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116話:神を討つ刃

 ハイロの策略により、戦うステージは分けられた。


 刀と槍がぶつかる甲高い音と共に、火の粉が舞い散る。


 神器の火力とギルガメイジュの怪力に襲われたスカルは、闘技場を打ち破り外まで弾き出されていた。彼女が単身仕掛けたということは、ハイロがフリーになっているはずだが、そちらを狙う隙は与えてくれない。何より神器持ちとの一対一など、"十拳"に連なる猛者であっても勝機は薄い戦いだった。


「いつまでそんな()()()()を使っているつもりだ?」

「…………」


 何度目かの切り結びを経て、ギルガメイジュが吐き捨てるように言い放つ。


 彼女の怒りの矛先は、スカルが手にしている刀に向いている。よく手入れのされたその愛刀は、灼熱の矛である神器:【煌炎の天槍ソールハスタ】を受けても、溶けたり欠けたりすることはない。それだけで最上級の武器と思われたが、直接やりあった彼女の意見はどうも異なるらしい。


「その硬度は認めよう。だがそれだけだ。強者には強者に相応しい武器というものがある。妾の神器のようにな。それを貴様は……」

「敵を前にお喋りとは感心せんな」


 言葉を遮り放たれるのは、神速の刃。


 それだけで必殺となり得る威力を秘めていたが、ギルガメイジュは最早ガードすらしようとしなかった。スカルの斬撃を阻んだのは、神器が展開した灼熱の結界。ぼこぼこと表面がマグマのように沸騰する中、異物を取り込み燃やし尽くさんとスカルの刀が沈む。とっさの判断で引いたその刀は、刀身が熱で赤く染まり、焦げ臭い匂いが立ち昇っていた。


「貴様は今まで業で斬っていたに過ぎん。だが神器の力の前では足りぬ。重ねて言おう、相応しい舞台には相応しい武器が必要なのだ。他にないのであれば、ただ燃やし尽くすのみ」

「…………」


 妾を滾らせろ、と敵を前に演説するギルガメイジュ。


 腕組みをし仁王立ちする彼女は、どうやら本気でスカルと真剣勝負がしたいようだ。もちろん今まで手を抜いたことなどないのだが、武器のスペック差が癇に障って仕方ないらしい。神器と比べるとどんな武器もかたなしだが、これがクシャーナの呪剣『トリステスアイル』やオルゲートの終戦斧『ソウルアイゼン』であれば、彼女も問題にしなかっただろう。


 それだけスカルの持つ刀は、硬度だけの棒に過ぎなかった。


「随分と饒舌なものだ。お前が一番に求めるのは勝利ではないのか?」

「ふん、それは()()()だな」


 戯れに始まった会話は、思わぬ方向に進んでいく。


 彼女はハイロに従う神器持ちの中でも一番忠誠心があり、誰よりも彼に近い。彼の右腕と言って差し支えない存在が、勝利は二の次だという。周到に計画を組み、ゴールを目前に控えた中での裏切りとも取れる発言。押し黙り真意を測ろうとするスカルの様子を一瞥し、彼女は真の望みを口にした。


「妾は、武人として死にたいのだ」



 *



 神器:【煌炎の天槍ソールハスタ】。


 それは2000年以上に渡り栄華を極めた、古代ヘリオス帝国の守り神であった。


 ギルガメイジュはその一時代を築いた帝国の中で、時の皇帝の第三皇女として生を受けた。彼女は生まれながらに病弱で、幼少期の多くをベッドで過ごした。彼女が部屋から出ることを許されたのは、兄妹である皇子たちの模擬戦の時ぐらい。古代ヘリオス帝国は代々男が王として君臨し、武勇に優れたものが選ばれてきた。


 その一つの基準が、神器を操れるかどうか。


 黒に染まった細長い槍はまるで粗末な棒のようであり、見た目だけで言えばそんな大それたものにはとても見えない。しかし資質を認められたものが握ると、穂先が分かれ太陽の輝きを燦々と放つ刃を生み出すのだ。もっとも長い帝国の歴史の中においても、神器を十全に扱えたものは居らず、棒立ちのままちょっと突き出た太陽の穂先を維持するだけが精々であった。


 そんな中、戯れに兄が持たしてくれたそれが、彼女の転機となった。


 もちろん皇族の中でも軽々しく触れれないものではあったが、病弱な妹のため、神器のご加護をという兄からの提案でそれは実現した。恐る恐る触れた先、手に吸い付く感触と共にその穂先は眩いばかりの輝きを示した。そこからは実の兄との政争や、他国への遠征など様々あったのだが、彼女は最初で最後の女帝として君臨し歴史に名を残したのだ。


 つまらん過去だ、と吐き捨てるギルガメイジュ。


 その話は、ベッドの上で終末を迎えた老女の最後で締めくくられていた。神器に選ばれた彼女は病弱な身体が嘘のように健康体となり、武人としても開花した。激動な人生を送った彼女だったが、こと戦いにおいて彼女の右に出るものは居らず、彼女の望みは命散るまで叶わなかった。


 しかし彼女は戻ってきた、この現代に神器と共に。


 聞けば彼女の望みはハイロとも共有されており、それが何よりも優先されることも承知の上だという。つまらん詮索をする暇があるなら戦う気概を見せろ、神器を構え直しそう吠えるギルガメイジュ。流石にもう待ってはくれなさそうだと悟ったスカルは、徐に口を開く。


「……『武器の墓場』と呼ばれたダンジョンを知っているか?」

「なに……?」


 昔話の礼だとばかりに、スカルも語り出す。


 そこは武器を持つ種族のみが出現する、特異なダンジョン。


 《スケルトン》、《リザードマン》、《ミノタウロス》などなど、見知ったモンスターのオンパレード。しかし彼らの種族は異なり、本来は同じダンジョン内に生息することはほとんどない。そんなダンジョンには、剣の腕を試そうと多くの剣士が詰めかけた。浅層こそ難易度は他のダンジョンと大差はなかったが、階層を潜るほどその認識は徐々に通用しなくなっていった。


「やつらは倒した冒険者の装備を剥ぎ、自らを強化していった。【暗視のスケルトンアーチャー】【隻眼のリザードマンエリート】【激槌のミノタウロス】……くくっ、今ではどれも懐かしい響きにしか聞こえんがな」

「待て、話が見えん。いったいお前は何の話をしている」


 愉悦が抑えきれないと、スカルが肩を震わせる。


 困惑するギルガメイジュにも構わず、スカルは話し続ける。評判を聞きつけた孤老の剣士が、人生の終着点として選んだダンジョン。剣の腕を追い求めてきた老剣士は、最後は戦って死ぬことを決めていた。食糧も宿泊道具も持たず、あるのは研ぎ澄まされた魂と使い古された剣のみ。一つの剣となった男はひたすら斬りに斬り、気付けば誰も辿り着けなかった最下層、ボス部屋へと到達していた。


「……男の挑戦はそこで終わり、確かに一つの命は潰えた。だが何の因果か、男を蘇った――()()()()()()

「やはり貴様は――」


 何か言いかけたギルガメイジュが、咄嗟に距離を取る。


 気圧された、その事実に神器を持つ手に力が入る。刀を鞘に納めたスカルから得体のしれない圧を感じるが、同時に今までにないほどの高揚感も沸き上がってくる。ああ、貴様は妾と同じだ――スカルの語りに最早興奮を隠せないギルガメイジュに反応してか、神器:【煌炎の天槍ソールハスタ】の柄が脈動し、その穂先が眩いばかりの光を放つ。


「待ったかいがあったというものだ……!!」


 目を見開き、垂涎の表情を浮かべるギルガメイジュ。


 対するスカルの刀から漏れ出すのは、戦いの輪廻に囚われた猛者の怨霊か。まるで斬れない刀は、力を封印されていた証。一度解放されれば、それは数多の命を呑み込み死の海へと沈めるだろう。そこに剣の腕は関係なく、ただ生者と死者を別つのみ。だからこそスカルはこれを忌避して使わなかったのだが、もういいだろう。お互いすでに命無きもの、気の済むまで場外戦に興じるとしよう。


「啜り尽くせ――『怨念髑髏(おんねんしゃれこうべ)』」


 抜き放ったスカルの刀から、怨霊が一気に溢れ出す。


 それは実体を伴い、眼前の標的へと群がった。灼熱の結界を纏うギルガメイジュに当たっては溶かされていくが、何体かは結界すら食い散らかさんと牙を立て離れることがない。そこからは毒が回るかのように浸食が進み、ボロボロと形が崩れていく。それに怯むことのない彼女は瞬時に距離を詰め、太陽の輝きを突き付ける。


 命すらすでに持たない、不毛な亡者の争い。


 だが、いったい誰が止められようか。命を失ってなお、魂にこびりついた熱が動け動けと訴えるのだ。それは執念を飛び越えてもはや狂気。神器とまともに斬り合うスカルの刀は凄まじい切れ味を誇り、明らかに今までと打ち合う音が違う。それに酔いしれるギルガメイジュの槍裁きが、一層激しさを増す。魂を燃やし、一瞬を駆け抜ける二人は、最後まで全力で生きた。


「――『死海魍魎千手』」

「『サン・ソラーレ』――!!!」


 防御を捨てた、魂の削り合い。


 地獄へと誘う魍魎の手が地面から際限なく湧き出て、全てがスカル渾身の斬撃となって襲い掛かる。それを打ち払うのは、太陽の輝きに守護されたギルガメイジュ。一点突破の玉砕技、全てを凌ぎ切って槍が届けばギルガメイジュの勝ち、届くまでに刃を突き立てればスカルの勝ち。数千年の栄華と共にあった太陽の輝きか、蟲毒で凝縮された人の強さへの渇望か。その勝敗を分け隔てたのは、純粋な戦士の技量だった。


「見事だ」


 スカルに届くまで、あと僅か。


 その距離を踏破することが叶わなかったギルガメイジュは、折れた神器をそれでも振りかぶった。黙する剣士は油断なく構え、最後の一撃を振り切った。真正面からの勝負に拘らなければ、ギルガメイジュの負けはなかっただろう。そもそもの話、光魔法を操る彼女はスカルの天敵であり、神器の力をも加味すれば、彼女はいつでも彼を浄化することができたはずなのだ。


「難儀なものだな、人と言うのは」


 それでも武人としての矜持を貫いた彼女は、ある意味神器持ちの中で一番人間らしかったのかもしれない。数千年に渡る悲願を達成し地に伏す女帝の顔は、安らかな寝顔のようだった。

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