表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/123

114話:シャル

 闘技場の効果復活による、クシャーナの再起動。


 その目論見は期待違わず当たり、目の前にはその結果がある。


 4本目の神器、神器:【究明の氷杖エデンアイス】を持ったクシャーナの目が、彼女を囲む全ての環境に向けられる。クシャーナのことをシャルと呼び合流を促す、死霊術師ハイロと彼の背後に控えるギルガメイジュ。必死の形相で呼びかけるのは反対側のストリック。その後ろには、黙して語らないスカルの姿もある。


「アルフレド……じゃない。リーリャどこ……?」


 声は間違いなく、クシャーナから発せられたものだ。


 だがその声はか細く、まるで迷子の幼子のそれであった。ハイロの放ったシャルという名前に反応を示したものの、目当ての人物ではないと分かると再び視線を彷徨わせる。ハイロの話が本当であれば、シャルと呼ばれる少女? こそが神器:【究明の氷杖エデンアイス】に芽生えた人格なのだろう。しかし、そんな事情は関係ない。


「お前が誰かは知らん。私が用があるのはその身体の持ち主……クシャーナだけだ」


 返してもらうぞ、と息巻くのは武器を前に構えたストリック。


 敵意は発していないが、とても友好的にはなれない。苦労して呼び覚ましたクシャーナの身体は、今別の何かに支配されている。それだけでストリックにとっては許しがたく、可能であればすぐにでも取り戻してあげたかった。そんな彼女がようやく視界に入ったのか、クシャーナの蒼い瞳がある1点に吸い寄せられる。


「なんで……それ……」

「ああ、彼らはいないよ。この世のどこにも、ね」


 まるで計算されたようなタイミングで、一つの答えを被せる。


 その瞬間、闘技場から突き立つのは殺意の籠った氷杭の波。全方位に反射的に発生したそれを、各自散開して避ける。切っ掛けを作ったハイロは、ギルガメイジュの陰に隠れ難なくやり過ごしている。感情的なまでの攻撃は子供の癇癪にも似ており、それが加減もなしに振るわれる。


「くそっ……やっぱ敵かよ!」

「いや、おそらく……原因は耳のそれであろう」


 舌打ちするストリックが全力で避ける中、冷静な声も聞こえる。


 神器:【究明の氷杖エデンアイス】持つクシャーナの目は、今はストリック唯一人を追っている。全てを凍てつかせる氷が地を這い、荒れ狂う氷杭までもが彼女を仕留めんと迫る。神器の出力に抗う術を持たない中、炎を纏うスカルが間に入る。一瞬の膠着状態、『天眼』で狙いを追ったスカルが淡々と事実を突きつける。


「このイヤリングはそこの一味から回収したものだ。目的は、お前が宿っている体の持ち主の解放。それさえ叶えば、我々に敵対する意思はない」

「返せ……!!」

「シャル、騙されてはいけないよ」


 一度傾いた流れを渡すまいと、ハイロも動く。


 スカルの意図を汲み、イヤリングを返そうとしたストリックの足元に熱線が突き刺さる。クシャーナに憑依するシャルに近づくのは、ハイロとギルガメイジュ。依然凍てつく氷の波動を撒き散らす彼女の横に平然と並び立つことで、同じ側だとアピールすることを忘れない。神器や滅びた小国の情報に関しては当然ハイロに軍配が上がり、信憑性でもまず勝ち目がない。


「君の父君、母君のことは残念だった。だが君は神器、人との関わりを望めばいずれは起こり得た惨劇だ。常人は君の横に立つことはできない。だが、神器と共存している僕となら同じ道を歩める。……付いてきてくれるね?」

「うう……アルフレド……リーリャぁ……」


 懇々と説くハイロの横で、再び涙目になるシャル。


 どの口が言うのかと、胸糞悪いという表情を隠さないストリックだったが、そこに挟める口はなかった。今までの会話の流れから察するに、シャルが呟く二人の名は滅んだ小国の王と妃であろう。彼らは神器が人格を形成するという特異な事例に大いに関わっていて、その関係性はきっと親子にも似たものだった。


「あー、うるせぇな」


 わざと察せられる程度に情報を撒いた、ハイロの罠。


 なるほど、話だけを聞けばシャルはハイロと共に歩むのが一番いいようにも聞こえる。シャルが孤立する原因となったのは他ならぬハイロ本人な訳だが、これはたまたまそうだったというだけだ。強国の野心が少しばかりの障害に負ける訳もなく、例えハイロが直接関わらなくとも、手段形を変えていずれ小国は滅びシャルは一人になっていた。


「譲れないものがあるのが、そっちだけだと思うなよ」


 すでに説得を諦めたのか、ストリックが啖呵を放つ。


「進みたい道があるなら、自分で勝ち取れよ。いつまでも誰かに手を引いてもらえると思うな。お前……クシャーナと話したんだろう?」

「……!!」


 ストリックが初めてシャルに投げかけた言葉。


 お喋りはこれでお終いとばかりに、再び武器を構え直す。ストリックが選択した神器に宿るシャルへの敵対行為、これはハイロの思うつぼである。それを分かっているからか、ハイロも何も言わない。涙を拭うシャルは思うところがあったのか、神器を構え直し再びストリックに相対する。


『私の仲間がきっと来てくれると思うんだけど……信用できるかどうかは、シャルが決めてよ。大丈夫、殺しても死なないような目つきの悪いのが来るから。ふふ、いやいや冗談じゃなくて』


 真っ白い澄んだ空間で交わした言葉。


 スッと人の懐に入り込む様な、人懐っこい笑み。神秘的な瞳や容貌からは想像もつかない気さくな性格にすでに心を許していたシャルは、()()()()()クシャーナの身体を借りていた。大きな大きな悲しみに翻弄されていたシャルは、寄り添う言葉と奮い立たせる言葉、両方を聞いた上で神器を構える選択をした。


「神器:【究明の氷杖エデンアイス】シャルナ=フローデン」

「"十拳"が一人、ストリック=ウラレンシス」


 神器が輝き、クシャーナの様相が変わる。


 纏っていた蒼いドレスが白く染まり、髪も薄紫に変わる。蒼い瞳はそのままだが、その中には氷の結晶のような煌めきが見えた。背中には天女のような羽衣が展開されている。神器の力を解放したシャルの現身、背丈などは変わることはないが、出力は先ほどの比ではないだろう。それでも相対するストリックは、凶悪な笑みで嬉々として迎え撃つ。


「目つきわる……ふふ」


 シャルが零した声は激突する音に掻き消され、誰に届くこともなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ