける言葉が、彼女を惑わす言葉になってはいけない。信じて待つクシャーナを余所に、積極的に話しかけるのは反対側。ハイロは勝機と見たのか、神器として着飾らず生きれる道を示す。


「僕とくれば、君は神器のまま生きられる! ()()()()()()()()()()()()、結果はどうだい? 君の力は、常人には受け入れられないんだ。こっちに来るんだ、シャル!」

「…………っ!!」


 ハイロは、シャルがいた小国の末路を知っている。


 彼の言うことは正しい。神器の強大な力は、必ず人を狂わせる。守りたかった人、守れなかった人。愛した人の顔が、愛してくれてた人の名前が、叫んでも届かなかった声が、シャルの胸の中で渦巻いていく。一歩、また一歩と俯いたまま、シャルはハイロの元に足を踏み出す。勝利を確信したハイロは、その場で両手を広げて待ち構える。


 彼の言うことは正しい。


 だが、唯一つ。人の心を持たない彼は、致命的な地雷を踏み抜いていた。


「この髪は…………」

「うん?」

「このっ! ()()()()()()()()()()はっ! アルフレドとリーリャが褒めてくれたっ! 私の証だ……っ! それを、馬鹿にするなぁあああああああああ!!!!」


 最初は、ただただ真っ白だったのだ。


 雪のように解けて消えてしまいそうだった彼女は、一人の男と女に拾われた。彼らが一国の王と妃だったことなど、どうでもよかったのだ。王族に似合わず、幼い庶民の子供とも遊ぶような無邪気な王様。側近にはその都度苦言を呈されていたが、彼は豪快に笑うだけだった。そんなある日、近所の子供にシャルのことを聞かれた二人は、全く同じタイミングで「私達の子供だよ」と言った。


 その瞬間、彼女は色付いたのだ。


「おいで、シャル!」


 一瞬で氷漬けにしたハイロを討ち捨て、シャルは声の方へ。涙を流し飛び込んだのはクシャーナの胸の中。父と呼んだ、アルフレドには脈打ち熱を持つ心の温かさを。母と呼んだ、リーリャからは美しい髪色を。そして、魂を通わせたクシャーナからは、透き通るような蒼い瞳をもらったのだ。


「これが、私達の答えだよ」


 神器:【究明の氷杖エデンアイス】を振りかぶる。


 真に神器の使い手となったクシャーナは、氷に囚われ表情も変わらないハイロを、鋭利な先端で細切れにした。後に残るのは、光に照らされて幻想のように映る氷の結晶だけ。これが、クシャーナとシャルが出した答え。人ならざる身で、()()()()人との共生を望んだシャルの手を、クシャーナはもう掴んで離さない。


「お、おいっ!?」


 神器から子供姿に戻ったシャルを抱き抱えながら回り、地面にすっ飛ぶ勢いで転がり込む。慌てて覗き込みに行くストリックの目には、空を見上げて笑う、二人の笑顔が飛び込んでくるのだった。

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